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Rank.D   作者: 煉獄
15/20

霧夜VS杏子

「R4もようやく揃い踏み。開幕戦第一試合スタートです!まずは先鋒戦、Aクラスからは火柱(ひばしら) 杏子(あんず)選手、R4からは衣堂(いどう) 霧夜(きりや)選手です!」


先鋒である霧夜と杏子の2人以外の選手たちがステージを降りる中、すでに杏子は霧夜へと敵意剥き出しの視線を送っていた。

そんな視線を受けながらも霧夜は冷静に彼女をあしらう。


「アンタの氷なんてアタシの炎で融かし尽くしてあげる!」


「その闘争心…悪くは無い…が、氷は炎に勝てないなど誰が決めた?焚き火程度、絶対零度の前では篝火(かがりび)に過ぎない事を身を以て思い知らせてやろう」


「なんですって⁉︎」


「さぁ、両者もお互いを挑発し静かにヒートアップ。熱気冷めやらぬ内に始めましょう!」


「開始…」


早くも火花を散らし一触即発の雰囲気を漂わせる霧夜と杏子の体からそれぞれ青いオーラと赤いオーラが噴き出る。

それを見計らって響が試合開始を告げると、量が備え付けられたゴングを高らかに打ち鳴らす。


「先手必勝、炎纒(えんてん)!」


「先手を取ったのは火柱選手!入替戦一撃目は彼女のものか⁉︎」


「⁉︎」


その音を聞いて真っ先に飛び出したのは杏子である。

彼女は両腕、両脚に炎を纏わせると霧夜の懐に潜り込むと右拳を握り締め鋭いボディブローを放った。

予想外の攻撃に驚いている霧夜の腹部に杏子の拳がめり込んで観客の女子たちから悲鳴が上がる。


「おぉっと!火柱選手の拳が衣堂選手の腹にクリーンヒット!」


「グッ…」


霧夜は咄嗟にバックステップで距離を取り追撃を躱すが、服の一部が焼けたのかチラリと露わになった腹筋に赤く拳の形の跡が付いていた。


「…流石はR4、一撃じゃ倒れないか…」


「今の一撃…魔術と見せかけその実、近接格闘とは…ダブルレンジアタッカーか…ミドルレンジの俺には些かやり難い相手だな…」


舌打ちをする杏子は手に残る確かな手応えに拳を握り直しながら奇襲の失敗を悔しがっている。

赤くなった肌を触りながら目を細める霧夜は、ようやく杏子を強敵として認識したようにゆっくりと構えた。


「とはいえ、アタシの攻撃はアンタに届く。それが分かれば勝機はある!」


「やはり、開幕戦は面白い…強いヤツと戦える、この学校に於いてそれ以上の幸福は無いな」


再度距離を詰める杏子に霧夜は正面に向けて魔法陣を展開、大量の氷の(つぶて)を射出する。

しかし、杏子は体に纏わせた炎と体捌きで迫り来る礫をことごとく粉砕してジリジリと間合いを詰めていく。


「爺ちゃん譲りの格闘術ナメないで!」


「接近する火柱選手に衣堂選手は氷のマシンガンで応戦するが彼女の拳に次々打ち落とされていく!流石は格闘術最大流派である覇拳流の祖、火柱(ひばしら) 元蔵(げんぞう)の孫娘と言うべきかぁ!解説の量さんこの戦況をどう見ますか⁉︎」


「この状況だけ見ると火柱選手優勢…でも相手はR4衣堂選手…戦況を一変させる奥の手は用意してあるはず…」


そんな激しい攻防を見て実況にも熱が入ってきたのか、実況席の机に足を掛けた響がまくし立てるようにしながら量に振ると、姉とは対照的に弟の量は至って冷静に解説をしているように見えるが彼も興奮しているのか少しばかり解説が饒舌になっていた。


「奥の手が出る前にケリ着けてやるわよ!」


魔法陣で悪くなっている霧夜の見通し、その死角を突いて最後の礫を砕いた杏子が彼の左側頭部目掛け上段蹴りを放つが、それを予期していたのかピンポイントで氷の盾を空中に生み出すとそれを受け止める。


「んな⁉︎」


「これまでの行動で貴様が右利きであること、近接戦闘に自信を持っていることは把握した。短期決戦を狙うなら確実に意識を奪える部位を攻撃してくることも予測できる。あとは消去法で次に打ち込んでくるところに盾を作るだけだ。見えなくとも何も問題は無い」


「まだまだぁ!」


三度突貫していく杏子が右から左からと繰り出す攻撃を霧夜は一歩も動く事なく空中に作り出す盾の数々で完全に防いでいる。

息切れする事なく矢継ぎ早に繰り出される杏子の乱撃とそれを悉く受け止めるチートじみた霧夜の防御力には観客からも感嘆の声が上がる。

しかし、その一進一退の攻防が唐突に終わりを告げた、杏子がバッと後ろに飛び退いたのだ。

何事かと思った観客は杏子を見て理解した、彼女の拳が真っ赤な鮮血で染まっていたのだ。


「痛…硬すぎだっての…こんなのジリ貧も良いとこだわ…」


出血する拳を取り出したサラシでぐるぐる巻きにしながら霧夜を苦々しげに睨む杏子、炎を纏っているとはいえ本体である彼女の手足はほとんど無防備な状態なのである。

いくらグローブや脛当てを着けているとはいえ傷一つ付かない霧夜の氷の盾、そんなものを全力で殴りつけていては彼女の身体が限界を迎えるのも無理はない話だったのだ。


「諦めろ、お前では俺を倒せない」


「決めつけんじゃないわよ…」


霧夜の言葉に下唇を噛み締める杏子、だが武器の一つである拳を欠いてしまった現状では迂闊に飛び込むこともできずにいた。

その時戦況が大きく変わることになる。


「きりやー、いつまで眠たくなるようなぬるっちい試合やってんだ。この後はアタシたちだってやんだぞー、これ以上時間掛けるようなら殺すぞ?」


観客の声が耳をつんざく程のものであるにも関わらず唐突に聞こえた暁月の声は不思議と霧夜と杏子の耳に届き、霧夜がその表情に初めて焦りの色を見せる。


「という事だ…これ以上は俺の命が危ないからな、そろそろケリを着けさせてもらおう」


「…決め手を欠いてるのはアンタもアタシも同じでしょ…このまま黙ってやられるなんて真っ平御免よ」


その言葉に霧夜も頷く。


「確かに今のままではお互い勝敗を決めることはできない…が、切り札を使わせてもらうぞ」


霧夜がそう告げた瞬間彼の目つきが変わり、杏子も寒気を感じて慌てて構えるが腕が動かない。

気付いた時には時すでに遅く、彼女の身体の半分以上は氷でビクともしない程頑丈に固められていたのだ。


「何がどうなって…そうか…空気中の水分ね⁉︎」


「誇ると良い、暁月に急かされたとはいえ試合でこの技を使うハメになったのは貴様で2人目だ…『凍てつく世界』」


何とか脱出しようと必死にもがく杏子だが、その間にもゆっくりと彼女の目の前まで歩み寄ってきた。

そして手を氷の刃に変えて彼女の喉元に突きつけて静かに告げた。


「これでチェックメイトだ」


「クッ…」


苦悶の息を吐いた杏子のそれを降参と取ったのか量がゴングを鳴らし試合終了を知らせると歓声が上がる。


「ここで試合終了、先鋒戦の勝者はR4衣堂 霧夜選手!」


勝利の余韻に浸ることなくステージの中央に背を向けた霧夜が指を鳴らすとあれほど強固だった杏子を包んでいた氷の鎧がいとも容易く崩壊した。

陣地に戻った霧夜を迎えたのは暁月の辛辣な言葉だった。


「まったく、お前なら完封ぐらい出来たろ油断しすぎなんだよバーカ」


「返す言葉も無いな」


暁月の言葉に今だ拳の跡が残る腹部をさする霧夜に彼女はつまらなそうな表情を浮かべて罵る。


「ケッ…イジり甲斐もねー」


試合を一瞬たりとも見逃すまいと集中していたギャラリーの輝は大きく息を吐いて舞琴に視線を送った。


「このメンバーのまま戦うとしたら当たるのは舞琴、お前になる訳だけど、あのチートじみた環境にまで影響する凍結魔法使い相手にどうする?」


「さーな、別にすぐ戦うハメにはならないだろうから経験積みながらじっくり考えるとするさ」



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