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人形2体と行く異世界  作者: 砂上天秤
2/9

MARIA


「隊長!左から敵影確認!クソッ奇襲かよ!連合国の化け物共が!」


まるで飛翔するかのように跳躍するソレを視認した。

間違い無い、忌々しい連合国の指揮官モデルの人形だ。


「慌てるな!3人で取り囲んで仕留め……!」


言いかけた瞬間に、ソレは起きた。


『短期重力操作』


上空遥か上に居た筈のその人形が一瞬で着地し、全ての事象を置き去りに、

その人形は直進する、その様はさながら解き放たれた弾丸と言うべきか。


「は、はやっ―――」


一閃、目では追えぬ速度でそれは駆け、トン、と軽く隣の戦友の胸を叩く。

一瞬の停止、後に訪れる爆音と衝撃、それは人形が音を追い抜かした証明であり、

―――その速度で胸を叩かれた戦友の死刑宣告。


声を出すことすら許されず、友は遥か後方に吹き飛ばされた。

おそらく痛みすら感じる事なく即死しただろう。


不条理の化け物、理外の化け物、それが人形だが……コレは存知のソレを大幅に上回っている。

襲い来る暴風に身体を打ち付けられ、吹き飛ばされ――意識はそこで途絶えた。


                   *


「おい、整備ができんと言ったのに何故本気出してるかお前は」


音速を突破した轟音が響いた事から察するに、重力操作ユニットを使用したのは間違い無いだろう。

試験装置なので正直万全の設備施設が無い状態で使われると、万が一にも故障した場合困るのだ。


『重力操作で負担軽減は行っていますので、問題はないかと』


「短期重力操作ユニットへの負担を考えろ、雑魚相手に使う必要も無い」


『ッチ、細かいですね禿ますよ禿げろ』


「……生え際はどうでもいいから早く適当に連れて帰ってこい」


『委細承知』


文字通りひとっ飛びで此方まで飛来してくる前鬼を眼に捉えた。

その手には一人の兵士が握られていたが、何を思ったのかその兵を天高くに投げ飛ばした。


そして四足の獣の如くにその四肢でもって全ての衝撃を殺す。

されど速度殺しきれず、そのまま横滑りをしつつ、数メートルスライドの後に停止した。


前鬼は事も無げにパンパンと手袋に付いた汚れを落とすと、見計らったかのように、

落下してきた兵士をキャッチする。


「お見事、じゃぁ戦争屋達と距離を取るぞ」


「主人、見てくれキノコを拾った!」


「………お、おう……凄いけどとりあえず逃げような?」


「ああ、理解している、だが凄いだろうこのキノコ……実に立派だ」


うっとりとしながらキノコを見つめる後鬼、いや、キノコは俺も好きだが、

どうにも後鬼は感性がズレている。


「後鬼、そのキノコは後ほど調べて毒がなければ栽培しましょう、

きっと良いお鍋の材料になります」


………鍋か、確かに良いかもしれん。


「鍋にしろ何にしろまずは情報収集だ、離脱するぞ」


コクリと全員が頷くと脱兎の如く駆け出した。



              *


人生には不条理という物が常に付随する、例えば私の今の状況もそうだろう。


「――――――」


目の前の男が聞いた事の無い言語で何かを話している。

………連合国、それも僻地の者なのでしょう。

人形使いとしての腕が良いからというだけの理由……いや、それは大きい理由になりうるか。

なんせ連合国は今や爵位の大安売りです、戦果を上げれば上げた分だけ思いのままの出世が可能なのだから。

そういう意味では目の前の男は―――破格。


もはや人にしか見えない士官クラスの人形を二体も制御し、

尚且つ本人が人形繰りを行っているようにも見えない。

隠しているのか人形側に何か細工があるのかどうなのか、ソレすらも理解不能。

幾度となく人形遣いと戦ってきたから分かる、この男は明らかに異常だ。


「――――――――?――――??」


所で、この目の前の男は先程から何を言っているのでしょうか?

キノコを片手にもって指をさして……ああ、食べれるか聞いているかな?


とりあえず頷いてみる。いや、キノコの事とか一切知らないけど、

……食べれるんじゃないかな、たぶんおそらくきっとふぃらいひと。


「―――!!」


何故か大喜びして、それを人形に手渡し――――


「なっ!?」


思わず声を上げた、人形が何処からともなく火を出し炙り始めた。


「そんなバカな!どうして人形が魔法を使えるんですか!?」


思わず叫ぶ。原則として人形は魔法の行使はできない筈で、

魔法は我々帝国側の機密、辺境の人形遣いが持っている理由など無い筈です。


「―!―――!!」


此方が喋ったのを見ると、何やら一人と二体で騒ぎ出しました、

この人達は一体何が目的なのでしょうか?此方を殺すでも捕虜にするでもなく、

先程からずっと何かを―――


「―、―、―、―?」


人形は知らぬ言葉で何かを話す。


「貴方達は何ですか!?一体どうやって魔法技術を分析したのですか!?」


「こ、―、―、に?」


「――――え?」


「こ、れ、な、に?」


人形が我々の言葉で喋る。

キノコを指指して、拙く喋る。


「あ……なたは……?」


「アナタと――」


そう言って私に指を刺す。


「私と同じ?」


「アナタと同じ」


今度は首を横に振る。


「私と同じじゃない?」


「アナタと同じじゃない」


「はい、いいえ、きっと、あなた、それ、これ、どれ、きっと」


急に狂ったように話始める、意味の無い、されど意味のある羅列を並べる人形。


「アナタの、名前は?」


――――私の、名前は。


「………メイリア」


「メイリア、私の名前はゴキ、話、する」


ニコリと微笑む美しい人形、

それは、私の世界が変わる出会いだったのかもしれない。



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