武力で交渉ですわ
「行き詰まる寸前ですわね」
建造物の量と密度でいえば王都星系以上の星系を見渡し、わたくしは物憂げにつぶやきます。
エネルギーと資源を確保して生き残るという意味では人間も機械も似たようなものですが、破綻が迫っているとき何が起こるかも似ているようです。
『演算装置の消耗品の生産が需要に追いついていませんな。既に計算能力の低下が進んでいるはずですぞ』
「リングを使って他星系の資源回収はできないのかしら」
『リングのセキュリティに失敗しているようですな。個人的な意見でございますが、人間のパイロットと組んで活動した方が圧倒的に効率が良いですぞ!』
爺が自分自身のことを「個人」と言ってるのは意図的かしら。
AIではあるけど、自認は人間かもしれないわね。
「リゼルカさまっ! 攻撃しないでいいんですか!?」
パイロット候補生の……もう候補をとってもいいですわね。
子供の方のエラは今にも引き金に触れてしまいそうで、大人の方のベスは緊張しすぎて前しか見えなくなっているようです。
「攻撃ではなく物理的交渉と言いなさいな」
『建前は大事ですぞ!』
三隻とも推進機を停止して慣性だけで接近中ですが、もう気づかれてはいるはずです。
ですがまだ攻撃はされていません。
問答無用で敵とみなす気はないのでしょう。
「壊すのも殺すのも手段と考えられるようになれば脱初心者です。頑張りなさい」
機械やAIを壊すのは殺すことかどうかには議論の余地はありますけれど、今回は戦闘になると生きて帰れません。
この二人の役目は、荷物運びと戦場の恐怖に慣れることです。
『迎撃艦隊が向かってきますぞ!』
人間を乗せることは最初から考えていない、居住区画が存在しない高加速の艦ですわ。
強いていうなら「板」の外見をしていて、片面に武装が集中しています。
『コアの候補は三つまで絞り込めました』
恒星周辺を映すディスプレイに、三つの赤丸が重ねて表示されます。
直線だけで構成された無機質な宇宙港ばかりですわ。
「厳重に防御された惑星基地の方が安全だと思うのですけれど」
『敢えていうなら文化というものですな。AIを作り上げた者にとって、防御不能の攻撃は当たり前の存在なのでしょう。宇宙港なら移動は可能ですからな』
「技術退行前はファンタジーな兵器があったのね。……レガリア・スピア発射準備」
狙う順番を指定します。
追放と逃亡のときとは異なり、十分に整備された兵器が滑らかに発射準備を完了させます。
暴走機械群はとても頑丈だから「信書」を届けるのに兵器を使うしかないのです。
大型の宇宙港が、その巨体と比べてもなお巨大な推進機で移動を始めましたが、光速の1%にも届きません。
「我が誇り、我が力、その身で味わわせて差し上げますわ」
指揮中枢を守る外殻に突き刺さりはしても貫通はしない速度で発射します。
それでも反動は強烈で、後続の二隻を後ろ向きに追い抜くことになりました。
赤い棒の先端が、迎撃のレーザーを浴びて輝いています。
「反転しなさい」
わたくしは、命じ終えたときには180度反転を終えています。
エラとベスは推進機を全開にして向きを変えようとして、180度以上向きを変えてしまっていました。
「構いません。メイン推進機で前進しながら向きを調節しなさい」
レガリア・スピアが惑星の衛星軌道上の宇宙港に命中しました。
一般的な宇宙船なら接触した時点で衝撃に耐えかねて爆発四散することも珍しくないのですが、暴走機械の作り上げた宇宙港は耐え抜きました。
レガリア・スピアが半分埋まった時点で止まり、宇宙港がレガリア・スピアの勢いに負けて惑星の方向へ流されます。
大型推進機を惑星との衝突回避のために使うようになりましたが、流される勢いはなかなか消えません。
「爺。通信があり次第、爺は応対しなさい」
わたくしの思考と会話の速度では間に合わないかもしれないと、惑星へ落ちていく宇宙港を見ながら考えたのでした。
☆
『熱烈に抗議されていますぞ!』
爺からの報告を聞いたのは、平べったい艦に追いつかれる寸前でした。
こちらの三隻に向けられていたレーザー砲塔が逸らされ、暴走機械の艦隊が逆噴射してこちらとの距離が広がっていきます。
「停戦が成立したなら何よりです」
これで、この星系で命をかける必要「だけ」はなくなりました。
「こんなに簡単に……簡単? リゼルカ様がすごいだけ?」
「も、もうなにがなんだか」
エラとベスは、いつ死ぬか分からない恐怖から解放された結果、すごく混乱していますわ。
錯乱して攻撃や逃走をする気配がないのは、新人パイロットとしてはかなり有望です。
仮面を与えた判断は、間違っていませんでしたわ。
『お嬢様。ドルフィン級一隻分の物資と引き換えに通行を認めると主張しておりますぞ』
「強欲ね。世間知らずと言うべきかしら」
星系ひとつの勢力の要求にしては少ないと思えるかもしれないけれど、この星系では採掘も精製も不可能な触媒しか積んでいないから過大な要求ですらある。
それにしても、暴走機械のまま自己強化を目指すより、リングを利用可能な人間に形だけでも従い、共生しながら強化を続けた方が効率的だと思うのですけれど。
『その判断ができるAIなら暴走などしませんぞ。……これまで接したことのある人間が、お嬢様の元婚約者のような人間ばかりだった雰囲気があります』
「それは……」
人間不信になりそうね。
『いかが致しましょう。戦力の増強は必要ですが、奇襲攻撃で全滅させることは十分に可能ですぞ』
わたくしは、元の配置に戻っていく迎撃艦隊の「尻」を眺めながら爺の言葉を聞いています。
大型ではあっても設計は古く、暴走機械を人間に置き換えて考えれば「外征能力を持たず衰えていくだけの孤立星系」ですわ。
「最初は小規模な取引から初めて、時間をかけてわたくしの勢力に組み込みます」
『時間がかかりますぞ』
「承知の上よ。わたくしが勢力を広げれば、いくらでも未踏星系と隣接することになる。ここで戦力を無駄遣いする余裕はないわ」
わたくしたちは、装甲を解放して迎え入れる体勢になった宇宙港へ、静かに近付いていくのでした。
☆
エラとベスがびくびくしています。
無人で、重武装の三頭身人型機械がずらりと並んでいる宇宙港は、慣れていないと怖いかもしれませんわね。
「かなりの先祖返りね」
『技術退行が進んだ時代の機体ばかりですな。どこからデータを得たのやら』
爺はレッドシャークに搭載されたままです。
暴走機械が約束を反故にして襲ってくれば助けは間に合わないでしょう。
しかしAIは暴走しているときですら素直です。
こちらが誠実なら裏切る可能性は極小といっていいでしょう。
「あわわ」
「ベスさん! ひっつかないでください!」
まあ、三頭身の姿は、未踏星系などで見慣れていないと怖いかもしれませんわね。
『私がこの星系の責任者です』
アニメ調、というのでしょうか。
三頭身にしても目が大きな暴走機械が、宇宙港の最奥で待っていました。
「わたくしはリゼルカ・レッドシャーク。隣の星系を支配している、あなたたちの表現を使うなら「肉人間」よ」
三頭身の暴走機械の動きが止まります。
完全なセキュリティを保つ体内で高速思考しているせいか、全身が熱を帯びてシールド展開中のわたくしでも熱いくらいです。
「不戦条約と通商条約、受けてくれるわね?」
この種のAIが一般的な人間より理性的なことを、わたくしは未踏星系の調査で知っています。
明らかに緊張して警戒もしている暴走機械に、わたくしは威圧感を込めた微笑みを向けるのでした。




