お嬢様はゲームがお好き⑴
選抜メンバーの為に割り振られている特別教室に輝たち5人は集められていた。
「よーし、みんな集まってるな。これから、特訓について説明するぞ」
彼らの小さな担任、屑山 昴がニコッと笑いながら告げるのは入替戦に向けて行う特訓についてである。
「センセー。特訓って具体的に何するんですか?」
心優しい不良、我妻 桔梗が昴に尋ねた。
「だから今からそれを説明するんだ」
桔梗の質問にガクッとズッコケた昴がコホン咳払いして改めて説明しようと口を開く。
「キキョーは時々ホント頭良いのか悪いのか分からないよねー」
しかし、それを遮って、ドジっ娘属性付きのハーフ美人、彩葉・イーフェンベルクがケタケタと笑いながら言う。
「ドジっ娘の彩葉が言うなよなー」
彩葉を指差しながら、綴 輝が茶々をいれる。
「おい、テル。何でお前が口を挟む必要があるんだよ」
輝の幼馴染で俺口調の女子、神楽 舞琴が輝の肩をガッと掴み怖いくらいの笑顔で言う。
「四人共、ケンカはダメです~。みんな仲良くです~」
ふんわりおっとりお嬢様、瑠狼 姫華が仲裁しようとわたわたと、手を振りながら、口を挟む。
「何でテメェらは人様の話一つマトモに聞けんのじゃ!いてまうぞコラァ!!」
そして、昴の堪忍袋の尾が切れたのか怒鳴りながら姫華以外の四人を一喝する。
思ってもいなかった昴の口調にフリーズする一同。
「先生…性格が…」
「はっ…すっ…すまない。つい素が出てしまった」
舞琴が引き攣った笑顔でハッと我に返り、コホンと咳払いする昴だったが、一同は「普段ってキャラだったんだー」という言葉をギリギリの所でどうにか喉の奥へと飲み込んだ。
「で特訓の内容だがな、使えるのはこの教室のみだが個別でやってもらう。メニューはアタシが考えたものだ、それぞれの長所を伸ばして短所を補える内容になっている。全体の説明はこれだけだが、何か質問はあるか?」
昴は気を取り直して、特訓の説明をすると、この教室しか使えないという言葉に桔梗は疑問を持ち、彼女に尋ねる。
「センセー。使えるのはって言いましたけど、体育館とか、グラウンドは使えないんすか?」
その言葉に昴は少し落胆したような表情を浮かべ答えた。
「すまないが、BクラスからDクラスは、こういった特別教室しか使えない。ちなみに、グラウンドは、外に見えてしまう可能性を考慮して使えないし、体育館はAクラス専用だ」
「低クラスは不自由なんすね」
輝が溜め息を吐きながら言う。
「まぁそう言うな、今回の入れ替え戦、アタシのメニューを完璧にこなすことが出来ればアタシは君達に勝ちを約束する」
そう言って昴は不敵に笑った。
「で、これはどういう事なんです~?」
そう言う姫華の目には目隠しがされていた。
「まぁ、感覚を養う特訓だ」
「どういう事です~?」
「その目隠しをしたままアタシの投げるものを避けるんだ」
「そんなの出来るワケ…「これが斎雅先生から挑まれたゲームだとしてもか?」
ピクッ
無茶な難題に文句を言う姫華だったが、昴の口から自分の父の名前が出た途端、雰囲気が変わる。
「先生、今何と仰いました?」
そして、姫華は楽しそうな笑みを浮かべながら再度昴に確認をする。
「斎雅先生からのゲームだ」
「ゲーム…フフッ…そうですか。ならば話は別です~」
父からのゲームだと聞いた途端に笑い出す姫華。
そんな彼女の豹変に少し怪訝そうな表情を浮かべる昴は首を傾げた。
「うーん…何故、斎雅先生はゲームと言えば姫華が無理難題でもノッてくると思ったんだ?」
昴の疑問に姫華は楽しそうにステップを踏みながら答えた。
一応、先程から目隠しをしている姫華だが、そんな事は一切感じさせないほど躓かず、何にもぶつからず優雅なステップを刻んでいる。
「先生、それはですね。ワタクシが今までお父様から挑まれたゲームをことごとく、全てクリアしたからです~」
「ん?それとこれはどういう関係が…?」
姫華の言葉に疑問が深まった昴は更に難しい表情を浮かべ、悩み始めると、姫華は昴の様子に気付いているかのようにニコニコしながら理由を教える。
「最後のゲームをクリアした時、ワタクシが言ったんです~。"お父様、いつでも新しいゲームを用意して挑んでくださるのをお待ちしています。"ってね」
「なるほど」
昴は苦笑しながら納得する。
お嬢様であるのと同時に、彼女はゲームというものに関しての天才なのだと昴は思い知らされ、彼女なら…もしかしたら。と呟いた。
「早く始めましょう先生。一ヶ月。いや、このゲーム。半月でクリアしてみせますわ」
そう言って姫華は犬のように無邪気にはしゃぐのだった。