メンガーのスポンジ
メイリアの名前を使い、招集を掛けてもらっているのは現状にて最上の指揮権限を持つ者達全五名、そしてこの城に居る戦える兵数は5000程、バックアップ含め8000人と言った所か……
「兵自体の損耗は少ないな、戦闘行動自体に支障は無いが相手が上手く此方の心をへし折りに来ている、それに兵にも指揮官不在の不安が伝染して、使い物にならなくなって来ているな」
率直な意見を述べる、おそらくメイリアもこの件に関しては理解しているだろうが、口に出す事と出さない事では今後の言葉の重みも変わってくる為、布石代わりに言っておく。
「ええ、それに伴っての脱走兵も少しづつ出て来ているようですし……」
不甲斐ない、と言うは簡単だが実際問題として対策を考えてから言うべき言葉だろうか?ひとまずは応急的措置でなんとかかんとか乗り切るしか無いのは確かzだろう。
「幾つか策というのもおこがましいが対応方法はある……とはいえ、木偶人形が考えだした物だから、そう期待してくれても困るが」
「いえ、聞かせて下さい……不甲斐ない事に私の現場指揮能力はそう高くありませんし、策略に関しても平均と言った所です」
その言葉に深く頷く、やはりメイリアは優秀な指揮官だ。
部下を優秀な補佐官を2人もつければ遺憾なくその実力を発揮できる事だろう。
「……一つは我々3人がそれぞれ指揮官の護衛に回る事だ、だが同時に守れるのは3名まででありそれであれば5000という数が足を引っ張るだろう」
分散して指揮を取ったとしても命令系がズタズタにされた今、3人程度ではせいぜい500人に組織的行動をさせるのが精一杯……もっとも、防衛戦であればその限りではないが。
「ええ、でしょうね……」
ふむ、一応アチラも考えてはいたらしい。
「2つ目、私が全部なんとかする、しかし面倒だから基本やらない方針で行く」
ミサイル一発ドカンと打てばだいたいなんとかなるって主人が言ってた。
しかしながら貴重なリソースをこんな所で無駄撃ちするのはいただけない、ガトリングの弾程度ならば頑張ればなんとか作成出来るだろうが、ミサイルを作成となれば話は変わってくる。
現状で補給が望めないのであれば、サバイバリティを低下させるような行為は避けて通りたいというのが本音だろう。
「で、3つ目だが、これは敵の数による。今現状此方を攻め立てている兵力はどの程度だ?」
「おそらく数は兵が数程度に人形が50から100程でしょう」
成る程、相手側は人形を完全に使い捨ての斥候+攻城兵器程度にしか見ていないと見える、あるいは存外高級品扱いなのか?
「人形の数が少ないな……これなら4つ目の策でなんとかなりそうだ」
「4つ目の策?何か打開策が?」
メイリアがキョトンとした顔で聞いてくる。
「ああ、誰も指揮を取らないといったらこの策を強行させてもらう、
まぁ、少しばかりメイリアが怖い目に合うかもしれないが、そこは問題ないだろう」
スっと、立ち上がり寒緋桜にコールを行う。
『緋桜、現状の状況を共有フォルダにアップした、その上でこれから行う策を聞いてもらいたい』
『ッ…急です―――ね?』
『どうした?』
『ロジックに……変化を持たせています、今までッ……通りには行きませんから』
『かなり内部に干渉をかけているようだな、負荷は大丈夫なのか?』
『安全マージンは、確保、してッ―――ますので、大丈夫で……スよ?』
『そうか、あまり改造しすぎないようにな』
『そこは、理解、……てます』
『……まあいいが、とにかく作戦概要を説明する』
本調子では内容だが時間が惜しい、早々に説明してしまおう。
そう思った矢先に、部屋のドアを叩く音が響いた、おそらく指揮権限を持った者……だと思うが……
「どうぞ」
メイリアが訪問者の入室を促すと、おずおず入ってくる男が一人……
気弱そうな男だが……貴族には見えんな。
「ほ、報告致します、あの……指揮権限のある方々は………その、一部兵を率いて後方に……」
「――――逃げたか?皆メイリア程の気概も無いと見える、これでは今回の人形の件が無くとも国の未来は明るかったようだ」
そう、敵国に放たれた炎によって赤く明るく燃え盛るだろう。
メイリアも絶句している、無理もない―――まぁ、今回に限っていえば我々としてはありがたい、やる気のない味方なぞ敵よりも厄介だ。
「メイリア、早馬を使い今回の件をお前と繋がりのあるお偉いさん複数人に流せ、それと今回の件だがバックアッププランを考えたからまぁ落ち着いて聞け」
復権が早くなるだろう、面倒だがそういうアフターケアも仕事の内だ。
『「では、これから概要を説明する」』
二重音声のように緋桜とメイリアに語りかける、面倒だから1回で済ませよう。
*
漆黒の闇に包まれた森林を3人の男女が歩く、一切の光源が無い状態で全員が進むべき道を理解できているのは一重に各々の尋常成らざる認識力の高さだろう。
まぁ、一人は人形で一人は半改造人間、さらにもう一人は魔法使い……ようするに全員インチキではあるが。
そんなインチキ集団が何をしているのかと言うと、神楽椿の考えたかなり緩い策を行わんとする所であった。
「で、これが策か……なんというか他に方法が無かったのか問いたいな?確かに応用性はあるがこれでは」
キルトの握る紐の先端にはでぐるぐる巻に縛られたメイリアが心底不服そうに立っている。
「不服そうだな……元はと言えばソチラの兵達が逃げ出したのが悪いのだろう……」
とりあえず正論で牽制しておく、だって事実なのだ。
「ですが、兵長レベルの者達も居ましたから指揮に問題―――」
「で、その兵長達を指揮する奴らは?その上の奴は?さらに上は?」
「―――居ない、です、はい」
「よろしい、神楽椿をメイリアの影武者代わりに置いてる、暫く大丈夫だろうが行動を起こすに早いにこした事はないだろう」
それはそうと、メイリアの様子はズーンと効果音がなりそうな雰囲気だ、先程から色々元気な緋桜を見習ってほしい。
等と思いながらチラリと緋桜を横目で見るとプイと目線を逸らされた、何か悪いことしただろうか。あるいは何か隠しているのかもしれない。
「で、緋桜、そっちのバイタルはどうだ?」
「オールグリーンです、ソレ以外ありえないですよ」
「―――そうか、戦果を期待している」
「期待されましょう」
どうやら緋桜もかなりやる気のようだ、此方としてもありがたい。
人形でありながら意思がある彼女達にはモチベーションという物が必要だ、それが無ければ彼女たちは本当の人形になってしまうのだから。
さて、それもそれとして、先程確認した地図とから逆算するに、そろそろ敵陣のキャンプと当たってもいい筈だが……
「接近する物体アリ、人形1体と人間6人です」
その言葉に銃のホルスターに手をかける。
最悪発砲も辞さないつもりだが出来る限り無駄弾は使いたくないというのが本音だろう。
そう思い構える。
同時に、少しだけ気になった事が浮かび上がった。
それと―――万が一の可能性でもう聞けないかもしれないので、先に疑問点を一つばかり聞いておこう。
「そういえばメイリア、お前は何故俺たちを雇おうと思った?
普通に考えて怪しすぎる、それにこの作戦だって俺達が連合国側だったら……」
「めぐり合わせが良かったので、運命を信じてみようかなと思っただけですよ、
後はまぁ……一重に好奇心ですかね?」
「なるほど」
少々捻りに欠けるが、まぁ人生とは得てしてこういう物だと割りきっているし。
信じる信じないに至ってはどうでも良い、金と復讐を成せるならば。
等と思っていると、早速一団と接触した。
……メイリアの事前情報通り相手側にマジックユーザーは少ないらしく、
松明を持ち歩いている、装備から察するに斥候ではなく周囲警戒の兵らしい。
「止まれ、何者だ」
高圧的に声を掛ける男が一人、おそらく部隊長格だろう。
「フリーの人形使いだ、少しばかり小銭稼ぎに来たんだが……
生憎身分を証明できる物が無かったので、とりあえず敵の指揮官を捕縛してみた、最悪でも賞金ぐらいはもらえるよな?」
その言葉に目を見開く兵達、だが、隊長らしき男だけは動じなかった。
ふむ、愚鈍という訳でもなさそうだ。
「人形使い人形は何処だ?そっちの女は連れか?」
「いや、見ての通りコイツが人形だ」
手で合図をすると礼儀正しく一礼する寒緋桜、その動作は洗練されており、
まるで何処かの令嬢が如き動きだ。
「――――ハイエンドモデルか!?驚いた……あんた貴族か何かか?」
「だったら良かったんだがな、俺の腕を妬んだ奴にハメられて今じゃ日銭にも困る浮浪者さ、夜逃げ同然で商売道具も何もと置いて来たが、コイツだけは持ち出せたのが唯一の救いさ」
そう言ってトントンと、頭を軽く叩くように撫でる。
「そりゃ……こんな見事な人形を作れるなら妬まれもするだろう……それにこんな美術品を戦闘に使うなんざ……正気じゃねぇよ」
……さっきまでの威圧感たっぷりの口調から打って変わって、
まるで人形マニアのような食付きを見せ始めた。
どうやら良い物人形を良いと判断できる程度の教養は持ちあわせているらしい。
「美術品は言い過ぎだが、外見で威圧感を与えないように出来る限り美しくは作ってある」
「要人警護なんかの為か?」
中々良い目の付け所だ。
「それも一つの大きな理由としてあるが、近接戦になった際に女子供はやはり切りにくいだろう?」
大いに納得したように兵長は頷く、中々面白い奴だ。
「……隊長、興奮するのは分かりますが」
「お、おう、スマン……ハイエンドなんて初めてみるもんだからつい……」
ゴホンと、咳払いをしつつ改めて此方を見据える兵長(仮)
中々に好感を持てる男だが、一応立場上では敵にあたるのだ、油断だけは無いようにしておこう。
「そうだな、此方としてもソチラの言うことを信じてやりたいが……まぁ正直な話怪しいというのが本音だ」
当然の反応と言えるだろう、むしろこれですんなり通ったら此方が罠を疑う。
「もっともだ、とはいえ、何をすれば信じてもらえる?」
「あー……それなんだが………ひとまず人形師達をお前の監視につけている間に、そっちの女を尋問させてもらう、ある程度確認できたら信じよう」
ふむ、願ったりかなったりだ。
「ああ、言っておくが俺はともかく俺の人形は滅茶苦茶強い、念を入れるならば人形使い全員で囲んでおいた方がいいぞ?」
その言葉を聞いてニヤリと笑う兵長(仮)
「はは、なら手足だけでもしばっとこうかね」
藪蛇だったか?
「ならせめて足だけにしてくれ、手は商売道具だからな……ついでに言うと足を結ぶなら担いで運んでくれ」
「注文が多いなアンタ……まぁいいけどよ」
そういって、捕縛用の足枷を取り出す兵士を横目に、
この穴だらけな作戦の第一段階が成功した事を素直に喜ぶのであった。
時間よ止まれ私は忙しい