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Rank.D   作者: 煉獄
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新たな旅立ち(1)

おはにちばんわ、煉獄です。



今作は私の管理している別サイトでの小説を改良、加筆修正したものになっています。



一応、細やかな部分まで書いているつもりですので、元の作品を読んでくださった方でも新鮮な気持ちで読んでいただけるものと思っています。



ですが、なかなか分かりにくい描写等、あると思いますがそこはご容赦願いたいと思います。



それでは、学園バトルファンタジー、Rank.Dお楽しみくださいませ。

平行世界。という言葉を誰しも一度は聞いたことがあるだろう。

あの時、ああしていればどのようになったのだろう。

この時代にアレが存在していたら今の世界はどんな世界だったのだろう。

もしかしたらこうなっていたのかもしれない。

だが、所詮(しょせん)それは妄想や理想、空想の産物に過ぎない。

だったらこんな空想をしてみることにしよう。

もし、古代の覇権を争っていたような武力が、中世ヨーロッパに栄えたような魔術が、現代の世界を繋ぐような科学が、一つの時代に存在して三つ巴のまま互いに拮抗していたのならば世界はどのようなバランスになるのだろうか。

これはそんな空想の産物という名の可能性の一つである世界の話。


16世紀初頭まで、魔術が筆頭(ひっとう)だったこの世界、言語や文化、人種は様々(さまざま)だったが、魔術を使うことによって様々な方法で意思疎通(いしそつう)が可能だった。

しかしどれだけ意思疎通が可能でも所詮は人間、競い争う生き物である。言葉の壁は無くとも国家の衝突は当然の如く起こった。

戦争に魔術が使われる時代、当時最強の魔術力を誇り、北欧の大部分を支配下に置いていた「魔術帝国フリジア」とユーラシア大陸の(ほとん)どを掌握していた「魔法国家アマグール」との間に争いが起こった。

その戦いの戦火は瞬く間に世界を巻き込む程のものとなり、お互いの支配国や、有力国家の台頭を狙う第三勢力が参戦するまでのものとなった。

歴史上はこの戦争を「第一次世界魔術大戦」と呼ぶようになった。

世界を巻き込んだ第一次大戦は開戦から半年という早さでフリジアの圧倒的な魔術力によりアマグールの主要都市はほぼ壊滅、その後居城にて大魔術師アマグールが自害し、彼の死によって大戦はその幕を閉じた。

しかし大戦終結後、(わず)か十数年の間にどこからともなく科学は現れた。

科学は魔術の一切を使えぬ者たち、出来損ないとまで呼ばれ(さげす)まれていた者たちの()り所となり、瞬く間に魔術に並ぶ強大な勢力となった。

それは結果として、科学の急激な発展を良く思わない魔術と、魔術を使えぬ者たちが生み出し、自分たちを蔑んできた魔術への恨みを晴らそうとする科学による戦争を引き起こした。

後に「第二次世界魔術大戦」と呼ばれる事となるこの戦争は当初、割合的に見ても圧倒的に優勢だと思われていた魔術。

しかし、蓋を開けてみれば科学は魔術をその根幹から分析することで対抗策を創り上げ、無尽蔵(むじんぞう)に作り出される科学兵器の前に、魔術は全く歯が立たず、世界の中心を担っていたはずの魔術は窮地(きゅうち)に立たされた。

そんな時、人間の思考は原点に帰する。

そう、人間である以上それを持ち、己の生存の為に使うモノ…肉体である。

それを最大限に駆使する武術は瞬く間に魔術を使えぬ者…異端者と呼ばれて尚、それでも魔術の側に居続けた者。

魔術を使うことはできるが、戦争の最前線に立つことのできる魔力を持たない者たちへと広まった。

すると武術は、人間の本来持つ野生、それを目覚めさせ、そこから生まれる圧倒的な破壊力、魔術が生み出した魔力を持つ武具を使用することによって、魔術側劣勢の状態からあっという間に科学を劣勢へと追い込んだ。

しかし、武術も科学も使用する者たちの元を辿(たど)れば、どちらも力無き者たちが生み出したモノである。

魔術によって生まれた武術だったが、科学と争う状況に疑問を持った者たちは、とうとう魔術に反旗(はんき)(ひるがえ)した。

しかし、科学は武術側につくことはなく、寧ろ魔術も武術も自分たちの敵だと言い放ったのである。

その結果、徐々に世界の勢力は三分される事となり、膠着(こうちゃく)状態が数十年続いた。

それを打破しようと動いたのは他でも無い各勢力の長であった。

魔法帝国フリジア第二代皇帝、大魔術師 アルフレド・G・フリジア。

科学都市フォルディア首相、天才科学者 荒神(あらがみ) (みさき)

集合国家バリティルト総族長、闘神 武帝(たけみかど) 冠士郎(かんしろう)

この3人によって、半永久的な停戦協定(ていせんきょうてい)であるシュレーゼン平和協定が締結(ていけつ)された。

そして彼の時代から時が経ち、停戦協定の締結から数百年後。



とある街のとある一軒家、


「ただいまー」


1人の少年が家へと帰宅した。

少年が帰ってきたことに気が付いた1人の女性がリビングから一通の封筒を抱えて少年の元にやって来る


「おかえりなさい。(あきら)、あなた宛に手紙が来てるわよ。もちろん来星学園(らいせいがくえん)から」


黒い髪を整髪料で弄り、少しグレーの入った瞳は少し瞼に隠れていてどこか気怠(けだる)げな印象を与える少年。

彼の名前は(つづり) (あきら)、数ヵ月後にめでたく高校を卒業する3年生である。

そして、輝を出迎えたのはどこか彼に似た雰囲気を持つ長い黒髪を後ろで1つに束ねた女性。

彼の母、千鶴(ちづる)である。

彼女は持ってきた封筒を輝に手渡しながら手紙の差出人を告げる。


「あー、もう届いてたんだ。ありがと母さん」


輝が封筒に描かれた六芒星のエンブレムをチラッと見る。

そして、中身が破れないようにフローリングに軽くトントンと打ち付けて封を開けようとする。


「さーてと、輝は受かってるのかしら?」


そんな彼を千鶴はプレゼントの包みを開ける子供を見るように楽しそうに微笑みながら眺める。

そして、輝は千鶴の言葉を聞いているのか、いないのかよく分からない様子で、手紙の内容を流し読みする


「どうだった?もし受かってたら輝もお母さんの後輩になるのね」


言葉通り彼女はこれから息子が通うことになるであろう来星学園の卒業生で、本人曰く、当時は成績優秀の優等生であり首席で卒業したらしい。

輝の父親とは学園で出会ったそうで、生徒会の役員として会長が千鶴、副会長が輝の父親だったという。

何でも、一昔前まで来星学園は周辺の住民からあまり良いイメージを持たれていなかったそうなのだが、そのイメージを払拭したのが他でもない千鶴率いる当時の生徒会だったそうだ。


「手抜いててもあんなテストじゃ俺は不合格なんかならねーよ、それにアソコでやりたい事が山積みだし」


輝は封筒に入っていた合格通知を眺め終えると、それらが一緒になった資料を千鶴に渡す。

そして、後々になって母の雷が落ちないように紙片が落ちていないか細かく床を確認する。


「おめでとう、今日はお祝いね。とは言ったけど先にお赤飯炊いちゃってたから、もしも不合格だったとしても食べてもらうことになったけどムダな杞憂(きゆう)だったわね」


千鶴はニコッと笑うと、輝から資料を受け取り、サッと眺める。

そして、輝はというと千鶴のさり気なく怖い発言に、若干(じゃっかん)頬をヒクつかせながら答える。


「そんな事態になってたまるかよ…父さん達、今日は帰って来んの?」


「お父さんは急な海外出張が入っちゃってちょっと前に出発しちゃったわ。それから2人は今日も遅くなるって、あと1日早く通知が来てたら珍しくみんな揃ってお祝いできたのにね」


仕方ないわよね、みんないつも忙しいから。と少し残念そうに眉を下げながら千鶴は笑った。

彼の父は仕事の関係上、家を空けることが多く、年に数回顔を合わせられれば良い方なのである。

その他にも、彼には2人の姉がいて、彼女たちも学園の学生なのだが、少し特殊な立場にいる為、家に帰ってくるのは深夜や朝方が殆どなのであった。


「父さんは勿論だし、あの人たちもこの時期辺りから忙しくなるから当然って言えば当然だよな。まっ、着替えたら晩飯まで走って来る。ついでにアイツの家行って(あかね)さんたちに報告してくるよ」


「分かったわ、行ってらっしゃい。マコちゃんによろしくね」


そう言って輝は封筒を受け取った際に放り投げていた学生カバンを拾い上げて担ぐと2階の自室に向かう。

そんな彼の背中を見送りながら、千鶴は夕食の準備を終わらせる為にキッチンに戻っていった。



合格通知が輝の元に届いてから数ヵ月後。


「おはよー、テル。今日は早いんだな、珍しくて明日は槍どころか隕石でも降るんじゃねーの?」


今日は入学式の日、家の玄関を出ると、すぐの塀に1人の少女が寄りかかっていた。

朝日に照らされる金色の髪はキラキラと煌めき、快活そうな顔立ちのせいで幾分か幼い印象を受ける。

そんな、輝の小学校からの腐れ縁である神楽(かぐら) 舞琴(まこと)は、いつもより早い時間に玄関から現れた輝に気が付くと、驚きに少し嬉しそうな様子を混ぜた皮肉を男っぽい喋りで言い放つ。


「ほっとけ、つかいい加減その男口調やめたらどうだ舞琴。お前も一応、女なんだし。それ()めたらモテるとおもうぞ。顔は、顔は良いんだからよ」


輝は舞琴の言葉が少し癪に触ったのか、負けじと皮肉たっぷりに言い返す。


「うっせ、俺は俺なんだからいーんだよ。てゆーか一応とか、顔は、ってどういうことだコラ。しかも、なんで顔に関しては二度繰り返した」


「イダダダダッ、マコ!痛ぇから、頭!割れる!何千本もの輪ゴムで締め付けられたスイカみたいにパーンッて割れるから!」


輝の言葉に少しムッとした表情を浮かべて、舞琴は彼に一瞬で肉薄(にくはく)するとヘッドロックをかける。

その女子とは思えない強烈なヘッドロックにジタバタともがく輝だが、彼の頭を締め付ける腕の力が緩む様子は一向にない。


「んなこと言ってる余裕があるならまだ大丈夫だろ」


痛がる輝をよそに、彼の頭をギリギリと締め付けながら、舞琴は小さな声で呟く。


「何だよ…また一緒だってハシャいでたのは俺だけかよ…」


今だに舞琴のヘッドロックの締め付けに悶える輝は、彼女の呟きと赤く染まった頬には気付くことはなかった。


「かっ…勘弁してくれ…死ぬ…」


もはや、満身創痍といった様子で、輝は抵抗を辞め、それでもなお、舞琴の締め付けは益々強力になっていく。


「仕方ないから離してやる。ところで、テルはテストどれ位良かったんだ?」


輝が舞琴の腕を最後の力で弱々しく叩いたところでようやく彼女は腕の力を緩め、輝の頭を解放してやると、彼は力無くへたり込み頭を押さえながら形が変わってないか確かめるようにさすっている。


「痛〜…どれも普通だよ。そういうマコトはどうだったんだよ」


ズキズキとした痛みがなかなか取れない頭を押さえながら、今度は輝が舞琴に質問を返す。


「え、俺?俺は、魔術は優が多分ついてるかな、まぁそれは取れて当たり前ってゆーか…取らなきゃマズいしな。あとは武術、科学はそこそこ取れたって感じ」


そう言って舞琴は肩を竦める。

彼女の神楽家は代々、優秀な魔術師を輩出している家系で、そんな出自もあり舞琴が魔術を得意としているのは必然なのである。


「そこらへんは流石って言うべきだな」


先程からの話でなんとなく分かると思うが、輝達の入学する学校は普通の学校ではない。

私立来星学園。そこは世界に通用する人間を育てる学校である。

世界に通用とはどういったことを指すのか、それはつまり各分野でのエキスパートを養成することである。

武術のエキスパート、つまり優れた戦士。

魔術のエキスパート、つまり大魔術師にも引けを取らない魔術師。

科学のエキスパート、つまり優秀な科学者やプログラマー、果てはハッカーまで。

様々なエキスパートを育てるのがこの学校の本来の姿なのである。

そして、輝は入試にて行われた魔術、武術、科学、において全て普通というレベルを示した。

しかし、本当のところ、輝が本気を出せば試験など、全て優がついてもおかしくない実力を彼は持っていた。

そんな彼がなぜ、その気にならなかったのか、理由は至極単純、面倒だったからである。

彼は怠惰が服を着て歩いていると言われるほどの面倒くさがりなのである。


「着いたな…今日からお互い頑張ろうぜ」


そんなこんなで話しているうちに学園の前に着いていた。

そして、舞琴は校門の前で振り返ると、輝に微笑みかけた。


「当たり前だ。その為にここに来たんだ」


「さぁ、クラス表でも見にいこうぜ」


舞琴の微笑みにつられて、輝も笑顔を浮かべる。

そして舞琴は輝の手を引き、これから彼と苦楽を共にする校舎へ向かうべく、校門をくぐるのだった。

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