戦果報告書
「今日も平和だ書類が多い!」
窓から大きな声で不満を叫ぶ私の名前はクローディア・テルマン。
華麗な外見とは裏腹に軍部の上役でもある、とは言ってもお飾りなんだけどね?
特技は書類整理と人形繰り、嫌いな事は書類整理と戦争、天性の才があっても、私自身の行いたい事とは関係の無い事をさせられる。
よくある事だがそれが私には我慢できなかった、だからこうやって後方で書類整理をしている。
そんな事を思っていると、ノックも無しにガチャリとドアが開かれる。執事姿にモノクルと切れ長の口元が印象的な、悪魔のような男。
私の世話役兼部下のヴァルスト・トルテ、代々続く文官の家系だが、
武門にも明るい文武両道の家系、もっとも彼らが前線に出るイコールで、
国家存亡の危機であり、その特性上王の懐刀とも言われている。
「クローディア様、追加の書類です」
「ウォォォォォォ!!貴様等鬼かぁ!?見ろこの書類の山を!」
そう言って私が指さした先には、山のようになった書類のが地面に素置きされていた。
泣きながら処理しても処理しても湧き上がってくる書類の山、絶対他の奴等が此方で処理しなくて良い書類まで回してるに違いない。
「それで処理してくれるなら鬼で結構ですが?」
ズドン、と無慈悲な山脈が新たに敵として加わる。
おお神よ、慈悲を下さいマジで。
「くぉぉぉぉざっけんなぁぁぁぁぁぁ!!男なら拳一つで勝負せんかい!!」
フォンと拳を振るいながら、トルテを殴ろうと踏み込むと、その拳を書類の束で防がれた。
「では、この書類の束に目を通して下さい、それで今日一日の業務は私が請け負いましょう」
「ほ、本当か!?お前いつの間に鬼から菩薩にジョブチェンジした!?」
そう言いながら書類を取り上げ目を通していく、どうやら前線の報告書のようだが……
「……………おい、コレマジ?」
「大マジです、ちなみに件の彼は今此処の街に来てますよ?場所は貴方が普段サボりに使っているスポットですよ」
「ちょっと会ってくる、後の仕事は任せた」
報告書を投げ飛ばし、2階の窓から飛び降りながら自らの人形を稼働させ足代わりに使う。
投げ捨てられた書類の1枚をトルテが拾い上げ、その内容に再度目を通す。
*
ミリム砦侵攻作戦報告書の叩き
兵数は双方共に8000程、攻城用人形投入数100体、
斥候よりの報告、ミリム砦より約100人程の工作部隊が出陣、
人形数が当初の予定よりも多い為、10体を選抜し強襲、
これに成功、無傷にて死者12名負傷者16名の戦果を上げる。
兵に上級指揮官らしき者を見るも現場判断で追撃は困難と見る、
一旦報告の為損耗の少ない5体を強行威力偵察に使用し、情報収集に向かわせ、
残り5体を帰還させる。
強行偵察部隊中一体を除き全滅、1体は捕縛される。
人形を破壊したのは見慣れぬ服装の3人組であり、
皆、卓越した武芸者であると思われる。
水が如くに形の変わる剣を操る女と見えぬ斬撃を繰り出す男、
そして礫弾の女、脅威度が最も高いのは礫弾の女と見る。
人形の中枢である頭部と胸部を的確に撃ちぬいた判断力から、
近年噂にされている人形狩りの傭兵かと思われる。
残り二人も人形狩りの可能性はあるが、此方の2人は数で押せば問題無いだろう。
礫弾の女に関しては、高台よりの礫弾が予想される為兵達に大盾の装備を指示する。
夜間、訪問者有り、威力偵察時に見かけた上位指揮官を捉えた流れの人形使い、
王宮仕様と言っても過言では無い程の改造を施された人形を操る男、
どうやら少数民族の出であり、人形技術の開祖の一人が作った隠れ里出身の可能性が高い。
出身については完全にはぐらかされた。
中々に優秀なようで、自分なりに帝国の陣営について調べていたらしく、
詳細とは行かないまでも、此方の確保していた情報と同程度の情報を提供、
一部の差異はあったものの概ね一致、信頼には値しないが信用は出来ると判断、
ある程度の友好的関係を結ぶ為、可能な限りの待遇で迎える。
傭兵の男の要望により、尋問に立ち会う事となった、
当初は渋ったが、尋問を行う兵達の監視の意味合いも持たせ特例とし、コレを許可する。
簡単な尋問開始から数分、突如空に太陽が現れ皆が呆気に取られる。
眩む程の光源に目を奪われていると一つの爆発音が空に聞こえた。
瞬間、パスのつながって居ない男の人形が動き出し、私と男と捉えた捕虜を守るも、
人形に守られた者以外8人は皆一瞬で肉塊へと変わった。
舞い上がる土煙の中男が人形に追撃を指示、土煙が晴た頃にようやく理解したが、
捕虜を奪還されたと男が神妙な顔をしていたのが印象的だった。
事情を聞くと曰く、おそらく同じ出身の者でありその者が好んで使う人形の秘技であるらしく、
敵方に付いたと見るが妥当と言っていた、おそらく近年の人形狩りの傭兵は、
自分たちのような者である可能性が高いとの事。
又、どうやら先の攻撃にて後方にあった拠点にも、少なからず被害があり、
その混乱に乗じ人形狩りの傭兵が単騎駆にて奇襲を行い、人形使い「のみ」が100名全員殺害。
ソレ以外は手付かずという状態から、おそらく人形狩りの傭兵かと思われる。
尚、襲撃者は形の変わる刃を携帯していた事から、此方の人形を破壊した3人組の1人であると推察。
攻城戦用の人形使いが居なくなった為、現場は攻城戦を断念。
此方としては人形使いを失うという痛手を負ったものの、
再度人形使いを集めれば砦の奪還は何時でも可能であるという判断である。
―追記―
重要参考人として、一時的ではあるが傭兵の男を拘束。
里と人形の情報に関しては答えられないの一点張りだったものの、
敵側の情報提供に関しては協力的である、金銭と身分の保証さえしてくれれば、
ある程度の戦闘や一分技術の交換等も行っても良いとの事。
*
「さて……面白い事になりそうですが……どうなりますやら」
カチャリと、腰に付けた刃を鳴らしながら少女が飛び降りた窓を、愉快そうに見つめていた。