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悪役令嬢リゼルカ、追放されたので紅き戦艦で銀河の頂点を目指します  作者: 星灯ゆらり


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6/10

治安維持艦隊、来襲ですわ

「毒婦め! 正当なる支配者である我らが、今ここで討ち果たしてくれるわ!」


複数の戦闘艦が宇宙港へ向かって来ます。

威勢の良いことを言ってはいますが、ジェド艦隊がまだ戻って来ていない、宙賊相手の戦いでエネルギーと装甲を減らした宇宙港への襲撃です。


「宙賊の好きにさせておいて良く言えるわね。恥という言葉を知らないのかしら」


レッドシャークに乗り込んで宇宙港から出航します。

現在の宇宙港従業員の練度は低く時間がかかりましたが、襲撃者の速度はそれ以上に遅かったですわ。


「ぬかせ! 惑星全軍を前にいつまでその減らず口が続くかな!?」


『大陸ひとつにつき一隻で合計三隻ですな。重装甲艦、砲艦、長距離偵察艦というバランスがとれた編成ではありますが……』


爺の言葉も口調も非友好的です。


「役割が異なる艦を横一列に並べているわね」


『何の意図があるのかまったく分かりませんぞ!』


重装甲艦を盾に砲艦が攻撃に専念して、長距離偵察艦は大きく迂回して敵の退路を断ったり補給拠点を襲ったりするのが一番有効ですわ。


「わたくしを舐めているならその思い上がりごと潰してさしあげるだけですが、これが本気で正しいやり方だと思っているなら、ちょっとまずいですわ」


相手の声から判断して年齢は中年以上。

お年を召されていても凄腕なパイロットはいくらでもいるとはいえ、価値観の修正は大変どころではありませんわ!


「現地貴族を主力艦隊として再編するのは難しいかもしれませんわ」


『ドルフィン級艦隊で艦隊決戦はお勧めしませんぞ!』


「分かっています。あれは航路警備や通商破壊のための艦ですものね」


わたくしは、短時間の加速でレッドシャークを戦闘用の速度に到達させました。

光速の一割は大変な速度ではありますが、敵の攻撃を躱すためには最低限この程度の速度は必要です。


「惑星近くでなんて速度を!?」


驚愕と非難の声で文句が届きました。

わたくしとしては、光速の1%にも届いていないそちらのことが信じられませんわ。


速度が10倍も違えば、相手が反転する前に背後に回り込むのも……本当に簡単にできてしまいました。


『実戦で敵艦の「尻」を目視できる機会があるとは思いませんでしたぞ』


「わたくしも驚いています」


こんなのと同じパイロットや貴族と思われたくないですわ!


「降伏勧告を行いなさい」


『拒否されたのでクラッキングで仕留めますぞ! お嬢様の実力をみせつけるのはここまでの戦いで十分だと思いますが!?』


爺も結構怒ってますわね。

辺境での航行に慣れた爺にとっては、敵の性能も覚悟も温すぎて腹が立つのでしょう。


「クラッキングは故障に見せかけなさい。爺ならできるわよね?」


レーザーで敵艦の推進器を炙ります。

即座にシールドが展開され、つまりそれ以上加速できなくなってレッドシャークから逃げられなくなります。


『もちろんでございます。被弾で不具合が出て故障したことに見せかけますとも!』


爺の機嫌が直ります。

わたくしの機嫌も急上昇します。


これは王国内の決闘ではなく、王国と別の国の戦争です。

捕獲したものは全部わたくしのものですから。


戦い自体はあっさりと終わりましたが、戦利品を宇宙港まで運ぶのが大変でした。



  ☆



「すまなかった!」


合流が遅れたことをジェドに詫びられましたが、あの程度の連戦ではピンチになりようがないですわ。

平然としているわたくしを見て安心したジェドは、留守中の出来事を爺から聞いた途端、目を見開きました。


「超光速通信を個人所有していたのか!?」


ジェドの驚き顔にも慣れてきましたわね。

その隣で秘書っぽく控えている令嬢は……中途半端な距離感ね。


「受信と返信しかできない種類ですわ」


最初の送信が可能な種類も欲しいのですけど、未踏星系の調査でも一度も見つけたことがないのです。

賊が所有していたら略奪する機会もあるのですが、前回は本当に失敗しましたわ。


「まさに雲の上の話だな」


ジェドはわたくしの胸を見て何度も頷きました。

いえ、見ていたのは胸ではなく、ドレスでしょうか。


「最初はドレスを来たまま戦艦を操縦する変人と思っていたが、ドレスを普段着にできる階層の貴族だったわけだ」


「あの、リゼルカ様のご実家とは連絡をとれないのでしょうか」


ジェドといるときは滅多に発言しない令嬢の発言です。

ジェドは少し驚いたようですが、発言の内容には同意して「頭が良いな」と嬉しげにしています。


「物理的に離れすぎていています」


『それに加えて、ヴァルティノアのパイロットの中でも特に理性的なお嬢様でも王都暮らしが続かなかった以上、王国との関係を断ち独立状態へ戻る可能性大ですな』


「独立状態へ戻る? 王国建国時から王国領内のはずでは?」


そう言うジェドですが、自分の言葉に説得力を感じていないようです。

この星系の無法っぷりを見た後なら、王都星系の価値観に染まったパイロットでも色々考えるようになるのでしょう。


「王国からの接触があったのはお爺さまの世代からですわ。お爺さまは王都星系まで攻め込むつもりだったらしいですが、お隣のグランヴェール星系の攻略に手こずっている間にお父様に代替わりして、和平路線に変わりましたの」


わたくしが生まれる前の話ですわ。


グランヴェール家に強いパイロットがいるのは知っていますから、王都星系ならもっと強いパイロットが大勢いると思っていました。

結果は、わたくしが決闘で常勝無敗でしたけど。


『お嬢様という一線級パイロットを差し出すという譲歩を譲歩と思って頂けなかったようですな。まったく嘆かわしい』


わたくしから操縦技術を学んで王国軍の底上げをするとか、全然しなかったですものね。

おかげで決闘や情報収集に励めはしましたが、婚約者相手の色恋だって当初は期待してましたわよ。


「そ、そうか」


不穏な気配を感じたような顔をして、ジェドが慌てて話題を変えようとします。


「リゼルカの実家からの援軍は望み薄ということでいいな?」


「そうなりますわね。下手に連絡すると、わたくしを連れ戻すためだけに遠征艦隊が送り込まれてきます。補給のために進路上の星系を略奪することになるので、ちょっと被害が大きすぎますわ」


『王国から追放された以上、ヴァルティノア家はお嬢様に未踏星系調査を再開して欲しいでしょうからな』


「ヴァルティノア星系近くの調査はほとんど終わってますわ。あれ以上遠くの調査をしたら、さすがに死にます」


長距離遠征になればなるほど必要な物資も危険も増えます。

故郷に尽くす気はありますけど、限度というものがありますわ!


「待ってくれ。グランヴェール星系だったか。その星系がヴァルティノア家からの侵攻を防ぐのではないか?」


「長年の防衛戦争でグランヴェール星系の経済はぼろぼろですし……。主力艦隊が傭兵として出稼ぎに出ていますから、ヴァルティノアからの通行許可要求を受け入れると思います」


王家からの支援なしで戦い抜いたグランヴェールのことを、ヴァルティノアは尊敬しています。

尊敬しているから是非戦いたくもあるのですが、応じてくれないのですよね。


「……第三王子に甲斐性があれば全部丸く収まったんじゃないか! クソっ、王家への忠誠心が消えそうだ」


「王家は見捨てて正式にわたくしに仕えなさいな。その子と一緒にアマリリス男爵家を継いで、わたくしを支えてくれてもよいのですよ」


ジェドと令嬢が無意識の動作で見つめ合い、両者ほんのりと頬を染めました。

初々しいですわね。


「ジェド艦隊のお陰で星系内の物流はほぼ掌握できました。今後は、惑星地表の支配は後回しにして星系外からの侵攻に備えます」


荒っぽい手段を使えば地表支配は簡単です。

しかし、地表の環境にダメージを与えてまで急ぐ必要はありません。


「リゼルカに正式に仕えるかどうかは、もう少しだけ考えさせてくれ」


「いいですけど、王家の艦隊がこの星系に到着するまでには決めなさいね」


わたくしを倒せる戦力を王都星系からこの星系まで移動させるとなると、移動だけでも膨大な物資とエネルギーが必要になります。

ドルフィンや今後増える戦力のことも考えると、物資とエネルギーの必要量はさらに増えます。


準備はとても大変なはずですし、わたくしを倒せない程度の戦力しか用意しないなら、わたくしが鹵獲して戦力強化する好機ですわ。


『お嬢様。リング周辺に設置した偵察ドローンからの通信です。時差は5時間でございます』


ディスプレイに、リングから隊列を組んだまま現れる艦隊が映し出されました。

どれも宇宙線に焼かれ、レーザーによる融解や質量弾による弾痕が目立つ艦ばかり。


それでも、青い盾型の戦艦を先頭に、強い気合いと高い技術を感じさせる威容がありました。


「治安維持艦隊、どうして、いまさら……」


ジェドのお相手が絶望顔になってジェドに慰められています。

わたくしがこの星系を訪れる前に彼らが来ていれば、平和に終わったかもしれませんものね。


「評判の良くない艦隊のようだ。辺境星系出身の傭兵が中心の……グランヴェール星系出身?」


ジェドが気付いたようです。

わたくしは、特徴的な盾型戦艦を見た時点で気付きましたわ。


「爺、挨拶に行きますわよ!」


『ご友人に迷惑をかけるのはどうかと思いますぞ!』


爺の諫言を聞き流しながら、わたくしはレッドシャークへ向かいます。


エリシアに会うのも久しぶりです。

味方になってくれるなら嬉しいですし、敵として立ち塞がるなら長年望んできた真剣勝負がついにできるということ!


「待っていなさい、エリシア・グランヴェール!」


涙目でこっちに来ないでという顔が脳裏に浮かんだ気がしますが、きっと気のせいですわ。

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