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限界英雄  作者: 703
9/12

Speak and not Part

私、鈴木 乃華は人間と限界の拗れを

解消するために、警視総監さんに

説得を試み、結果は成功。そして今

警視総監さんの口から限界の起源が

話されようとしている。



「限界の起源、それは

2人の科学者が永遠の命を探し

結果を見つけた時だった」



「どういうことですか…⁉︎」


警視総監さんは、椅子に腰掛け

ゆっくりと溜息する。そして

私の疑問を聞くと軽く頷き

話を続け始める。



「3年前の事、とある研究所で

途轍も無い発表が2つされたんだ…

1つ目は、人体の総力を数値として表し

個人で自分を管理する技術…

2つ目は、人体を変質化させ超人的な

力を発生させる技術…‼︎」


「…待ってください、それって…‼︎」



「その通り、言わば

限界を生み出す技術だ」



たった3年前に、そんな技術が

生み出されていたなんて…

それに、そんなものを

生み出した人って…どんな…



「その技術の生みの親の名は

東雲しののめ せん天見あまみ こうという科学者

今はそれぞれ、別の道を歩いている」


たった2人の科学者が

世界を変えるような技術を…


「詳しく、教えてくれませんか?」


「…。」


私の言葉に、遠くを見るような目で

天井を見上げ、語り始める



「その2人は共に永遠の命を求めた…

東雲君は人体に増加可能な数値カウントという

枷を付け、命を管理する方法

天見君は人体を変化させ、環境に

適応する方法を見出し、そして…

いつの日か、それらは共同研究となった

…自身の範囲内で人体を変質・強化し

一定条件の遂行により、それを

永久に可能とする超人…限界リミッターの誕生だ」



「…。」


あまりに明確な話で、疑問さえ

もう出てこない…



「そして、その生み出された技術は

L-因子という、薬に似た形で

可哀想な話だが…世の孤児達に

投与されたのだよ」


「そんな…‼︎

そんな事、なんで‼︎」


罪も無い子供達に、危険な物を…‼︎

人体実験のつもりなの…⁉︎



「もちろん、倫理的には

逸脱している行為だ、しかし当時は

このままでは何もできない子供達に

可能性を与える事として考えられ

印象は良かった…」


「結果、問題は無かったんですか…⁉︎」


この人に怒っても意味の無いことくらい

理解はしてる…。でも、納得いかない…‼︎

限界の恐ろしさを、知っているから…‼︎



「問題は、1…いや2点現れた」


「限界の暴走ですか…?」



「結果的にはそうなるが、原因がある…

他国がL-因子の培養を始めた…‼︎」



「培養…⁉︎」



「東雲君も天見君も愕然としていた

自分達しか作れないと思っていた物を

犯罪の道具としてコピーされ

世界中に無益な犠牲が出た…‼︎

…そして」



「なんですか…⁉︎」


黙り込んだということは

L-因子培養以上の問題が出たって

ことに違い無い…それって…



「東雲君と天見君が最悪の事態に

備えて創り出した三種のL-因子

'天・地・人'その内の一種が盗まれた」


「天地人の…L-因子…?」


「結果、零の悪魔が生まれ

数々の街や都市が滅び去った…」


零の悪魔…‼︎

シアちゃんが言ってた最悪の限界…



「可笑しな話だ、力を管理し

国を守るはずの三種の神器が

勝手に国を滅ぼし始めたのだよ」


警視総監は、頭に手を当て

苦笑いしている。その様子から

凄惨な事態が見て取れるようだ



「…ですが、確か限界英雄が

零の悪魔を倒したんでしょう⁉︎」


「そうだ、同じく天地人の一つ

英雄の因子が平和を齎した…しかし」


苦虫を噛み潰したような顔…

まだ、悲劇が続いたの…?



「犠牲は大きかった…

零の悪魔討伐と引き換えに

二人の科学者は未来の夫、親友を

無くすことになった…」


「誰なんですか、その人は…」


私の問いに無言で応じ

精魂尽き果てたかのように溜息を吐く



「それ以上は、私もよく知らない

…東雲君に聞いても話しては

くれないだろうな」


「東雲さんがどこにいるか

わかるんですか…?

一度、お話を聞いてみたいです…」



「…?」


「え…?」


なんですか、その、なに言ってんの?

っていう表情は…私、何か

変なこと言いましたか…⁉︎



「キミは間違い無く

あったことがあるだろう

キミの上司だよ」



私の…上司?

と言うと…え〜…



「…課長ですか⁉︎」



「そうだよ、彼女が東雲 閃

階級は警視監なんだが

勝手に特警課を作って居着いて

困らされてばかりだよ…」


「はぁ⁉︎警視監⁉︎あの人が⁉︎

2番目に偉い役職じゃないですか‼︎

なんで警察署にいるんですか⁉︎」


「私に言われても…

彼女は昔から勝手が多くてなぁ…」



信じられない…‼︎

謎が多い人だとは思ってたけど

なんで教えてくれなかったの…⁉︎



「まぁ、詳しいことは

本人に聞くと良い…

気付かぬ内に日も暮れて来た

私も忙がしい身なのでね

またの機会に話をしよう」


「は、はい…‼︎

お忙しい中、どうも…」


…言われて見れば、もう夕方だ

早く帰らないと課長…いや警視監さんに

何て言われるか…‼︎



「あ、そうだ…最後にキミに

聴きたい事がある」


「え、なんでしょう…⁉︎」


急に振り返る警視総監さん

口調は変わってないが

目の力は強まっているように見える…



「因子消滅弾は…

あと何発あるかね?」


「えと…、2発です

あと2発あります」


懐に入れてある拳銃

因子消滅弾を貰って入れてから

弾丸はそのままだから前から2番目と

4番目に因子消滅弾が装填されてある



「そうかね

それは大事に使いたまえ

国の存亡が掛かっているのでね」


「国の存亡…⁉︎

待ってください…‼︎

それってどういう意味ですか⁉︎」


「失礼するよ」


私の質問に答えず

退室してしまった警視総監

国の存亡…?確かに、これは

限界を完全に葬る力がある

でも、残り2発…私にどうしろと…




-特警課トレーラー前-


「遅い…、亀に走り方を

教えてもらったらどうだ?」


「すみませんでした…」


帰還早々に罵倒ですか。慣れてますけど

ていうか、あなたは今まで

何してたんですか…⁉︎

私が大変な思いをしている間に…‼︎



「これでも頑張ったんですよ!

あなたは何をしていたんですか

東雲警視監!」



「あぁ⁉︎」



「ひぃ…‼︎」


なんですか、その鬼のような顔は…‼︎



「あのオッサンに聞いたのか⁉︎

どこまで聞いた⁉︎答えろ‼︎オイ‼︎」


怖いです恐いですよ‼︎

胸倉掴まないで‼︎揺らさないで‼︎

服が伸びますから‼︎



「答えろォッ‼︎」


「けぇ、警視総監さんからぁ!

限界の起源がぁ!あなたとかぁ!

因子の培養とかぁ!三種の神器とかぁ!

だいたいその辺ですぅっ‼︎」



「チッ…

ヤロウ、いらんことを…」


「ぐへ…っ」


急に離さないでください…

頭ぶつけた…



「なんでそんなに…

怒ってるんですか…⁉︎」


「私が知らない内に

物事が進んでるのが気に食わないのよ」


身勝手な…



「私の呼び名は'課長'、良いわね?」


「あ…はい」


拒否権が無いことくらい

知ってますからね…



「…ところで、課長って

何歳なんですか?私は22ですけど」


「アンタが思ってるより

若く無いことだけは教えてあげる」


「…。」


警視監って、普通

50過ぎの人がなるものなんだけど…

24くらいにしか見えないんだよなぁ…


「魔女は、歳を取らないのよ」


「あぁ、なるほど!」


なんかすごい納得

回答が質問にストレートに…



「くだらない問答より重要な事が優先

とっとと車に入れ…!」


「すぐ行きますよ…!」


やっぱりまだ、重要な事あるのか…

…私も、聞きたい事があったな



-特警課-


車内に入るとソファで

ゼマ君とシアちゃんが何やら話してる

表情を見る限り、良い話じゃ

無いみたいだけど…



「あ、乃華さん!

聞きましたよ、警視総監を説得して

最悪の事態を打破したと」


「お疲れ様です。何か、飲み物でも…

持って来ましょうか?」


「ううん…大丈夫よ

大したことしてないから」


「それを知った上で2人共言ってんのよ」


…そりゃ、どうも



「で、会議を始めるけど

最初に一番重要な事を教えるわ」


そう言うと、懐から何か取り出す課長

…見たところ、手紙?



「明日の朝10時、この警察署に

あっちのボスが来るわ

…何をしに来るか、説明は不要よね?」


手紙に軽く目を通した後

課長は鋭い視線をこちらに向ける

雰囲気だけでわかる…戦争だ



「オマケに近くの公園で配下も

暴れるみたいね、同時テロよ」


「配下は猛虎と悪魔、2人います

両方でしょうか?」


「ほぼ間違いなく猛虎一人よ

何せ、この手紙の送り主が

限界悪魔 ロアなのよ」


「え…⁉︎」


驚くゼマ君、無理も無い

昨日、殺されかけた限界が

手助けしてくれてるなんて

私も信じられないし…



「ロアはあっちとこっち

有利な方の味方をしてる

どうやら決心したようね」


サバサバした考えの限界だなぁ…

やっぱり、悪魔…か?




-ボスのアジト-


「まったく、ボクは明日は留守番か…」


「警察がこっちに攻めて来た時の為に

残れって言われたじゃ無い」


「あんなの言い訳ですよ…」


「まぁ、ボスも

アンタのこと気に入ってないからねぇ」


「フーさん、明日

頑張ってくださいよ」


「当たり前よ」


アジトで退屈そうに寝転がるロア

自信満々に柔軟するフー


「(まぁ、ボクはもう

こっちに味方しないんだけど…)」




-特警課-


「…ゼマ、仮にロアが寝返らず

敵対したままとして、今度は

ヤツを倒せる?」


「ヤツは卑怯な手を使います

ですが、能力的には分があるので

正攻法に持ち込めれば…」


「明日には一般人が近づかないように

バリケードが敷かれるわ

警察も極力、少なく配置される

その点は抜かり無いハズよ」


「了解しました。何らかで

介入した場合、必ず倒します」



やっぱりプロだなぁ…

一般常識は欠けてるとこあるけど

戦闘に関しては一流だよね



「とりあえず、配置を言うけど

ゼマは警察署でボスと戦ってもらう

悪いけど拒否権は無いわ、アンタしか

ヤツに対抗できる戦力が無いの」


「理解しています

この力は、そのためのものですから」


カウントに触れるゼマ君

覚悟はもう、できてるみたいだ…



「シアは公園で猛虎の相手をして

無理はしなくていいわ

必要なら警察の機動隊を配置する」


「はい…

やれるだけ、戦います…!」


ゼマ君と比べると

やっぱり、つらそうに見える

当たり前だよ、まだ高校生くらいなのに

戦争に駆り出されるんだから…



「私はここで、全体的な指示を行う

とりあえず、言うことに従って動いて」



「…私は?」


「避難指示に従いなさい」


「えぇ⁉︎待ってくださいよ‼︎

私だって何か…‼︎」


「元々、アンタは限界の情報が世間へ

漏れないために、ここに引き入れた

でも、記者会見で限界が世間に

公表された以上、もうそれも必要無い

…それに、今回は一番の山場になる

生半可なものじゃ無い

死んだっておかしく無いわ」


「でも…!」



「私は、私のせいで誰かを殺したく無い

たとえ、それがアンタでもね

…だから退きなさい」


「…。」



「乃華さん、オレからもお願いです

避難してください」


「本当に…危ないですよ」



本当はわかってる…

誰も助けられない…私は

ちょっとだけ、事を知ってるだけの

非力な一般人だ…っ



「じゃあ…失礼します」


情けない気持ちが、体を固くする

でも、この後に及んで

足手まといなんて絶対に嫌だ

…皆、死なないでね…




「乃華さんは…

生きていて、ほしいですよね…」


「ああ、だから明日は

絶対に負けられない」


乃華の背を見送り、決意を改める2人。



「さぁ、もう21時よ

何にしても体力勝負になるわ

休める内に休んでおきなさい」


「了解」 「わかりました…」


2人に言い残すと

扉の方へ歩いて行く課長。



「課長、どうかしましたか?」


「夜間徘徊を注意にね

…気にしなくていいわ」


苦笑を浮かべると、そのまま出て行く。



-特警課トレーラー前-


「帰ったんじゃないの?」


「課長…」


やっぱり気付かれてたか…

まぁ、気付いてもらわないと

いけなかったんだけど



「帰る前に、幾つかの

質問に答えて戴きたいんです」


「2つにしなさい

時間はあまり割きたく無いの」



「じゃあ、一つ目

天見あまみ こうという人物は…やはり」


「今ではボスと、呼ばれているわね

私と同じで勝手してるわ」


「二つ目、因子消滅弾とは

本当に、なんですか?

国の存亡に関わる物なんですか⁉︎」



「あまり大きな声を出さないで

…因子消滅弾は知っての通り

限界を完全に消滅させる力がある

確かに、国の存亡に関わるかもね」


「課長…何か隠してますよね?

弾は3発しか無いし、完璧に

当てられる保証の無い兵器に

そんな大それた力があるとは

思えません…‼︎

具体的に、どう関わるのか

教えてくれませんか…⁉︎」



「…なるほど

少しは頭が回るようね」


「…。」


やっぱり何かあったんだ…‼︎

この弾丸には前から違和感を感じてた…

そもそもどうして、私なんかに

3発全て持たせているのか…

どうして、ガウ君に発砲したのに

咎められないのか…そして

どうして、明日の戦争を前に

戦力に因子消滅弾を入れないのか…?

私が戦力にならないのはわかる…

でも、没収もしないなんて…おかしい



「最初にこれだけは教えてあげる

それはね、私が造ったの」



…それは、理解に難しくない

限界を創った人なら、わけ無いだろうし



「一種の贖罪の為に造ったのよ

自分の創った限界が周りに被害を出して

最悪の事態になる前の対策としてね

…アンタ、生物兵器って知ってる?」


「ウイルスとか…

そういうのですか?」


「そう、因子消滅弾も生物兵器なのよ

弾丸に細菌を注入して造ったの

そして、細菌の餌はある特定の因子

…わかるわよね?」


「L-因子を食べる細菌…⁉︎」



「業界用語がわかるように

なってきたじゃない、そうよ

で、実は細菌とか兵器とか

勝手に造ると違法らしいのよ

それに、今から仲良くしようとしてる

限界を殺す生物兵器なんて

世間にバレた日には逮捕ものね

友好関係も大方悪くなるし

だから、国の存亡に関わるの

アンタに渡したのも、お人好しだから

使う事は無いと思ってのこと

…これでいいかしら?」


「なるほど…」


つまり、また人間と限界の

蟠りの元になるから…

私に渡したのは使わないと

思ったから…か



「…じゃあ、失礼します」


「ええ、さっさと帰んなさい」



こちらに手を振る課長

私は、踵を返してアパートに戻る

…その前に



「課長!」


「何かしら?」



「明日の戦争が終わったら

本当のこと、話してくださいね!」


「…。」



…やっぱりね


「じゃ、おやすみなさい!」



「気付いてたのね…嫌なヤツ」


乃華の背を睨み、溜息を一つ吐く



-車内-


「ゼマ君は…怖く、ないの?」


乃華と課長が車外での会話と同時刻

限界同士でも、問答があった


「オレは、この力を手に入れてから

戦う事が生きる事になったんだ

今更、怖くは無い…それに

ボスとは因縁がある、必ず明日

決着をつける」


弱気は見せず、左手を握るゼマ

…すると



「ゼマ君…実はね、私…今日

ボスと会ったの…」


「ああ、知ってる

力の鱗片も見た…不意打ちとは言え

シアが苦戦した限界3人を

一撃で消滅させた力は途轍も無いな」


「それで…やっぱりボスは

零の悪魔なんじゃないか…って」


「それは絶対に無い」


シアの言葉に苦笑し首を振る



「零の悪魔は…あんなものじゃ無い」


「…ゼマ君…?」


憎しみとも悲しみともつかないが

ゼマは表情を固くする



「何にしても…オレはヤツを倒す

それで、全部終わりにする

…そうしたら、シアを迎えに行くよ」


「え…?」


不意に眼が合い、赤面するシア



「平和になったらデートでもしよう」


「え、えぇ〜…⁉︎

困るよぉ、いきなり…そんな…‼︎」


「嫌か?」


「嫌じゃ、無いけど…‼︎

じゃあ…私、やる事あるから…‼︎

ご、ゴメンね…おやすみ‼︎」


「ああ」


取り乱しながら自身の部屋へ戻るシア

それを、不思議そうに見るゼマ


「…。」


横にもならず、眠りにつくゼマ

決戦の前夜とは思えない態度

そのまま、特警課の夜は更けて行く





-次の日 AM9:40-


涼やかな快晴、数分前に

緊急避難警報が流れ、警察署の

辺り一帯は人の影も無く

風の音だけが呻き声のように流れる



-警察署-


玄関前の広間、数日前に

記者会見が開かれた場所で

ゼマが一人、来るであろう

来訪者を待つ



-特警課-


トレーラーには課長が一人

街一帯を表した特殊なレーダーを

沈黙し、見つめている。

時間は刻一刻と進み…そして



「来る…」



-警察署前-


周囲の空気が重圧に飲まれ

質量を持ったかのように

ゼマの全身に乗し掛かる。

黒いコートを纏った男、ボスが

遂に、ゆっくりと眼前に現れる



「久し振りだな…小僧」


サングラスの奥に隠れた瞳は

揺らぐこと無く、ゼマを捉える



「警察の機動隊が歓迎してくれると

思っていたが、自身の無力さは

弁えているらしいな…だが

…閃、お前くらいは出て来たらどうだ」


周りを見つめ嘲笑い

近くの気に備え付けられた

監視カメラを睨み付ける


『悪いわね、侊

私は、全てを見てなくちゃ

いけないのよ』


ボスの言葉に反応し

課長の声が流れる




「ふん…あの時の償いか

何をしたところで、私とお前の

罪が消えることは無い

所詮は、気休めだ…」


『じゃあ…アンタは

気休めで限界を滅ぼすつもりなの…⁉︎』


「未来の為、必要なことだ

限界は…存在してはならない」


眼を閉じ、深く溜息を吐くボス

そして再び、厳格な眼を開く



「問答は終わりだ

今更、何を言い合っても

分かり合えはしない

閃、お前は英雄の因子を

この罪深い小僧に与え

命運を託したようだが…」


徐に左手に填めた手袋を外し

描かれたカウントを見せ付ける


「全て…

消し去ってくれる…」



瞬間、ボスを取り巻く空気が乱れ

その身体は徐々に姿を変え始める



「これが天地人の因子

その内、天を司る力…」



人の姿を突き破り、神々しく

白き幻獣が天を覆うほどの体躯を現す


限界龍神リミッター・ドラゴン


現れた白龍は、全身を輝かせ

小石ほどの大きさとなったゼマを

燃え上がる視線で凝視する



-特警課-


「予定を上回る力…

やはり、因子をチューンナップして

自身に取り込んでたようね…」


限界龍神をモニターで確認し

能力値を確認する課長は

苦々しい表情で拳を握り締める




-同時刻 警察署周辺の公園-



「ゼマ君…」


警察署から見えた圧倒的な光を不安視し

思わず呟くシア…すると


「なぁに、余所見してんのッ⁉︎」


「く…ッ」


背後からの一撃を

身を翻し避け、向き直る



「アタシを無視してると

痛い目見るよ?」


裂けた口を歪ませ笑うフー


「へぇ、本当にカウントって

増えるんだね…'集中'してると

上がってくんだ…面白いや」


姿勢を低くし、まさに獲物を捉える

猛虎のようにシアに狙いを定める


「(ゼマ君はきっと大丈夫…だから

私はまず、自分のやるべき事を…!)」


息を深く吐き、猛虎に向き合う




-警察署前-


「これが、天の因子…⁉︎」


眼前に現れた規格外の相手に

驚愕するゼマ



「貴様の持つ人の因子と同類の物だ

だが、持ち主を間違えたようだな

貴様と私では力の均衡など無いッ‼︎」


「なッ⁉︎」


龍神の口から放たれる純白の光線

それを、間一髪で避けるゼマ

衝突した広間は高温の光で焼け上がり

赤く溶解する。



「ぐっ…」


当たらずとも熱風に身体を押され

地に倒れ伏す



「どうした…限界英雄の力が

使えないわけではあるまい」


ゼマが起き上がるのを

冷たい視線で待つ

…すると



「…ッ、はぁぁッ‼︎」


チャージされたカウントは5600

その内、2000を支払い

両脚、左腕に迸る赤白い光を溜め

真っ正面から龍神に飛び掛かる



「ゼェアッ‼︎」


全身の力を込めた一撃は

龍神の防御姿勢より速く

腹部に拳を減り込ませる

…しかし



「ぐぁ…これは…⁉︎」


龍神に直撃した拳は

音を立て、龍神の熱に灼かれていく



「この身体は光を凝縮した龍の身体

人肌では耐えれまい熱を持つ」


裂けた口が歪んで笑い

右腕でゼマを掴む



「ぐあああああぁぁッ‼︎」


全身を灼かれ、絶叫するゼマ


「この程度で音を上げるとは

…英雄の名が、聞いて呆れる」


絶叫を聞くと、興醒めしたように

ゼマを地面へ叩き付ける



「はぁッ…はぁッ…」


罅割れた地面の中央で

うつ伏せで虫の息のゼマ

全身から血を流した、その外傷で

カウントは一気に7500まで上昇する



「それがお前の力を上げる仕組みか

傷を負って力を上げるなど

英雄では無く、狂人の所業だ

だが…お前には相応しいか」


朽ち果てたゼマを一笑に付す

そして、自身のカウントを見つめる

ボスのカウントは常に上昇し続け

現在、30000を超えている


「少しは苦戦すると考え

カウントの設定を'日光'にしたが

期待外れだったな」


呟くように言うと、龍神は

その鋭い爪を倒れ伏したゼマに向け

大きく振り上げる




-時間を遡り数十分前 避難場所-


龍神から放たれる衝撃や熱は

微かに届いており、避難した住民達は

不安を持ち始めていた。




「皆…」


私は、何をしてるんだろう…

ここからは凄い光しか見えなくて

現場で何が起きてるかわからない

…でも、皆はあそこで戦ってるんだ

何もできない自分が、情けない…



「行こう…っ」


何もできないのはわかってる…‼︎

でも、何が起きているかだけは…‼︎

それだけは知っておきたい

私だけ、安全な所にいるなんて

やっぱり出来ない…‼︎



-警察署 周辺1km-


姿が見えてきた…龍…⁉︎

あれが、相手のボスなの⁉︎



-警察署 周辺300m-


「ゼマ君…‼︎」


ゼマ君が龍に掴まれた…

嘘…このままじゃ、死んじゃうよ…



-警察署 周辺100m-


そして、ゼマ君は私の眼の前で

龍の爪に身体を穿たれ、全身から

噴水のように血を撒き散らし

何もできないまま…命を散らした

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