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悪役令嬢リゼルカ、追放されたので紅き戦艦で銀河の頂点を目指します  作者: 星灯ゆらり


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3/10

奴隷市場を潰しますわ

ハイパーレーンの中は真っ白ですわ。

恒星も惑星もない真っ白な空間に、浮かんでいるのは惚れ惚れするほど赤いレッドシャークちゃんだけ。


超光速で跳べてしまう空間ですので、自艦しか目視できない空間ともいえますわね。


『お嬢様。そろそろ出口側のリングですぞ』


「久しぶりのハイパーレーン、もう少し味わっていたかったですわ」


既に追っ手は探知可能な距離にいません。

三つ目の星系までは大急ぎで集まった王国主力艦隊もいたのですが、頻繁な進路変更で推進剤が尽きたりして追跡を断念したようです。


『お嬢様の宇宙への適性はどこから来るのでしょうな』


「稼げる才能ですもの。良いところだけ遺伝してほしいですわ」


雑談をしている間も速度は変化していきます。

推進剤を使わなくても、リングに近づくほど遅く、遠ざかるほど速くなるのは、なんど説明を聞いても理屈がよく分かりませんわ……。


『通過しますぞ!』


視界が白から黒へ一瞬で変化します。

一つの恒星と複数の惑星で構成された星系の中に、大量の通信が飛び交っているのが感知できました。


「通信量は王都星系なみですわね。王都より田舎に見えますけれど」


レッドシャークが知らせてくる現在速度は光速の12%。

敵対的な艦も基地も近くにはいないと判断して、わたくしは通信内容を確かめようとしました。


「ちょっと、爺。フィルターがかかっていますわよ。わたくし、もう子供ではないのですから」


『お嬢様が子供だからではなく、パイロットの健康を維持するための措置でございます』


パイロットを孤独に陥らせないため、常に余裕とユーモアを忘れないはずの爺が淡々と返答します。

これは緊急事態ですわね。


『こちらをご覧ください』


かなり騒々しい、庶民用の娯楽番組、かしら?


「……待ちなさい」


冷たい声が出た。

宇宙服の代わりに装着している仮面を操作し、すべてのモザイクを強制的に解除する。


「奴隷が競りにかけられていますわね」


『仕事先の紹介という形式にはなっていますな』


わたくしは襲撃計画を数秒で立案する。

救出した人間を乗せるならレッドシャークだけでは足りないので、人材も確保して艦隊や宇宙港を手に入れなくては。


後方のリングに反応がありました。

円錐形の艦が、ハイパーレーンからこの星系に現れたのです。


一週間前は美しい銀色だった装甲は無数の傷で覆われていて、限界を超えて使用した推進器は半ば焼け焦げていました。


「追いついたぞリゼルカ・ヴァルティノア!」


わたくしに届いた声は力強く、受信したデータは正式な挑戦状でした。

敵とはいえ、礼儀には礼儀で応じなくてはね。


「いまのわたくしはただのリゼルカ。リゼルカ・レッドシャークですわ!」


「俺はジェド・カルマン! 貴様の自称などどうでもいい! 近衛として命令に従い捕まえるだけだ!」


円錐形の艦が横向きに加速します。

なかなかの加速で、一定の距離を保って撃ち合いをするなら教科書通り、即ち理想的な戦い方といえるでしょう。


『お嬢様』


「推進剤の残量には気を付けますわ」


このままレガリア・スピアを使うとレッドシャークの速度が上がりすぎて減速用推進剤が足りなくなります。

だから、逆噴射で速度を落とし、レッドシャークの向きを少し変えます。


近衛艦もわたくしの意図に気付きましたが、光速の一割という速度と比べて操作と判断が遅い。

レッドシャークを追い越してしまいます。


わたくしの目の前に、近衛艦の「尻」が無防備に晒されていました。


「馬鹿な!?」


「追い越させて背中を取る。――作法どおりの戦ですわ」


船体のあちこちにある小型砲塔の狙いをつけ、近衛艦が使用中の推進器を狙います。

装甲もシールドもない状態では、弱い威力のレーザーに耐えることは難しいです。


溶かされて爆発する前に推進器の使用を止めた近衛艦は、速度と進路を変えることができず一方的に攻撃されるままになります。


『この距離で決闘でございますか。お嬢様の苦手分野では?』


「最初に決めた動き続ける方ばかりだったので、相手の進路を見ながら動きを変えるだけでなんとかなりましたわ」


古から存在する、降伏勧告の信号を発信します。

当然のように拒否され徹底抗戦を宣言されますが、わたくしには説得する自信がありました。


「誇りに従い戦場で果てたいなら止めはしませんわ。でも、この無法の星系を放置して死ぬ気かしら?」


星系で放送されている番組を中継して差し上げます。

子供が商品として扱われている映像ですわ。


「子供に、番号札を……。こっ、このようなっ。まさか貴様がやらせたことか!?」


ほとんどの推進器を破壊され、今は操縦室を守る装甲をレーザーで焼かれているというのに、黒髪の近衛パイロットは自身の命ではなく子供のことを心配して憤っていました。


「今からわたくしが止めに行くのですわ!」


わたくしの宣言に、近衛パイロットは呆気にとられていました。



  ☆



「捕虜パイロットとしての待遇を要求する」


ほぼ残骸と化した近衛艦ごと回収したパイロットは、平凡な顔立ちとパイロットらしい肉体を持つ男性でした。

高加速に耐えられる太い骨格と厚い筋肉は、正直うらやましいですわ。


「わたくしに撃墜されたことにした方が、ご家族に迷惑がかからないのでは?」


「近衛艦隊が全滅した以上、俺は実家から縁を切られる。もともと三男だしな」


ヘルメットを脱いで脇に抱える。

近衛艦隊の中で唯一わたくしに追いつくことのできたパイロットらしく、迫力もあります。


非武装に見えるわたくしに襲いかからないのは、王都星系の貴族としてはまともな部類ですわね。

もし不埒な真似をすれば、爺がコントロールする艦内兵器で息の根を止めてましたけど。


「捕虜としての待遇は約束します。……それはそれとして」


わたくしの口元が釣り上がります。

身の程を力で教えるのは、支配者にとっての義務であり、わたくしの好みでもあります。


「わたくしに協力しなさい。目的は奴隷および奴隷の扱いをされている者たちの保護および社会復帰」


「いや、救出には協力するつもりだが、社会復帰? こっちはたった2人だぞ? 重要なのは分かるが……」


ジェド・カルマンは困惑しています。

人を助けた後も大変だと分かる程度の知性はあるようです。


「そこまでできて初めて支配者と名乗れますの。宇宙港ひとつと宇宙港防衛用の艦が一隻あれば、物資調達と艦とパイロットの調達はわたくしとレッドシャークができます」


わたくしとレッドシャークでも、遠征と拠点防衛は同時にはできません。

法衣貴族の三男から近衛パイロットになるほどの人材が一時的とはいえ手に入ったのは、本当に幸運です。


「ああ、そういえば第三王子とはいえ、王子の婚約者だったか。パイロット以外の技術も……いやそもそもなんで王子の婚約者が凄腕パイロットなんだ?」


「わたくしの生まれ故郷では、パイロットでなければ領主はもちろん貴族にもなれませんわ!」


『パイロットの腕があれば良いと主張して船を乗り回すお嬢様と、パイロットとしての腕はもう十分だから貴族としての教養を身につけろと諭すご家族との間で激しい争いがありました。最終的に、教育AIである私がレッドシャークに搭載されることになりましたぞ』


「ちょっと爺。わたくしの幼少時の失敗を、部下とはいえ他人に話すのはどうかと思いますわよ!」


「辺境星系の文化はどうなっているんだ」


ジェドは頭を抱えます。


わたくしに部下あつかいされたのに否定しませんでしたね。

このままなし崩しに部下にしてやりますわ!



  ☆



「いよいよ本日の目玉商品です! アマリリス大陸を支配する男爵のご令嬢です!」


わたくしの仮面が中継する番組は非常に下品で、だからこそ人の本能を刺激します。

絵に描いたような令嬢の艶姿に一瞬見とれたジェドが、恥じた表情で視線を逸らしました。


「本能の下劣な部分を制御できるのが文明人です。多少なら見て見ぬふりもできましたが」


わたくしの言葉と声に籠もった殺意が、ジェドの体を震わせました。


『お嬢様。この進路でよろしいので?』


「成人している貴族令嬢より、二束三文で売られている子供の方が優先です。支配し、統治できるから貴族は貴族でいられるのです」


わたくしが持論を述べている間に「ざくり」とレッドシャークが宇宙港に突き刺さりました。

黒々とした巨大建築物に、紅の刀身が半ばまで埋まっている様は、なかなかの見応えかもしれません。


番組はまだ続いています。

ステージの中央、目玉商品と司会の鼻先で止まった「赤い剣先」のさらに先端が、大きく映されます。


照明を浴びて金に輝く有翼サメ紋章が、とてもチャーミングですわ!


「わたくしはリゼルカ・レッドシャーク」


紅の船体に複数あるレーザー砲塔が、オークション会場にいる武装兵に対して砲口を向けます。

一兵士としてどれだけ強くても、戦闘艦のレーザーに耐えられる兵士はいません。


ジェドが船外に出ます。

レッドシャークから伸びるケーブルを会場脇にある固定式情報端末に接続します。


『これは酷い。数世代前のプログラムを更新せずに使っていますな』


会場が一瞬だけ明滅した後、会場中央に、真紅を背景に泳ぎ回る有翼サメの立体映像が表示されました。

会場がある宇宙港だけでなく、周辺の無人武装衛星まで、爺によるクラッキングが成功したのです。


最低限の倫理すら持たない人間に従うのはもう嫌だと、すべての機械が主張しているようにも感じられました。


「今このときから、この星系に存在するすべてが、わたくしの支配下に入ります。奴隷などという非効率かつ非道徳な存在は許しません」


わたくしの宣言が響きます。

それまで気丈に立っていた令嬢が安堵のあまり気絶して、ステージの頭から倒れる寸前にジェドに抱きとめられています。


「文句があるならいつでもかかってきなさい。わたくしが直接相手をしてあげますわ!」


まずは宇宙港がひとつ。

ここからわたくしの快進撃が始まるのですわ!

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