8+3+4+3=18
-記者会見 開始-
警察から前代未聞の記者会見ということもあり
会見場の警察署駐車場はカメラやボイスレコーダーを
手にした記者や野次馬が犇き合っていた。
(うぅ…、すごい人の数…っ。こんな中、
しゃべるの…?ダメ、緊張してきちゃう…)
物陰に隠れながら様子を伺うシア。
戦いの時に見られる凛々しい表情は消えて
完全に腰が引けている。
「オイ、主役。隠れてるんじゃない!」
「ひぃ…っ!か、課長さん…。
はぁ〜…。驚かせないでくださいよぉ…」
いきなり後ろから声を掛けた課長に
不安な目を向ける。元々は貴女のせいでこんな事を
やらされているのに。目はそう訴えていた。
「アンタは堂々としてれば良いの。言う事言えば、
後の問答は私も参加できる。楽なりたいなら
しっかり話してきなさい」
「っ…はい…!」
叱咤激励され、まだ不安は残っているが、なんとか
心に気合を入れ、自分を奮い立たせる。
「では、定時となりましたので
これより、臨時の緊急記者会見を
始めさせて頂きます」
課長が壇上に上がり開始を宣言。まず、淡々と
スケジュールと、撮影におけるマナーの確認。
何気無い事に見えたが、よくよく課長の目を見ると
この場にいる者全員の配置を確認していた。
…そして。
「…私からの話は以上です。
それでは、これより、我々、警察と協力してきた
限界に引き継いで、話をしていきます」
課長が降段し、隅で待つシアに目で合図する。
記者達も待ちわびたように活気付き、
今か今かと壇上にカメラを向ける。
(いよいよ勝負ね…。
…あのバカ、見ているかしら)
記者達の最前列に座り、見守る課長。
シアの事を気にしつつ、一つ溜息を吐くと
おなじみの電子タブレットを取り出し
特殊なアプリを起動。周辺の地図を出す。
(蹲まってるくらいなら、テレビでも見てなさい)
表示した地図から乃華のアパートを探し出し
タップ。さらにメニューを表示。そこから
電子機器を操作しテレビの電源をONにする。
-周辺アパート 乃華の部屋-
「…!」
え…?テレビが勝手についた…?
何かの、緊急放送…?警察署でやってる…!?
一体、何が…。
『人間の皆さん…こんにちは。
し、紹介に預かりました…。
限界のシア、と言います…』
シ…シア…ちゃん…!?何をやってるの…!?
限界が表に出ちゃ…!…まさか、課長の差し金?
「かッ…ケホッ…ケホッ…」
ああ…ダメだ…。体、動かない…。
そもそも、私に何か呼び掛けているのか…?
こんな…逃げ出した私に…。
-記者会見現場-
半ばしどろもどろで手が動いているが、
本番で腹を括ったのか、しっかりとした表情で
話し始めるシア。カメラのフラッシュが
一斉に焚かれる。
「え…と、皆さんの中には、まだ、限界を
信じていない人もいると思うので、えと…今から
私の力を見せ…ます」
そういうと、左手をゆっくりカメラがよく見える
位置まで下げ、4154あるカウントを
500下げる。すると、手から宝石が次々と溢れ出る。
「すごい…!」
「手品じゃないのか…!?」
「いや…これは間違い無いぞ!」
シアが力を見せると記者達が様々な言動で騒ぎ始め、
さらに、眩しいほどのフラッシュが再び焚かれる。
「予め…言いますが、手品じゃ、ないです…!
私達、限界は未知数な力を持ってるんです!
え〜…と、限界の目印は左手で、こんなふうに…。
あ、後ろの方も見えますか?
…手の甲に数字が書いてあります…」
高めに手を上げ、少し嫌そうな表情で
カウントを記者達に見せる。
そして、5秒くらい見せると、手を引く。
「え〜…、私達、限界は力を持っていますが
ほとんどが人間と同じです。あ…同じというのは
力以外、変わったところが…無い、という事です。
この力も…本当に、ある時、急に現れたんです…。
本当に、これ以外に違うところは、ありません!
なので、安心してください…!
とりあえず…以上です…」
顔は少し紅潮し、少しぎこちない礼をすると
小さく溜息を吐く。さっきはあれほど煩く聞こえた
カメラや記者の音も、鼓動の音に消されていた。
「では、これより質疑応答の時間に移ります。
質問のある方は挙手をお願いします。」
一段落すると、課長が口を挟む。
そして記者達との談合が始まる…。
シアの表情は更に一層、硬く強張った。
-周辺アパート 乃華の部屋-
「シアちゃん…。
あんなに話せるようになったんだ…」
それにしても…テレビが消えない。
コンセントを抜いても消えない…。
…課長の仕業に違いない。
はぁ…、今は、何にも接したくないのに…。
私に何を見せたいんだろう…。それに、私は…
こんなの無視すれば良いのに…。
何をしたいんだろう。…何が出来るんだろう。
-記者会見現場-
「では、質問」
質疑応答開始と同時に、メガネを掛けた
痩せ型の記者が細い手を伸ばす。その手に
現場の目が一斉に向けられた。
「どうぞ」
一瞬だけ、シアの表情を確認し、
課長がそれに応じる。今はただ、課長も
シアを信じるしか無い。
「あなた達、限界が人間に危害を加えない、
というのは本当でしょうか?」
射抜くような視線でシアを見る。この質問は
想定していた質問だった。人間側が安全を
最優先するのは当然の事であるから。
「もちろん、です…!私達、限界は安心した
理解と共存が目的で…今回、この記者会見を…」
「世界に限界は何人いますか?」
「…っ」
聞く耳持たずと言った感じで
返答の途中に、新たな質問を開始。
台本通りに言おうとしていた事が遮られ、
心が大きく動揺した。
「日本に、約…十数人、です。」
「その'約十数人'の中に危険な考えを持っている
限界がいないと確信できますか?」
粘着質な物言いで高圧的に質問を続ける記者。
こういった会見に慣れているだろうという事は
見て取れた。シアの肌に不安の汗が現れる。
「それは…」
決定的な答えが出せず口篭り、次第に目線が
下を向き始める。その様子に他の記者や
この会見を画面越しで見ている人間も不安の声や
嘲りの声を漏らしていく。
「ふむ。では、警察が
'保有'する限界は何人ですか?」
「保有…という言い方は、やめてください…。
私達は、あくまで警察方々と
'協力'という形でいます…」
適当な言い方とも取れるが、物扱いされたことに
憤りを感じ静かながらも怒りを返す。
記者も、その怒りを感じ掛けた眼鏡のズレを直す。
「…失礼、で、人数は?」
「2人…です」
別に隠すことは無いと、素の状態で
正直に今いる人員を答えるシア。だが、この答えで
会見の場が、冷えた。
(しまった…マズい)
意図を察していた課長。シアの答えを
止められなかった事に歯噛みする課長。
…そして。
「え、2人?…くくくっ、はははっ!」
シアが、正直に答えた後、記者達が揃って
笑い声を上げる。一人、意図が読めないシアは
呆然とし、一歩、後ろに下がってしまった。
「え…?」
「警察は、日本に数十人いる限界の2人しか、
管理下に置けていないのですかっ!?
それで、よく限界の代表として
壇上に上がれましたね!」
「あっ…、うっ…」
少数であることを見抜かれ
ここぞとばかりに罵倒する記者。
ようやく意図を理解し、息がついに詰まる。
「今回の記者会見は…あくまで
警察と、限界の存在認知が目的で…」
「管理下に置かない危ない存在である、と
警察は言いたいわけですね!?」
「…。」
完全に打ち負かされ、俯き、沈黙するシア。
紅潮していた顔も、今は白くなり、彫刻のような
悲しい表情を見せる。
「もう良いか…」
これ以上はシアにも会見自体にも支障が出ると
様子を察し、フォローの為、立ち上がる課長。
…だが、その時。
「人…ですからね…」
ポツリ、とシアが一言。課長にアドバイスされ
とりあえず掌に書いた'人'の字が目に入った。
そして、記者に向かって言う。
「はい?」
半笑いのまま、シアの一言に返答。
二転三転した雰囲気が更に変わった。
具体的に言えば、話し合いの空気から
戦いの空気に変質した。
「さっき言いましたよね?私達も、元々は
あなた達と同じ人間だったんですよ」
「はぁ…」
「…。」
突如、大人しかった態度が急変し
やや唖然とする記者。それに微笑を浮かべ、再び
腰を落ち着かせる課長。もう支障は無い。
そう感じたらしい。
「人間って、どうでしたか?
いつも皆、仲良く、でしたか?
ちゃんと管理できていましたか?」
言葉の後、溜息を吐き立ち上がるシア。
完全に開き直ったようで、言葉の迷いが
晴れ、やや粗暴な面が出始めた。
「人間も、私達にとっては
十分に脅威になる存在なんですよ」
いつものように言葉を選ぶための間を置く事も無い。
更に瞳に殺意が宿り、シアの中の何かが吹っ切れる。
「あなたの言うこと、肯定します。
そう、限界は危険な生命体です。
何せ、あなた方と同じ人間だったんですからね」
「な…、なら人間と限界の
共存は難しいでしょう⁉︎」
「できますよ」
堂々とした物言い。もはや立場は逆転し、
記者達はもはや家臣のようにシアを見上げ
聞き入っている。
「その理由は…?」
「限界の総人数は十数人。比較的少ないので、
邪魔する限界は私達が限界の法で対処します」
「限界の…法…?」
「人間の法とは違うやり方ですよ」
涼しい顔で記者達に、カウントが見えるように
髪を掻き上げる。『消す』何も言わなくても
邪魔者の解決方法は理解されていた。
-周辺アパート 乃華の部屋-
『つまり、まとめますと…。
人間に害をなす限界は
あなた方、警察と協力する限界…の方達が
対処をする…と?』
『信じて頂けますね?』
『す、少なくとも…私は』
シアちゃん、開き直ってない…?
もう、相手を飲み込んでる…。
これで、人間と限界が仲良くなれるの…?
『質問の回答は以上で良いですか?』
『はい…どうも、ありがとうございます…。
はぁ…っ』
もう、見た限り疲れ切ってる…。
無理もないよね…。限界と向き合った時の空気…。
そう、あれは…味わいたいものじゃない…。
『他に質問したい方、いらっしゃいますか?』
遂に仕切り始めたシアちゃん。
画面が記者の方に切り替わる。それに、目を
背け始める記者の方々が画面一杯に映し出された。
これ、撮ってるの絶対に課長だ…。
ちょっと、笑い声が聞こえるもん…。
『質問が無いようなので
最後に私から、伝えておきたい事があります』
また、画面がシアちゃんに変わる。
机に手を付き、真っ直ぐ前を向くその姿は、
私には一国の安心と安全を守る代表に見えた。
『人間の皆さん、お願いがあります。
怒りでも、憎しみでも構いません。
私達限界に関心を持ってください』
湧き上がるシャッターに怯むこともなく、ただ
自分の言いたいことを言っている。これが
さっきまでの彼女だったら抱腹絶倒もの
だっただろう。明日あたり動画サイトで
ネタにされること請け合いだ。
…だが、今の彼女には
記者達を惹きつける強さがある。
『私達のような人を超えた力を持っている者を、
簡単に信用してほしいとは思いません。
ただ、その代わり、この会見で皆さんが
心に感じた事を表に出してほしいのです。
恐怖を感じた人もいるでしょう。
嫌悪を感じた人もいるでしょう。
それを人間も限界も含めて話し合いましょう。
今は駄目でも、きっと、分かり合える日が来ます。
…元は同じ人間なんですから
とにかく、話して動きましょう…!
独りで考え込んでいても…解決にはなりませんよ』
偶然だろうか…。画面の中のシアちゃんと
眼が合った…。もしかして…シアちゃん…私に…。
『お時間頂きました。
ご静聴、ありがとうございます』
丁寧に頭を下げるシアちゃん。
記者席では拍手の音も聞こえる。
…こんな時に、アレだけど
なんだか、急に…お腹すいた…。
確か…支給された乾パンが
あったハズ…。
-記者会見現場-
シャッター音と拍手が会場を包み、会見は
少々の波乱と共に幕を下ろす…はずだった。
「良い演説だね。思わず聞き入っちゃったよ」
「!!」
記者席の最前列、そこにゼマと同じくらいの
年齢に見える黒い服を着た少年が座っていた。
見る限りその場の全員が、驚いている。
「あなた、いつからそこに…」
「最初から居たよ。皆が気づかなかっただけ」
面識のあるシアは驚きを隠せない。
数日前、L-因子を盗み逃げた相手が
すぐ近くにいたのだから。
「皆さん、逃げてください!
私達と敵対する限界がいます!」
記者達に向かい叫ぶ。しかし、それが
引き金となった。突然の事に騒然となった記者達は
混乱して退避どころでは無い。
「まったく、だから人間は
嫌いなんだよ。馬鹿ばっか」
少年はうんざりしたように立ち
蝿を払うように左手で記者達を扇いだ。
…すると。
「ぐぁあああっ‼︎」
煽られた記者達は腹や足を押さえ苦しみ始める。
体を痙攣させて倒れこむ記者達も何人か見える。
それを見た人々も更に混乱し、地獄絵図と化す。
「やめなさい‼︎」
一般人に手を出したことに怒り、
ヒートアップしたシアは感情を剥き出しにし
少年に飛び掛かる…しかし。
「はぁ…。会見は終わったんだ。
キミはもう黙ってて良いよ」
「なっ…ぐ…っ」
少年に左手を翳されると、シアでさえ
記者達と同じように無力化。金縛りにあったように
身動きが取れなくなる。
「ご立派な演説ご苦労様。
疲れてるよね?眠らせてあげるよ」
嘲笑う悪意の篭った声。
とどめを刺そうとシアの顔の前に左手を出す。
…その時。
「お前も、もう良いだろ?」
「ゼマ…君…っ」
突如として風のように現れ、少年の腕を掴み、
睨み付けるゼマ。この時点で、記者会見は
戦闘へと姿を変えた。
「キミは今朝忍び込んで来た限界…。
ハハッ…忘れてた、よッ!」
思い切りゼマの腹部に蹴り入れ、
掴む手を振りほどき、後方へ跳んで距離を取る。
「あの子達も限界なのか…⁉︎」
「子供じゃないか‼︎」
「やはり、敵対する限界もいたのか‼︎」
新たな限界の少年の登場。そして戦闘が開始。
記者達は目の色を変え、シャッターを切る。
「おい、ここじゃ人間達に被害が出る。
オレが相手をする…。場所を変えよう」
「悪いけど、ボクはこの記者会見を潰すように
言われて来たんだ。限界の恐ろしさを人間達に
見せ付けるためにね!」
ゼマの提案を蹴り、再び記者達に向き直る少年。
あくまで戦いに来たわけではなく、壊しに来たことを
カメラに向かって大々的にアピールする。
…その時。
「皆さん、ここは危険です‼︎
撮影を中断して逃げてください‼︎」
記者達の後ろに見える女性。
着慣れた皺だらけのスーツを着て、
よく通る声を響かせながら、現場に駆けつける。
「乃華さん…!」
「やっと来たわね…。
世話をかけさせるヤツ…」
「誰…?」
その姿を確認し思わず安堵する2人の限界と
やれやれといった様子の課長。黒い少年は
何の事かわからず、何となく乃華に身構える。
「あの黒い服を着た子は危険です!
私達、特警課に任せて皆さんは、すぐに退避を!」
私のやらなきゃならない事…。
戦うことは無理でも人間で解決できることは
してみせないと…!シアちゃんの頑張りのために!
「怪我人はいますか!?
近くにいる人は手を貸して…」
「あ〜あ〜、また邪魔だよ。
黙ってれば、良いのにさッ‼︎」
「ッ…待てッ!……乃華さん!逃げてください!」
「…い〜や、大人しくしててよ!?」
「え…?」
あ…、マズい…。黒い子に、狙われた…!
もうこんな近くにいる…!
どうしよう…避けられない…ッ!
と、とりあえず頭を守らなきゃッ!!
「チッ…」
「え…?」
距離的に黒い子に攻撃されてもいい頃なのに
体に衝撃も、痛みも無い…。
というか、舌打ちされたような…。
「はぁッ!」
「ぐぁッ…!」
やっぱり、黒い子は目の前にいた。それを
ゼマ君が殴り飛ばしてくれた。相変わらず…
英雄というには粗暴な感じが…。
「ゼマ君…ありがと」
「あなたも下がってください」
ゼマ君が黒い子を殴り飛ばしてくれたから
何とか無傷…。…でも、やっぱりさっき
変だったよね………。あぁダメだ…!
考え込む前に、やれる事をそうだ!
あの子のカウントを知らせてあげれ…ば…。あれ?
「ゼマ君、あの子のカウント。いくつか…わかる?」
「は…?」
「なんだか、ボヤけて見えて…」
こういう時に私は…。何日も寝てないから
ちょっと目が良く無いかも…。乾パンだけじゃ
力入らないし…。
「おっと、情報を与えるところだったね…」
あぁ、黒い子…。手袋で左手隠しちゃった。
そうなんだよねぇ…。手袋で隠せば
わからないんだよね…。………でも、そんなに
隠したいものなのかなぁ。
「…乃華さん。記者達の、誘導お願いします」
「あ、うん、わかったわ…!
役に立てなくて、ゴメンね…」
いや、そうだ。とりあえず限界の戦いは
ゼマ君に任せておいて、私は人命を最優先で
考えないと…。
「面白い人だね、あの刑事さん」
「ああ、良い人だ。オレ達とは違ってな」
私達の誘導で周囲から人はいなくなった。
現場にいるのは、遂に向き合う2人だけ。
人間とは違う殺気が、空気を淀めて…
嫌な気配が立ち込めてきた…。
「ゼマ君!無茶しないでね!」
「はい…!乃華さんも離れてください!」
「ふん…。さぁ、いくよ…ッ!」
体をバネのようにしならせ、黒の少年が
邪悪な笑顔と共にゼマに肉迫する。
「来い…‼︎」
カウントを500下げ、左腕が発光。
飛び掛かる相手を迎え撃つ。
…しかし。
「な…っ」
「弱いねぇ」
力を込めたはずの一撃は、何と
黒の少年の人差し指一本に阻まれる。
「肉体強化は…!
キミの専売特許じゃないってことさ!」
ゼマの狼狽を逃さず、容赦無く顔面を狙い、
思い切り左拳を打ち込む。
「…ッ!」
殴られた衝撃で上体が仰け反るが、それに身を任せ
少年と距離を開けると、少し充血した目で睨む。
「とりあえず、さっきの分ね。これで、おあいこ。
それとも、効き過ぎたかな?」
「ああ…」
挑発とも取れる少年の問いに短く答えるゼマ。
ここまでコケにされれば、血が登るが
ゼマは不敵な笑顔を返す。
…そして。
「凄く…気持ちが良い」
涎を拭き取るように口から出た血を拭き取る。
カウントは5900まで上昇。ゼマ特有のボルテージも
最大限に上がっていた。
「良い気分だ、さぁもっと来てくれ…!」
「キミ…、もしかして…変態?」
突如の急変に、嘲り笑いが引き笑いに変わる。
黒い少年の方は、ゼマの態度に気分が冷めたようだ。
「名乗り遅れたな。オレは限界英雄 ゼマだ」
「なんで、このタイミングで
自己紹介なのかわからないけど…。
ボクは限界悪魔 ロア。まぁ、よろしく…」
首を傾げ複雑な思いで、名乗るロア。
お互い名乗ったところで、再び空気が固まる。
そして再び、戦いが続行。
「いくらキミが被虐心の塊でも
ボクの闇の力は止められないよ」
「何はともあれ、仕事をやり遂げるだけだ。
お前の自信には興味は無い」
自信を露わにするロア。無関心で通すゼマ。
名乗りも終わり、互いにカウントが刻まれた左手を
相手に向け突き出し、構える。