お嬢様はゲームがお好き。(4)
「ところで姫華、仲間のみんなとは仲良くできているか?」
昴を見送った後、斎雅が姫華に尋ねる。
すると、姫華はその場でクルリと回って斎雅に向けて微笑みを携えて答える。
「できてますよ。皆さん優しくて強くて、信頼できる人達です~」
姫華の言葉を聞いた斎雅は満足そうに頷いて彼女の頭を優しく撫でる。
「そうか、それは良かった。きっと素晴らしい仲間に出会えたのだな」
彼女は頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を細めながら、斎雅に満面の笑みを向けた。
「はいっ!」
「その仲間達はお前が困った時にはきっと助けてくれる。だからお前も仲間が困っていたら手を差し伸べてやれ。それは必ず自分にも仲間にも良い影響をもたらす。良い仲間は一生の財産だからな」
元気良く返事した姫華の姿に遠い日の教え子たちを重ねながら一つ頷いて送った斎雅の言葉、その一言に姫華は一際強く頷くと瞳に闘志を燃え上がらせる。
「勿論そのつもりですわ。ワタクシ、彼らの為なら命だって懸けられると思います。それではお父様、明日もワタクシは朝から練習なのでこの辺りで失礼いたします」
「そうか、ではゆっくり休んで明日からの練習に備えなさい」
「お父様、お休みなさいませ」
姫華は斎雅に背を向けると両手を天に突き上げて己を鼓舞する。
「よーし、明日からも頑張るです~!」
そんな彼女の後ろ姿を見送っていた斎雅は玄関が開いたことでそちらに視線を移す。
入ってきたのは昴の見送りを終えて戻ってきた海奈である。
彼女は斎雅に軽く会釈すると戻ってきたことを伝える。
「旦那様、ただいま戻りました」
「ごくろうだったねミーナ、屑山君とは話せたかい?」
会釈ののちに持ち場へ戻ろうとする海奈に斎雅は笑いかけると、この屋敷内で彼女の素性を知る数少ない人物として話しかける。
「先生、ありがとうございました。お蔭で少しだけでしたが楽しい時間が過ごせました」
斎雅の呼び方にミーナも彼を過去に使っていた呼び方で応えると彼に礼を言って軽く微笑む。
「そうか、それはよかった。ところで、これから呑もうと思うんだが、一杯付き合ってくれないか?流石に運転する屑山君の前で私だけ飲むワケにはいかなかったからね」
斎雅はそう言って、いつの間にか持っていたワインボトルとグラスを掲げ上げるとミーナに尋ねた。
「そうですか、でしたらお付き合いしますよ先生」
ミーナは斎雅の準備の良さに初めから自分を誘うつもりだったのではとも思ったが、特に用事も断る理由もなかったので主の申し出を快く受け入れた。
「せんぱぁい…もうわらひたべれまへんよぅ…うへへへへ…」
数時間後、すっかり酔い潰れてしまったミーナは幸せそうな顔をしながらテーブルに突っ伏して寝てしまっていた。
「相変わらずミーナは酒に弱いなぁ」
そんな彼女を見ながら斎雅はクスッと笑い、彼女の肩にそっと毛布を掛けた。
ミーナの今の服装は恐らく部屋着なのだろう紫色のTシャツにグレーのジャージというラフな格好だった。
先ほど斎雅の部屋で飲む前に彼が「どうせいつもの通り酔い潰れて寝てしまうのだから楽な服装にしてきなさい」とミーナに指示した後、彼女はそれを着て現れたのだ。
「幸せそうな顔だな…久しぶりに屑山君に会えたのがよっほど嬉しかったのか…」
そして、斎雅は部屋にある机の引き出しから一冊のアルバムを取り出し、とあるページを開く。
そこには教師時代の斎雅とそれを囲むように写る制服を着た学生時代の昴やミーナを含めた、数人の男女の写真があった。
「幸せな時間というものはどうしてこうも長くは続かないのだろうか…あの時、止めていれば彼らを救えたのだろうか…」
そう言って写真を眺める斎雅の表情は、様々な感情が入り混じった顔だった。
そしてアルバムを閉じると、ミーナをベッドに寝かせて、部屋の灯りを消したのだった。