ソウルフレンド小田原
「成る程、現状は把握した」
森林を歩く2人と2体はメイリアの話を聞きながら帝国側の防衛戦であるミリム砦を目指す。
メイリア曰く、ミリム砦から出陣してやや遠方に防衛用の設備を構築しようとした所を、
少数の人形部隊からの奇襲を喰らい散り散りになっていたらしい。
「ミリム砦というのは防衛機構に優れていないのか?」
「いいえ、国境線の防衛施設なので非常に優れています、
山岳部に建造され防衛用の溝も掘られていますし、湧き水もあります、
ですが……これらは全て人間を相手にして作成された物です」
「人形は考慮していないという事か」
聞いた話によると、人形とは此処数年で猛威を振るう対帝国用の技術らしく、
その技術を御旗に、これまで辛酸を嘗めさせられた周辺諸国や、
帝国に滅ぼされた国の残滓が集まって大攻勢を行っているそうだ。
完全に自業自得なのである。
「戦略ゲームで言う所の、勢力が大きくなりすぎたせいで発生する臨時同盟みたいな物か」
「戦略ゲーム?ですか?」
「いや、なんでもない此方の話だ」
「……そういえば、先程から後鬼さんしか話をしていませんが、
後ろのお二人は此方の国の言葉を知らないのでしょうか?」
その言葉にキルトがピクリと反応する。
「――別に話せない訳じゃないが、話すときぐらい顔を見せろ」
別に黙っていた訳ではなく、今必死に後鬼から頭部に埋め込まれたマイクロチップ越しに送られて来る情報を、
必死に学習しているだけなのではあるが、少し見栄を張りたいお年ごろなのである。
「申し訳ありません、これでどうでしょうか」
カシャリと、その兜のバイザーを上げると陶磁器のような白い肌に金髪、そして優しげな青い瞳が見えた。
美人――というよりも何方かというと。
「出来の良い美術品見たいだ」
『ッチ、マスターの毛根をバーナーで一本一本焼き潰してあげましょうか?
人形に対する褒め言葉じゃないんですよ?』
「……すまん、女心というのが分からなくてな、人形師として最大の賛辞と受け取ってくれるとありがたい」
「いえ、そんな……」
少し照れくさそうに笑うメイリア、聞きようによっては罵倒のように捉えられてもおかしくないが、
彼女は好意的に判断してくれたようだ。
しかし、そんな二人を恨めしそうに見つめる人形が1体。
『賛辞というより貴方の頭が惨事になりかけているぞ、主人』
その言葉に振り返ると前鬼が真後ろに立って此方を睨んでいた、
後鬼の言葉が無ければ毛根が死滅していた事請け合いである。
『前鬼、何故俺の毛根をそんなに恨む!?』
『わかりませんか、いい加減に禿げろと言ってるんですよ駄マスター』
『駄マスターってお前……フン、そういう行動ならば此方にも考えがある』
そう言って僅かに微笑むと、後鬼に振り返り――――
「ふむ、後鬼という名前もそちらの国では悪目立ちするだろう、
役職名ではなくキチンとした名前をつけようと思うのだが?」
それは即ち、キルト・カルトの銘で作られた正式な人形であると認められ、
後世まで残される、一つの技術の集大成であると主人自身から認められた事になるのだ。意識ある人形にとって最大の誉である。
場合によっては作者の息子、その孫などと、受け継がれ家その物に仕える御意見番的存在になる事もありえるからだ。
「なっ!?ほ、本当か主人よ!!!」
「わ、私にも――――」
「ただし前鬼、テメェは駄目だ」
「ド鬼畜生がァ!!」
フォン!と股間めがけて前鬼の蹴りが襲い来るも、難なく回避するキルト。
「お前は実験機だと言った筈だ、完成形までまだまだほど遠い」
そんなキルトを親の敵でも見るかのような形相で攻め立てる前鬼、
名前負けしない程に鬼気迫っている。
「鬼!悪魔!外道!鬼畜!悪鬼羅刹!!」
「主人!名前を!はよ!!」
「………後鬼はとりあえず落ち着け、前鬼は謝罪すれば考え――」
「申し訳ございませんでした!」
見事な土下座が炸裂した、その間実に0.023秒、もはやコマ送りの世界である。
「お……おう」
……本当は軽くからかうつもりだったのだが、思ったよりも酷い事になった。
人生本当に何が起きるか分からない。
「フフッ」
メイリアが笑う、いや、無理も無いだろう。
誰だって目の前でこんな漫才みせられれば笑う、多分。
「ごめんなさい、以外と気さくな人で安心しただけです。
ずっと怖い顔で黙っていたから……」
「マスターのむっつりは今に始まった事ではありません、
大体難しい事を考えているか、明日の夕食を考えているか、
人形の新しい技術を考えているかのどれかです」
「そこまで単純ではないが、まぁ、大体あっている」
「主人!名前!なーまーえー!!」
騒がしい事この上ない一団が、森の中を歩んでいく、
今この国に起きている悲惨さを一切見せないのは、彼らが脳天気なのか、
あるいは理解した上で今を楽しんでいるのか、そこまでは誰も分からなかった。
*
早歩きで1時間30分程だろうか?
噂に聞く防衛施設、ミリム砦がそこにあった。
石造りの重厚な外見、湧き水を利用した大型の水路に幾つもの木柵。
攻めづらい事この上ない、ここで普通の射撃戦をしたとすれば、衛側が圧倒的すぎて話にならないレベルだ。ただし人形は除く。
「見事な作りだ、これなら安々とは抜けんな、人形以外で」
「ああ、実に見事な建築だ……私が兵であっても将であっても、攻めたくはないだろう、人形以外で」
「――これは見事です、原始的な攻城兵器では早々抜けないでしょう、人形なら話は別ですが」
「褒めてるのかけなしているのかわかりづらいですね」
「「「褒めてる」」」
「左様ですか……」
三者一同が答える、実際にこの城を通常兵器で抜こうと思えばかなりキツイだろう。建築者の手腕が伺える、小田原城に山岳地帯特有の建造をプラスした文字通り鬼のような城だ。
「事実人形以外で攻めようと思えば兵力10倍差ぐらい無ければキツイだろう、人形を使っても最低50は無いと落とせないな……」
「はい、ですが敵は此方の城に最低でも150近い人形を投入してくると推察されます」
(……夜襲を喰らえば、まず第一の堀はないものと考えた方がいいな)
人形は夜も関係なく動け、隠密性に優れる。
夜襲を喰らえばまず堀の一つ目に備えられた吊り橋を一瞬で落とされると思って良い。
そこで夜襲に気づいて二層目の堀から防衛を開始したとしても、25体程で周囲から一斉に襲わせれば数分で落ちる。
命を持たない、命を顧みない、高い身体能力、故に出来る作戦だ。
正攻法では間違いなく攻略は不可能だろう。
等と考えていると、吊り橋と人だかりが見えてきた。
どうやら先程逃走して来た兵達が、立ち往生を食らっているらしい。
「見えてきました、説明するので少し此処で待っていて下さい、
多分後で話を聞かれると思いますが、口裏を合わせて下さいね?」
そうウィンクしながらメイリアは走りだす。
『待機、現在の損耗確認』
『後鬼改め神楽椿!損傷皆無!絶好調だ!』
『前鬼改め寒緋桜、システムオールグリーン、損傷しなければ後30回の全力戦闘を行えます』
『宜しい、今回の目標はクライアントの安全を確保した後、クライアントの家で前金を受け取り簡易メンテナンスを行った後、標的の首を跳ねに向かう、ここまでで質問は?』
『問、弾薬の補給は?』
確かに死活問題だが……
『現状では目処が立っていない、緋桜、椿に前線用のOSと情報を一部送ってやってくれ、最悪近接戦になる事も考えねばならない』
『承知しました、椿、無駄撃ちは控えるように』
『後、それに伴いロケット砲とショートミサイル、キャニスターミサイルの大型火気使用を一時禁止する、使用時は此方に申請を行ってくれ』
『投擲弾は?』
『構わんが数は少ないだろう、あまり無駄に使うなよ』
『承知している、緋桜の武装使用に関しては?』
『収束解除と重力制御は申請、慣性制御は判断に応じて使え』
『承知、確かに収束解除は被害が大きいですからね』
ひと通りの相談が済んだ所でメイリアが兵と一緒に駆け寄ってきた。
どうやらアチラも話が付いたらしい。
「貴方がメイリア様の兄君ですか、色々と大変でしたね」
成る程、そういう感じで行くのか。
「メイリアからどこまで聞いた?」
「……妾の子で他の国まで逃されたと、メイリア様の父上が裏切られ連合国に付いた際に、急いで手紙を出したとか……人形技術はやはり連合国で?」
「――――いや」
「兄様、長旅の疲れもありますし……」
メイリアが慌てて止に入った、どうやらボロが出る前に手早く撤退する魂胆らしい、もっとも吊り橋が下がって居な―――
『マスター!』
『此方も捉えた!』
「敵襲!敵は人形の斥候!数5!」
大声で叫ぶ、間違いなく敵の人形だろう。
おそらく使い潰しの威力偵察と言った所だが……
「オイ!はやく橋を降ろせ!こっちにはメイリア様も居らっしゃるんだぞ!?」
後ろで兵達が騒ぎ立てる、我が身可愛さもあるだろうが……まぁ当然の行動か、――それと、どうやらメイリアはそれなりの有力者らしい、兵達の行動からそれが見て取れる。
『普通に考えて降ろさんだろうな、緋桜、椿、2体づつ頼む、此方は1体を』
『……ッチ、信用を与える為とは言え無茶を』
『主人、死ぬなよ?死んだら泣くからな!せっかく名前をもらったんだからな!?』
『人形なのに泣けるとかいつの間に俺の知らない機能が付いたんだよお前は』
クツクツと笑いながら敵の来る方角を見据える、
さぁ、人形解体の時間だ。
PC壊れた、新しいのが買える、やったぜ!(預金口座から目を逸らしながら)