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魔法のお庭物語ーまじまじー  作者: 朝乃 ことり
1/86

白狐の青年

  曾祖母が一か月前に他界し、親戚の間で、曾祖母の屋敷と庭の管理を誰がするか、という話になったとき、

真っ先に名前が挙がったのが私だった。理由は一番暇そうだからだったらしい。

一応私も仕事はしている。周囲には、部屋に引きこもっているだけに見えるらしい。

物書きの扱いなど、だいたいこんなものだろうと、諦めているから、私は親戚の指名に従った。

どこでも仕事はできるのだから、問題ない。曾祖母の屋敷と庭は、美しく、とても環境がいい。

たまには、庭に出て見たくもなるだろう。気分転換しながらの作業には、うってつけだ。

 曾祖母の屋敷のほうは、はじめから綺麗に整理されていて、そのまま移り住めた。

庭は少し荒れていたが、ちょっと手入れするだけで、綺麗になった。手入れしてから数日で、庭の植物たちは生命力に溢れ、庭の池の水は澄、輝きだした。不思議な光景だったが、人がいるいないで

これだけ庭というものは、違うものなんだと一人で納得していた。

 そう言う訳で私はこの屋敷と庭の主となり、独りでのんびり暮らし出した。

 

 ただずいぶん後になって、知ったことだが、この曾祖母の庭は異界に繋がる不思議のガーデンだったのだ。


1

 初夏から曾祖母の屋敷に移り住みだした。そして今年の夏はあっという間に行ってしまった。

茶菓子をかじりながら縁側で秋のおとずれかけた庭を、ぼうっと見ていると、

庭の中心に白い生き物が現れた。白狐だ。瞬きをしてもう一度目をやると白狐の姿は消えていた。

「見間違いかな」

独り言をつぶやいて縁側にごろんと寝転ぶと庭から男の声がした。

「見間違いではありませんぞ」

驚いて飛び起き、声のする方を見ると白い長髪に袴姿の長身の青年が立っていた。

「いきなり声をかけて失礼した

まじの主殿 こちらの庭にお邪魔してしばらく療養したいのだがよろしいか?」

青年の頭にはケモノの耳が生えている。

恐る恐る私は尋ねた。

「あの…どちらさまでしょう?」

「失礼 では名乗らせていただこう

私は月守神社の神狐 名を弥勒童という

以後見知りおいてくだされ」

漫画の設定みたいな自己紹介だ、ただの悪ふざけか最近はやっている遊びなのかわからない

とりあえずあいさつされたので、追い出すわけにもいかない。

「はぁ コスプレの撮影か何かですか?家が映らないのであれば好きにしてください」

「好きにしてよいのか ありがたい」

青年は笑顔で礼を言う。悪い子ではないようなので少し安心した。

風が吹き砂煙が上がりおさまると、青年がいた場所に白狐がいた。

その日から白狐はほぼ毎日庭に現れた。庭を荒らすでも暴れるでもないので

気にせずに私は過ごした。

 ある日庭の中心で巨大なネズミが死んでいた。たちの悪いいたずらか何かだろう

迷惑なことをする輩がいるものだ。庭に穴を掘り巨大ネズミを埋めようとしていると、

後ろから声がした。

「まじの主殿礼の化けネズミはお気に召されたか?」

この前の青年だった。

「ちょっと!好きにしていいって言ったけど 庭にこんなもの捨てないでくれる?」

私の怒りに呆然として青年は言った。

「まじの主殿にはお気に召されなかったか 申し訳ない

化けネズミの体は持ち帰りましょう」

ひょいと巨大ネズミを片手でつかむと青年は砂煙と一緒に消えていった。


 後日、今度は庭の中心につづらがおかれていた。

怖くて開けられず、放っておいたら青年が庭に現れた。

「このつづらはマジの主殿へのお礼です 受け取っていただけないか」

「またあなたですか 庭に変なものを置かないでください」

「中身はご覧に?」

「みてませんよ!」

「では 一度ご覧ください気に入らないとあらば持ち帰りましょう」

そう言うと青年は勝手につづらを開けた。

恐る恐る反目で中身を見ると中身は美しい袴だった。

「素敵な着物ですね」

素直に感想を言うと青年はうれしそうに微笑んだ。

「お気に召されて何より

どうぞ お納めくだされ」

「え?こんな良いもの受け取れませんよ」

「庭をお借りした御礼です

受け取っていただかないと私の面目が立ちません」

コスプレイヤーのマナーなのかわからないが 貰っておかなければ

また庭に変なものを置かれる気がしたので貰うことにした。

「御礼をもらうほどのことはしていないと思いますが

せっかくですのでいただきます ありがとうございます」

「我が主も喜ばれることでしょう」

「では主様にもおれいを伝えていただけますか?

どちらの方でしょうか?」

「はい お伝えいたします 我が主は月守神社の主神にございまする」

「え?」

「ではこれにて まじの主殿」

青年は砂煙と共に消えた。

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