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神無月  作者: 込枝啓
3/5

家族

よし、勉強をしよう。


珍しいことを考えるものだと自分でも思ったが、暇とはなかなかに苦痛なのだ。自分の気が変わらないうちにやるべきだろう。


気合を入れて新品同様の中学時代の教科書に手を伸ばした。


いや、のばそうとしたが、手は宙で止まった。


部屋のドアが独りでに開いたのだ。


うんざりした顔でそちらに顔を向けると、顔だけひょっこりとだしている姉がいた。姉は驚いたように目を見開いたがそれは一瞬で、すぐに小首を傾げ可愛らしく笑いかけてきた。




「どうして分かったの?音たててないのに」




「気配だよ。まあ確かにその物音を全くたてないスキルは凄いと思うけどさ、人の部屋をこそこそ覗くなんて悪趣味だぞ」




「いいじゃない、家族なんだから」




くすくすと笑いながら僕に歩み寄り、隣に並んで座った。それから僕の顔を覗きに込むようにして、さらに笑いかける。




「こんな朝早く起きちゃうなんて、やっぱり楽しみなんだ、高校?」




「いや、だから…」




MROや鞍葱のことは初と月には内緒にしてあるので、うまく言い訳ができない。適当に理由をでっち上げようとしたが、それより先に、初が何か閃いたかのように両手を叩いたので、そちらに集中することにした。




「あ、そうだ。どうせ霜なんて友達作れないんでしょうから、一緒にお昼ごはん食べない?」




酷い言われようだと思った。




「いや、友達できないとか決めつけないでくれないか!?…っていうか、初だって友達と食べなくていいのかよ」




僕が反撃すると、それは思いの外けっこう効いたようで、初は目をそらしながら動揺を隠そうと手をぶんぶんと激しく振った。




「い、いいのよ、私は。ほら、私くらいの存在だと、弟が友達も作れないで虚しく寂しくごはんを食べてるのに、それを放っておくなんて、すぐ学校中に知れ渡っちゃうからね。そしたらイメージ崩れちゃうでしょ?私はいいけど、私に対して幻想を抱いてる奴らに失礼というか…ほら、えっと」




「なあ初、お前まさか、友達いないのか?」




初の動揺っぷりはすごかった。隠すこともできない様子で、眉を吊り上げ、肩を震わせている。これはまず間違いないだろう。




「い、いるわよそのくらい!霜と一緒にしないでよね!!」




「いや俺だって友達くらいいるわ!っつーかそれ、本当だろうな…まさか虐められて」




「なわけないでしょ!私ほどに高貴で優秀で美人な人物は他にいないじゃないの。そんな私を愚弄する者なんて、既にこの手で再起不能になるくらいの罰を与えているんだから」




初は言いながら立ち上がり、僕のベットの上に座り直した。脚を組んで、精神的にも物理的にも、床に直接座っている僕を見下してくる。本当にこの姉は自由奔放でやたらと態度がでかい。あと胸もでかい。




「お前、たとえ本当でもそんなこと自分で言うんじゃねえ!あと、この手で罰をーとか、どう言う意味だそれは!?」




「あら、たとえ本当でも?霜くんもわかってたの?そうよねーうふふ」




「そんなこと思ってないわ!初の学力も評判も何も知らねーし!っつーか、何気に話逸らすんじゃねーよ、まじでこえーよ何したんだよ罰って!!」




「ん、言葉攻めよ、ただの精神攻撃。まさかこの私が体罰なんて与えるとでも思っているの?体罰なんて傷でバレるでしょ。そんな不手際、私はしないわ」




「むしろ怖いわ!もう不手際でもなんでもして警察に捕まってくれ!」




僕が恐怖におののく様子を見て、初は愉快そうに笑う。




「ごめん、冗談よ」




「…まあ、そりゃそうだろ」




初は‘完全無欠’だから、そんなことはできない。それを僕は知っている。さっきは知らないと言った初の学力も成績も、周りの評判も知っている。聞くまでもない。


‘完全無欠’で在る、否、在らねばならぬ。そう造られたのが初。最早呪いに近いと僕は思っているが、無論初には何も言わない。




「あ、もうこんな時間かー。朝食の支度しよっか」




初は僕に笑顔を向け、明るい口調でそう言った。僕も軽く笑って返事をする。


初の呪いについて詳しいことはまだ調べがついていないが、呪いをかけた奴には見当がついている。しかしおそらく、今の僕では敵わないだろうし、奴を倒しても呪いが解けるわけでもない。今奴を倒すメリットは何処にもないわけだ。


なんにせよ、僕は強くならなくてはならない。それまでは初に、そして月にも僕がMROに勤めている事等は隠しておきたい。いや、それまでとは言わず、できるなら、一生。




「霜ー、あんたも手伝いなさいよ」




「霜兄のご飯抜きにしちゃうよー」




初と月の僕を呼ぶ声が聞こえる。朝食抜きはさすがに辛い。しかたないので手伝うことにした。決してこの姉妹の尻に敷かれているからだとか、そういう訳ではない…はずだ。お陰で


僕の料理スキルはそんじょそこらの女子より上回っている。




「しかたないな、手伝ってやるからちゃんと感謝しろよ」


そういって、幸せを噛みしめながら笑った。

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