新たな旅立ち(2)
「あれかな?」
校門をくぐってしばらく歩くと、掲示板の前に人だかりが出来ていた。
恐らく、全員新入生なのだろう、振り分けられるクラスは入学式当日に貼り出されるため、掲示板の前で一喜一憂している生徒たちを眺めながら、舞琴も自分の名前を探すべく、人だかりの中に突っ込んでゆく。
「ふへぇ…自分の番号と名前を探すだけで一苦労だったぜ…でも、何とか見つけた、俺はDクラスだったけど…テルは?」
暫くして、もみくちゃにされて折角の整えていた髪もすっかりボサボサになってしまった舞琴が息も絶え絶えに人だかりをかき分けながら出てくる。
そして、自分のクラスに少しガッカリした様子で輝に尋ねる。
なぜ、クラスを見ただけでこんなに憂鬱そうな表情になるのか、それはこの学校のシステムの話になる。
来星学園は、一流の人間を育てるべく、新入生をランク付けする。
そのランクによって、クラスが割り当てられ、定員を超えると下のランクのクラスになる。という仕組みなのだ。
その中で、舞琴の入るDクラスは最も下のランクで、その分野では秀でた才能を持ちながらも、総合的には他のランクには到底及ばない者、性格や能力に難ありな者など、色々な問題を持つ者たちの集まりなのである。
「まだ見てない、どーせもう少ししたら減るからそれまで待ってる」
輝は校内にある時計に目をやりながら言う。
すると、さっきまで掲示板の上部分しか見えないほどの人だかりがあっという間に無くなった。
「ほらな」
得意そうな顔で舞琴を見る輝。
そんな彼の表情に舞琴はムッとして頬を膨らませる。
「丁度いいや、俺がテルの名前を探してやるよ」
そして、掲示板に張り出された紙に輝の名前を探す舞琴は彼の名前を見つけると目を見開き彼の方に振り向く。
「ちょっ…テル…これ」
紙を指差しながら唖然とする舞琴に対し、輝は知ってるといった表情を浮かべて、再び校舎に向かって歩き出す。
「テル!待てよ!」
舞琴は呆気に取られていたが、ハッと我に返ると、慌てて輝を追いかけた。
「何で俺とテルが一緒のDクラスなんだよ!」
教室にて、割り振られた机をバンと叩き舞琴が声を張り上げる。
その声にクラスの生徒は、ある者はイライラの混じった視線を、またある者は怯える様な視線を、舞琴に対し向けた。
「マコ…声デカ過ぎ…いいじゃねーか、幼馴染みとまた同じクラスに居られるんだから心細くねーだろ?」
舞琴の怒鳴り声に対して、輝は机に突っ伏し、バッグを枕にして今にも寝そうな表情で答える。
「バッ…何言ってんだ!つか話をそらすな!」
少し輝と離れ離れになったらどうしようなどと考えていた舞琴は図星を突かれて耳まで真っ赤にすると、そのままダンダンと地団駄を踏む。
「答えるのも面倒くせえよ…それにマコ、頼むから静かにしてくれ。朝からクラスの注目の的になってるじゃねぇか」
舞琴が輝の言葉を聞いて、ようやく周りを見渡すと、確かにクラス中、それどころか、廊下で談笑していた生徒も何事かと覗き込んでいる始末である。そして、教室には2人の他に数人の生徒が居るが、誰も彼も一癖も二癖もありそうな人間ばかりだ。
「フハハハハ!良い様だなアキラ!」
2人がそんな会話をしていると鼻につく様な嫌な笑い声が教室に響く。
「何の用だよ。ここはお前みたいな上位クラス様の来る場所じゃねーぞ」
教室の扉の前に、輝と舞琴のもう1人の腐れ縁、天野 童は立っていた。
「神楽さん今日も一段と可愛らしく…「黙れ、具なし天丼」
舞琴は童に出会って早々に辛辣な言葉を浴びせる。
「がふぅ!?神楽さんは相変わらず、手厳しいですね…。だが、それが良い!!」
そう言いつつも、堪えた様子は無い童は親指をグッと立てて笑う。
その表情は、もっと来い。と催促しているようにも見えた。
「失せろ。変態。俺の半径500m以内に近付くな」
そんな童に、舞琴は冷ややかな視線を送り、心をへし折るべく、更に罵声の弾幕を浴びせる。
「ごふっ…まぁ良いです…ところでアキラ、貴様は何しにここに来たんだ?」
童はそれでも全くダメージを受けた素振りは見せず、ありがとうございます。といった顔でハァハァしていたが、輝を一瞥した瞬間、表情を変え、輝を嘲笑うような表情を浮かべる。
「分かってんだろ、面倒くさがりの俺がここまでするに価する理由が」
その言葉を聞くと童は更に表情を変え、冷ややかに嗤う。
それと同時に教室内の空気が一変する。
「馬鹿か、貴様の様な奴が彼らに勝てるとでも?まぁいい、俺が試してやる…これから先、ここで生き残れるかをな」
そう言って、童から放たれたのは、先程までのフザケた雰囲気では無く、凄まじい殺気だった。
その殺気に気圧され、輝と舞琴を見に集まっていた野次馬は、蜘蛛の子を散らす様にいなくなった。
「流石、Bクラスなだけはあるな…殺気がハンパじゃねぇ」
しかし、輝は物怖じする事無く、寧ろ楽しそうな笑みを浮かべて拳を握る。
「呪文…雷神の剣」
すると、童の掌から目の眩むような鋭い雷撃が輝に向けて、放たれた。
それでも輝はその場を動かず、掌を床に向ける。
「呪文…磁力操作」
しかし童の雷撃は、輝の元へ届く前に、突然動き出した机たちによって阻まれ、打ち消された。
突然の事に教室にいた全員が目を瞬かせたのであった。