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悪役令嬢リゼルカ、追放されたので紅き戦艦で銀河の頂点を目指します  作者: 星灯ゆらり


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7/10

旧友は敵として現れるのですわ

「アマリリス星系は反乱勢力に占拠されている可能性が高い。敵地のつもりで行動しろ」


高い声が凛と響きます。

ディスプレイの中央には、鮮やかな青髪を肩の高さで切りそろえた女性軍人が映っています。


「隊長! 惑星に到着したら派手に遊んでいいんですよね!?」


愚連隊じみた雰囲気の軍人が女性軍人に話しかけます。

言葉は乱暴ですけど、地表で見たことのある軍用犬みたいに懐いてますわね。


「私が惑星の領主に頭を下げてすむ程度にしろ」


「はい!」


上機嫌な犬の尻尾が見えた気がします。

それにしても……。


「見違えましたわね。気の荒いヴァルティノアのパイロットにおびえて、わたくしの背中に隠れていましたのに」


女性としては小柄なのは変わっていませんが、背筋がぴんと伸びて鋭い目つきになっていますわ。

それでいて貴族令嬢としての身だしなみもきちんとしていて、軍服をきっちり着こなしているのに可愛らしさと色気も感じられます。


わたくしが男なら、理性が危なかったかもしれません。


『それは出会って数日のことですぞお嬢様! お嬢様が一番獰猛なことに気づいて、思い切り警戒されていましたぞ!』


「そうだったかしら」


模擬戦で楽しく競い合ったイメージが強くて、それ以外のことがあまり記憶に残ってませんの。

まさにグランヴェールという感じの、素晴らしく強固な守りでした。


『ところでお嬢様。いつまで盗み見ているつもりで?』


「あらいけない」


咳払いをして、鏡を見ながら髪と仮面と服装を直します。


久々の再会ですもの。

華麗にいきたいですわね!


『繋ぎますぞ』


わたくしの顔に、自然な笑みが浮かびます。

仮面を介して「邪悪な笑みを浮かべる仮面の悪役令嬢」が映った気がしますが、気のせいということにします。


「久しぶりね、エリシア・グランヴェール!」


驚くかしら。

喜ぶかしら。


ちょっとどきどきしますわ。


「貴様」


エリシアが怒りをあらわにします。

いきなりの通信に驚く部下たちを手振りだけで落ち着かせ、鋭い目つきでわたくしをにらみつけました。


「リゼルカがこんな場所にいるわけがなかろう。王族の婚約者を騙った罪、この場で償わせてやる!」


青い盾型の戦艦が高密度の通信をばらまきます。

ひとつひとつはドルフィン級より下の艦隊が、まるで一つの意思を持つかのようにレッドシャークを向いてシールドを展開します。


その背後では、加速に特化した艦が推進機を温めながら飛び出すタイミングをうかがい、火力に特化した艦隊がいつでも撃てる状態でこちらに砲口を向けていました。


『お嬢様。レガリア・スピアを使えば、後で模擬戦と言い張ることはできなくなりますぞ』


「そんなことしないわよ? 攻略するなら使うしかないとか、思ってはいないわよ?」


レッドシャークの加速を活かして背後に回り込もうとは考えました。

あの練度の通信速度なら回り込む前にシールドと砲口を向けられると判断して、攻撃は諦めましたわ。


「エリシア、実はね」


「いくらリゼルカでも、王子殿下を激怒させて逃げ出すなんて馬鹿なことはしない……はずだ!」


エリシアの表情が切羽詰まってます。

これ、自分自身に言い聞かせていますわね。


「馬鹿という評価には抗議したいですけど、元婚約者から追放を宣言されたのは事実ですわ。まだ伝わってないのかしら?」


『星系外の情報はなかなか届きませんからな。完全版の超光速通信を搭載したいところですな!』


爺がわざわざ音声で発言します。

エリシアの目に、じわりと涙が浮かびます。


「隊長、あの赤い戦艦に載っているAI、性能を最低に見積もっても王国の法定性能上限をぶっちぎってます。違法AIです!」


「解析結果出ました。あの戦艦には亜光速大型質量弾兵器が搭載されています。野郎、惑星を破壊でもするつもりか」


エリシアの部下には、なかなかの人物が揃っているようですわね。

もちろん、わたくしは惑星破壊なんて野蛮なことはしませんわ!


「王子を怒らせたのも逃げたのも事実ですわ。逃げる途中に近衛艦隊と戦って勝ちはしましたが、残骸を一隻しか回収できなかったので実質引き分けですわね」


エリシアが気絶しかけてバランスを崩します。

しかし即座に気合いを入れ直し、艦橋の床に踏ん張ってわたくしを睨みつけました。


「説明!」


「長くなるのでわたくしの本拠に招待しますわ。部下の方たちもよろしければどうぞ。新鮮な食材と強いお酒と、なによりたっぷりの空気と水を提供できますわ」


歓声が上がり、エリシアは部下を抑えきれなくなったようでした。



  ☆



わたくしは、王都星系で様々なものを経験しました。

宇宙では極めて貴重な花々を切断して飾ったりするのには最後まで慣れませんでしたが、気楽な立食パーティーなどは好みでした。


「隊長の親友にかんぱーい!」


「リゼルカ嬢ばんざーい!」


既に酔っ払ったパイロットたちが、何回目になるか分からない乾杯をしています。


アマリリス男爵領から取り寄せた酒や料理がすばらしい勢いで消費されていきます。

長期航行の後のパイロットのやることは、辺境でも王国でも違いませんわね。


「リゼルカ、あなたね」


エリシアは軍服のままですが、口調が令嬢のものに戻っています。

凛々しさと可愛らしさの組み合わせは、直接に接すると魔性めいた魅力がありますね。


「面目ないですわ」


男の心を射止めるという戦いに負けたのは事実。

決闘にも逃走にも後悔はないですが、力不足と敗北を認めなければ前に進めません。


「第三王子の顔に泥を塗っただけならぎりぎりなんとかなったかもしれないけど、近衛艦を撃破したのは致命的よ」


エリシアはメイド姿の宇宙港従業員からグラスを受け取ります。

ただ水を飲むという動作が、軍服姿であるのにとても優美です。


エリシアの部下の大部分を占める男性たちが、色々我慢している目をエリシアに向けていますわね。


「ジェド、希望者には遊べる場所に案内してあげなさい」


斜め後ろへ控えていたジェドに命じると、何故かすごい表情をされてしまいました。


「言うことが直接的すぎる!」


ジェドはエリシアの了解を得てから、元気いっぱいの男性パイロットを地表の歓楽街に連れていきます。

ジェド自身は、歓楽街を運営してる有力庶民に挨拶した後、歓楽街には入らず戻ってくるはずです。


そろそろ婚約が成立するみたいですしね。


「女性パイロットには甘い物を用意しています」


メイドではなく、地表から呼び寄せたパティシエたちが現れます。

完成したものを運んできた者もいますし、この場で仕上げを始める者もいます。


色、形、香り。

五感すべてを楽しませてくれますわ。


女性用のあれこれも用意はできますが、王国の価値観的には駄目なことらしいので、希望者にだけ紹介するつもりです。

わたくしは利用したことがないので、手配するのは爺ですわ。


「リゼルカ。感謝はしないわよ。私は旧友に会って歓待してもらっただけ。王国の星系を領有宣言した馬鹿のことなんて知らない」


エリシアは甘いものに見向きもせず、脂身のない肉料理や乳製品などを食べていきます。

そろそろ身長も筋肉も諦めてもいいと思いますわよ。


「それで通りますの?」


「王国では通るのよ」


エリシアが大きなため息をしました。


「リゼルカの事情も分かるから、ヴァルティノアの星系に帰れとは言わない。未踏星系の調査なんて一生に何度もすることじゃないわよ」


「経験者が語ると説得力がありますね」


「何度も成功させたリゼルカが言っても皮肉にしか聞こえないわよ。リゼルカにそんなつもりがないとは分かってはいるけどね」


エリシアの視線が、女性パイロットが集まっている場所へ向きます。

わたくしも、甘味が欲しくなってきました。


「これからどうするのよ。私は任期明けまで宙賊を狩りながら部下の再就職先を探すつもりよ」


小皿にとってわたくしに渡してくれるのが、昔から変わらない人の良さですわね。


「エリシアが王国で働いている間は、わたくしの口からは言わない方がいいでしょう。ところで、撃破した宙賊の艦があれば、残骸でも購入しますわよ」


「何に使うか分かっていても断れないのが……。子供のときみたいに、どんどん巻き込まれていくわね」


エリシアは渋い表情をしましたが、頷いてくれました。

星系内の貴族の懐柔はまだ途上ですけれど、パーツ取り用の艦があれば、貴族の艦がなくても戦力を用意できます。


「勝算は十分あるみたいね。本格的な戦争が始まる前にグランヴェール星系に戻れるかな……」


「戻れるといいですわね?」


建国と領土拡張にエリシアを巻き込むつもりのわたくしは、内心を隠したまま微笑みます。

無言で距離をとられたのは、気のせいだと思いたいですわ。

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