忠誠を受け取りますわ
星系の内外から物資が集まり、食料プラントとして組み立てられては星系の各所へ運び出されていきます。
視察に来たアマリリス男爵が目を見開いて呆然としていますが、わたくしにとっては物足りない光景です。
「少ないですわね」
「食料生産量が爆発的に増えるのに、少ない!? この星系の生活水準を王都星系以上にするつもりか!?」
ジェドは自分が叫んでしまったことに気付いて、慌てて咳払いしました。
いつもの民間用パイロットスーツではなく、貴族の装束としても通用するフォーマルな格好です。
「リゼルカ様。善政を敷く姿勢は素晴らしいと思いますが、過ぎた施しは下々の勘違いを誘発するかもしれません」
口調もフォーマルにしましたわね。
「ジェド。わたくしに仕える決心がついたのであれば、先に忠誠の誓いをすべきだと思うのだけど」
かけひきかとも思いましたが、ジェドがその種の策を使うとは思えませんもの。
多少の策は使えた方が良いですけどね。
「すまな……申し訳ありません。このジェド・カルマン、リゼルカ様に忠誠を誓います」
跪くさまは凛としていて気品があります。
近衛の中にもまともな人材が「いた」ということですね。
「忠誠を受け取ります。我が名と領地を守るために尽力しなさい。武器としてこれを下賜します」
大型のディスプレイに、艤装の最終段階に入った戦闘艦が映し出されます。
円錐形の船体に、多数のシールド発生装置と強力なレーザーを装備した戦艦です。
ジェドの表情がかすかに動きました。
自分自身が乗っていた近衛艦を改造したものですものね。
『この星系でも万全な整備と補給が可能なよう改造しましたぞ』
「敵艦隊と正面から戦うための艦です」
近衛として、絶対に引けない戦いで勝敗関係なく最期まで戦うための艦です。
向きの変更やシールドとレーザーを使った攻防は得意でも、逃げるための加速は絶望的に不得意ですわ。
「必ずやり遂げます」
ジェドは深々と頭を下げました。
わたくしのレッドシャーク並にお金のかかった艦なので、やり遂げてもらわないと困りますわ。
「改めてになりますが、少々やりすぎではないでしょうか」
いきなり話がもとに戻りましたわね。
ジェドの言いたいことも分かるのですが……。
「これから重労働させますから、飴も与える必要があります」
食料に不自由させないのは基本中の基本ですわ。
『傘下に入った貴族の軍事基地や武装衛星の統廃合は急務でございます』
爺が計画を図解で表示します。
王都から襲来するであろう艦隊に抵抗不可能なほど小さな基地を、最低でも時間稼ぎは可能な大型基地にしていく工程です。
「アマリリス男爵の説得を進めます。何世代も前は星系全体を支配していたとはいえ、義父上には現状を認識していただかねば」
「任せます」
いい感じ話が進んでいますわね。
後は、プラント増産や艦隊建造のための資源ですわ。
「爺。この近くに未踏星系はありますか」
『辺境基準の未踏星系は、リングを最低5回は通過する必要がありますな。ただ、開拓が放棄された星系が一つ、この星系に隣接しております』
「放棄理由は……自動機械の暴走? 王国の技術力の低下は深刻ですわね」
ヴァルティノア家なら艦隊一つで、グランヴェール家でも主星系の防衛を維持したまま攻略できそうですわ。
……今のグランヴェール家は、主力が留守なのでちょっと厳しいはずですけど。
「沈静化プログラムを仕込んだレガリア・スピアを指揮中枢に打ち込めば、沈静化できるかしら」
『コアに打ち込めば確実に。ですがお嬢様、コアの捜索に時間がかかりすぎれば、お嬢様といえども危険ですぞ』
「戦闘にも移動にも推進剤を使いますから、連戦や長期間の活動をすると最後には動けなくなって戦死か遭難する恐れがあるのです」
エリシアが僚艦として着いてきてくれればどうとでもできる自信はありますが、もうとっくに出発してしまっています。
ジェドは操縦技術はぎりぎり合格ですが、ジェドを連れて行くと宇宙港の防衛が問題になります。
『お嬢様、次の予定まで時間がありませんぞ』
「分かりました。ジェド、後は任せます」
星系全体を見渡せる、宇宙港の内に新たに作られた指揮所にジェドを残し、わたくしは急ぎ足で出かけるのでした。
☆
「私も戦わせてください!」
教習課程であることを示すパイロットスーツを着た少女が、熱心というには殺意にあふれた態度でわたくしに直訴してきました。
わたくしが奴隷商から助けた後、帰る場所がなかった被害者ですわ。
わたくしの仮面を介して爺が情報を伝えてきます。
……とんでもない速度で教習課程を進めていてもう実際に宇宙船に乗れるみたいですわ!
「私の父も母も、王国の貴族に命まで奪われました。残った私も……だからっ」
うーん。
いっそこれが演技で、正体が王国から派遣されていた諜報員なら、懐柔してジェドの部下にしたかもしれませんけど……。
「その歳で戦闘任務は許しません」
「でも、私、戦えます!」
『素質も成績も抜群ですぞ。辺境ならパイロット養成校の間で授業料無料に加えて高額の給付型奨学金で取り合いになる水準でございます』
爺が声を使わず伝えてくれます。
それでも駄目ですわ。
「戦えば必ず殺すか殺されますの。その意味を本当に理解するまでは駄目」
わたくしは早期に知って覚悟が決まりましたけど、それは支配者の一族だからです。
事情があるとはいえ、子供を戦場に連れて行く気はありません。
「爺、このような子供は多いのですか」
『この者ほどの才能の持ち主はいませんが、子供に限らず王家や賊に恨みを持つ者は多いですな。パイロット課程や宇宙基地の軍人として鍛える課程でコントロールは行っております』
「志願者が多かったのはそのせいですか」
子供に聞こえないように爺と話し合います。
何もさせないのは容易ですが、この熱意をただ押さえつけるというのは惜しいですわね。
「いいでしょう」
わたくしが声に出して発言すると、子供が顔を輝かせました。
近くで聞いていた別のパイロット候補生たちが、心底うらましそうにしています。
「王国の近衛艦隊よりも手強い相手がいる場所へ連れて行ってさしあげます。まさか断りはしませんよね?」
その子は浅黒い肌を紅潮させ、こくりと頷きます。
手強いけど最初から戦うつもりがないのは、現場で言うことにしますわ。
☆
わたくしのレッドシャークを先頭に、新造したドルフィン級二隻がリングを通過します。
一隻はわたくしに直訴した子で、もう一隻はあの子ほどではなくても優秀だった成人のパイロット候補生ですわ。
「嘘……」
「惑星中に艦隊が? こんなの、王国の艦隊全部でもかないません!」
二人とも騒ぎすぎですわ。
星系全体が暴走機械により機械化されている程度、未踏星系の調査ではすごく簡単な部類ですわよ。
恒星の近くには恒星からのエネルギーを受け止めて利用するための巨大な板。
いくつかの惑星は解体されて、残った惑星を改造されるために利用されています。
それを行っているのは無人の宇宙船です。
当然のようにレーザー砲塔を搭載していて、シールドも張っていますわ。
『彼らが使っている規格は、残念ながら人類が使用しているものとは互換性が皆無です。一度溶かしてから再生成する必要がありますので、人類にとっては資源利用のコストが増えるだけの悪夢ですな』
「強い通信はしては駄目よ。気付かれて一度に攻めて来られたら、わたくしでも勝てませんわ」
二人揃って、勢いよく上下に頭を振りました。
わたくしがプレゼントした仮面が、思ったより似合っています。
「あの、なんで仮面なんですか?」
「デザインも、その、独特です」
わたくしがデザインしたわけではないですが、ここまで不評だと落ち込みますわね。
五感の補助と快適な宇宙服を兼ねた逸品なのですけど。
「いずれ未踏星系へ赴くパイロットの特権であると同時に義務です。窮屈な宇宙服を着た状態で調査を成功させるのは非現実だと思いなさい。……行きますわよ」
暴走する機械群を黙らせて、この星系での資源採掘を可能にするために、わたくしたちはこっそりと星系の奥へ進んでいくのでした。




