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Rank.D   作者: 煉獄
16/20

涼介VS岳

「続きまして次鋒戦、三神(みかみ) 涼介(りょうすけ)選手 対 大倉(おおくら) (たけし)選手!」


(ひびく)のアナウンスで次に現れたのは小柄な少年と大男、2人の体格には少年2人分もの差がありまるで父親と息子のような光景である。

しかし何よりも驚きなのはこの2人、たったの2歳しか違わないである。


「大倉先輩、今日はよろしくお願いします」


小柄な少年、三神 涼介が大男に向かって丁寧に一礼する。


「お互い正々堂々良い試合をするとしよう」


大倉が笑みを浮かべながら手を差し出すと涼介もそれに応じて握り返した。


「さぁ、両者ガッチリと握手を交わしたところでいきましょう、開始!」


響の合図と量のゴングで試合が始まる、先手を取ったのは涼介、彼は小柄な体躯を活かして大倉を翻弄する。


「付いて来れますか?」


「ふむ…大気を操り空気抵抗をゼロにした動きか。それに肉体強化も使って俺の目では追い切れないのは確かだ…が…フンッ!」


涼介の俊敏性を賞賛している大倉だが、床をぶち抜かんばかりに力強く踏み締めて気合を込める。


風鞭(ゼファーウィップ)!」


その背後から現れた涼介は掌に大気の塊を創りそれを鞭のようにしならせた強烈な一撃を大倉の背中に叩き込む。


「しかし、足音に注意すればどこから来るかは予期できる!」


完全に不意を突いたと思っていた涼介は信じられないものを目にする。

顔さえ向けていなかった大倉の振り向きざまの拳が風の鞭を弾いたのだ。


「うわぉ…こりゃ予想外…まさか足音でバレるなんて思ってもなかった」


すぐさまその場を離れて体勢を立て直そうとする涼介だったが、その先でも大倉の鋭い拳が振り下ろされた。


「危な…まさかとは思ったけど今確信に変わったよ。超感覚(スーパーセンス)を使えるなんて…それだけじゃない、無駄を一切省いた体捌き…これが歴戦のAクラストップランカーの本気ってワケね」


間一髪、二発目の拳をステップで回避した涼介は背中がじっとりと汗ばむのを感じながら冷静に分析する。

早くも自身の能力を看破された大倉は床にめり込んだ拳を引き抜きながら動じた様子も無く感心する。


「ほう…僅か二手で気付くとは。いかにも俺の力はこの世界では珍しくもない超感覚使いだ、しかし幾重にも連なる戦いで得た経験を糧にし俺オリジナルのそれに昇華させた」


「脱帽ですよ。いくら超感覚と言えど反射神経などは使用者の能力に依存する。つまり貴方は極めて優秀な武闘家と呼べるでしょう」


「我らがR4から賞賛されるとは光栄だな」


それ以上2人が会話を交わすことはなく次に聞こえたのはひたすら拳を打ち合わせる打撃音。

目で追うもやっとな打ち合いが延々と続く。


「三神よ、お前の本気はこんなモノではなかろう!」


「言ってくれますね…とはいえ、これ以上長引くのも分が悪いですしそろそろ決めさせてもらいます!」


それが5分ほど続いた頃、痺れを切らした大倉が涼介を目で追いながら煽りを入れる。

それに乗った涼介も先ほどまでとは違う新たな軌道で接近した。


風塊(ふうかい)!」


大倉の懐に潜り込み掌に集めた大気の塊を彼の腹部に遠慮なく叩き込む。


「手応えありッ…⁉︎」


グラリと揺れる巨体に勝利を確信した涼介だったが、その表情が一瞬で焦りのそれに変わる。

涼介の右手がガッチリと大倉の丸太のような腕にホールドされていたのだ。


「お前の速さに攻め手を欠いていたのでな…ようやく捉えることができた…今度はこちらの番だ」


風鎧(ゼファーメイル)!」


「無駄だ、無壊の剛拳!」


口から血を零しながら大倉が笑みを浮かべた。

その笑みを見て涼介が咄嗟に風を全身に纏わせるが、同時に凄まじい衝撃が彼の華奢な身体を襲う。

風の鎧もろとも大倉の振り下ろした一撃が涼介の顔面を撃ち抜いたのだ。


「⁉︎」


ステージの床を貫通して体育館の床下の地面にまで到達するほどの大穴を開けた大倉が拳を高々と突き上げ勝利を宣言する。


「俺の勝ちだ」


「おぉっと決まったぁ!大倉選手の迷いのない豪腕が炸裂ゥ、三神選手復帰できなぁい!」


響の実況を聞いてゴングを鳴らそうとした量の耳に…否、会場の全員がその声を耳にした。


「残念だな、まだ来るぞ構えとけ」


暁月が無表情に、しかしどこか楽しげな様子を感じる声色で大穴を指差す。

会場が再び静まり返り大穴を注視していると"ソレ"は現れた。


「油断しちゃったなぁ…まさか奥の手を使うハメになるなんてAクラスだからってナメてかかっちゃいけないなぁ」


何と顔の左半分がズタボロになった涼介が何事も無かったかのように飛び出てきたのだ。

誰が見ても再起不能であるはずの状態、しかし今目の前にいるソレは何かが違う、それを感じ取った大倉が額に汗を滲ませる。


「お前、三神ではないな…」


「んー?何言ってるの、ボクはボクだよ?」


異様な光景を見ていた凛音が半ば呆れ気味に暁月に視線を移す。


(あね)様、良かったのですか涼介にアレを使わせて」


「そうは言うがりんね、アレ以外におおくらのオッサンを倒せる方法がりょーすけにあるとでも?」


「ふむ…失念していました」


「お前のわりークセだぞ、真っ先にアタシら基準で考えんのは止めろ。それが必要なのは、あそこのマイク握ってる姉弟だけだ」


暁月は涼介の変貌を気に留めることもなく実況ブースの響と量を見つめていた。

姉の表情から何かを読み取ろうとしていた凛音だったが、響の実況で現実に引き戻され激しい攻防を繰り返している2人に目を向ける。


「三神選手、不死身かぁ⁉︎先ほどまでとは打って変わって攻撃に鋭さが増している!」


「そうか…お前の力は大気操作なんて矮小なものではなく…"風"そのもの…」


「大倉センパイ、分かったところでもう遅いっすよ…チェックメイト」


一瞬で大倉の懐に潜り込んだ涼介が狂気の笑みを浮かべる。


風壊(ふうかい)


「グォォォ⁉︎」


ドンッという衝撃と共に大倉の巨体がステージから吹き飛び観客の頭上を通過、壁を突き抜けそうな勢いで激突すると気を失ったのか立ち上がらなくなった。

瞬きする間の出来事に唖然としている場内。

そんな中、涼介は物足りないのか周囲を物色し始める。


「こんなんじゃ不完全燃焼だよ…そうだ」


「俺⁉︎」


しばらくつまらなそうに群衆を眺めていた涼介は何かを思い出したのか視線を巡らせある一点を見つめて笑う。

その先にいたのは輝である。

自分が標的になったと即座に察した輝は唾を飲み込んで身構える。


「涼介、貴方の出番は終わりよ。それでも続けたいと言うならば私が相手するけどどうかしら?」


殺気を全身から放つ涼介の肩を掴んだのは凛音だった。

彼女は無表情ながらも底冷えするような声で彼に退がるように仕向ける。


「………分かりました、流石に凛音センパイを相手にしたら文字通り身が持たないんで」


最初は不服そうな顔をしていた涼介も最強の一角を相手にするのは分が悪いと感じたのかそれ以上は諦めて引き退った。


「ふぅ…姉様も無茶言うわね、化身(アバター)状態の涼介は私が本気の8割割かないと出さなければ止められないのに…まぁもう良いでしょ。響、続けて頂戴」


「凛音がそう言うなら…えーっと、大倉選手再起不能。よって勝者は三神選手!」


あまりの出来事に会場もクールダウンしてしまったのかまばらな拍手だけが嫌に響くのだった。

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