9 エピローグ
「えっヴィクター話しちゃったの?」
「偶然聞かれてたみたいでさ。全部じゃないそうだけど」
「わあ〜、悪意はないから。いやなかったから。こいつの態度が酷すぎて注意をしたつもりだったんだよ。ヴィクターそういうことは早く教えてくれよ」
「ええ、分かっていますわ。お陰様でヴィクターが目が覚めたようで嬉しく思っていましたの。中々お会いできず今日になってしまいましたが、ちゃんとお礼が言いたかったのです」
「次の日にお前を探してお礼を言おうと思ったんだが学院に来てなかっただろう。しばらくして留学したと聞いた」
ギルバートは語学を勉強するためにニ年間隣国に留学していたのだ。
「手紙にでも書けよ。いくらでも機会はあっただろう」
「お前のお陰で上手くいったと書いたが」
「聞かれていたとは書いてなかった。言葉が足りないんだよ、ヴィクターは。
マリエッタ夫人、こういう奴なのでよろしくお願いしますね」
「ごめん、自分の馬鹿さ加減が身に染みていて立ち直ることに精一杯だった」
「ふふ、仲がよろしいんですね。これからもよろしくお願いします」
「じゃあ楽しんでくれ、まだ挨拶まわりが残っているんだ。行こうかマリエッタ」
「屋敷にも遊びにいらしてくださいませね、歓迎いたしますわ」
「ありがとう、是非伺わせてください」
ヴィクターが手をぎゅっと握ってきた。
「私以外の男を嬉しそうに見ないで。貴女は私のものだ」
「まあ、やきもちですか?初めてですわね。嬉しいです。でも好きなのはヴィクターだけですよ」
「う、うん。愛している」
ヴィクターが跪き、熱のこもった目で手を握った。
「マリエッタ・クロス嬢貴女を愛しています。一生裏切りません。貴女を私だけにください」
「はい、よろしくお願いします」
真っ赤になった花嫁は輝きを増していた。
周りは突然のプロポーズにやんやの拍手をした。
こうして私たちは結婚をした。
ヴィクターは信頼のおける侍従に支えられて執務を頑張り、私は家政を取り仕切りお茶会に出かけては、新製品を売り込み社交界の噂話を仕入れている。
同級生は相変わらず強力なお得意様だ。
もちろん舞踏会に二人で出かけ、いちゃいちゃを見せつけるのも忘れない。未だに現れるヴィクターの愛人を狙う女達を牽制するためだ。
ヴィクターが私を見つめる瞳は蕩けるように甘くなった。態度も然り。昔の淡々とした付き合いを知っているギルバート様が別人かと呆れていた。
愛人を狙う女など面倒なので名前を把握し化粧品を売らないことにした。王都と領地に五店舗に増えたマリ商会に通達を出した。
今やマリ商会の化粧品を使っていることが社交界のステイタスになっているのだ。話に付いていけないことが貴族社会での立場を無くすと思い知って貰わなくてはならない。
それでも執拗に繰り返す女の家には伯爵家から書面で抗議を行った。当主が言い付けていることが多いからだ。それでもやると言うならクロス商会が品物を売らない。
水や燃料に至るまでクロス商会は手を広げているのだから。
潰れて無くなった貴族家が数軒あるらしい。見せしめかしら、お父様容赦がないですわ。当然ですけど。
持ち直したアレクサンドロ伯爵家は領地で採れる葡萄でワインを造り売り出して成功した。お義父様が騙されて借金のかたにされてしまった土地も買い戻すことが出来、領民に泣いて喜ばれた。
税金が急に三倍になったので逃げ出す人が多かった。新しい領主は重税をふっかけていたのに、領民に何も還元せず私腹を肥やすばかりだった。
急に領民が減りすぎたのを不審に思った国から調査が入り、土地を国に返すように厳しい沙汰があった。そこを適正価格で買い戻せた、というのが実情だった。
逃げ出した領民は少しずつ戻り始めていた。
私達も領地の視察に一年に三回くらいは行くようにしている。葡萄畑が広がる長閑な場所になり、ワイン祭りも催されるようになった。
領主からワインが振る舞われ飲んだり食べたり踊ったりするのだ。
屋台も沢山出て大賑わいだ。
そのお祭りに今年は行けそうにない。お腹に命を授かったから。
ヴィクターは泣いて喜びとても過保護になった。庭を散歩していると飛んできてエスコートしようとするのだ。転ぶと思っているらしい。散歩なのに・・・と遠い目になってしまう。
庭は芝が綺麗に刈り込んであって平らだ。転ぶ可能性は限りなくゼロに近い。
愛されているせいだから言わないけど。
私に似た女の子が欲しいらしい。「貴方に似た男の子でも良いわね」と言ったら驚いていた。えっなんで?どちらが生まれても可愛がるわ。無事に生まれてきてね。あなたに会うのを楽しみに待っているわ。私たちの赤ちゃん。
読んでいただきありがとうございました。これで最終回になります。
きっと可愛い子が生まれてくると思います。ヴィクターは甘々な父にマリエッタは賢い母になるでしょう。
では皆さま又お会いできますように。




