2 お茶会
それから数日後お茶会の日ヴィクターは真っ赤な薔薇の花束を持ってやって来た。
いつもくれるのはもっと可憐な花だ。え〜やらかすの、嘘告。ならば迎え撃つまで。
マリエッタは気合いを入れた。
今日はヴィクターの瞳色の水色のデイドレスだ。白銀の髪はいつも侍女にオイルで手入れして貰っているので艶々だ。化粧も薄くした。唇はさくらんぼうのようなピンク色のリップだ。ハーフアップの髪留めは青色。いかにも貴方のためのという装いを心がけた。
今日のお茶会はガゼボに用意させた。春の陽射しが柔らかく、風がそよそよと吹き庭園にはチューリップやパンジー薔薇の花が色とりどりに咲き乱れている。
お祖父様が遠い東の国で買ってきたサクラという木々がピンク色の花を咲かせ楽園と言える美しさだ。
侍女にいただいた花束を渡し、お茶を淹れさせ見える所に下がって貰った。
さあここで言ってご覧なさい。嘘告。
「今日も綺麗ですね。ドレス良くに合っています」
「ありがとうございます、お花飾らせて貰いますわね」
「ああ、此処はこんなに美しい庭園だったのですね。今まで貴女に見惚れていて気が付きませんでした」
(うわ~、きた~嘘)マリエッタはブルっと寒気を感じた。
「そんな、私なんてお花には負けてしまいますわ。あの大きな木は遠い東の国のサクラというのですけれど下から見ると空がピンク色になったようでとても素敵ですのよ」
「いや、どんな花より貴女の方が美しいと思います」
(うわ〜今更だわ。私なんて白銀の髪に紫色の目で ザ・平凡は自覚しているのよ)
Sクラスは王族と高位貴族ばかり、存在自体が眩しい。あの方々とは違うのを毎日身に染みて感じていたマリエッタが、自惚られるわけもなかった。
「初めてですわね、そんなに褒めていただけるのは。でも無理をされなくてもいいのです。自分がどのような容姿なのか分かっておりましてよ」
少し自虐を込めて言ってみた。
ヴィクターは今まで目の前の婚約者を褒めていなかったのを思いだし、ここにきて漸く罪悪感を感じた。
どうせ結婚をする政略だから褒めなくても良い。淡々とした関係で充分だ。
そう思っていたのに花の中にいる彼女の恥じらうさまが可愛らしい。(マリエッタは恥じらってなどいなかった。ただ冷静にヴィクターを見、自己分析をしていた。残念ながら大分低めではあるが)
ギルバートの言う通り告白して良かった。(していない)どうして今まで言葉を惜しんでいたのか過去に戻って自分を殴りたいと思った。
「そのように卑下されることはありません。貴女は美しい。そのドレス、もしかしたら私の色でしょうか?嬉しいです」
「ええ、気がついていただけて良かったですわ。侍女達が張り切ってくれましたの、月に一度のお茶会ですもの」
デイドレスといえ最高級の生地で作られているそれは可愛らしいデザインで気品は充分だった。
マリエッタは自虐しているがSクラスで培われた上品さは隠しようがなかった。周りが尊い方たちなのだ。与えられた教育と相まって所作の一つ一つが輝いていた。
「今まで大変な思い違いをしていました。申し訳ないです。これからやり直させてくださいませんか。朝学院に行くときにお迎えにあがっても宜しいでしょうか。出来れば帰りもご一緒に」
(告白はして貰ってないわよね。これも計画の内なのかしら。それにしても今までと随分言葉と態度が違いすぎるわ。どうしたことかしら)
「急にどうされたのですか?無理はされなくてもよろしいですわ。遠回りになりますわよ」
屋敷間は馬車で三十分程離れていたのでヴィクターは随分早起きしなくてはいけないはずだ。
「婚約者として当然のことをしていなかったと気がついたのです。嫌でなければ是非」
毅然としてヴィクターが言った。
「ではよろしくお願いしますわ」
(ヴィクターが嘘を吐くのなら乗ろうじゃない、やり返すのはそれからね。今日は嘘告はなしでいいのね、それも計画のうちかしら。どんな風にやるのか見せていただこうかしら)
ヴィクターは今更ながらに気づいたマリエッタの可愛らしさと、自分の迂闊さを反省し、隣に立てる幸運を神に感謝した。
そして明日ギルバートに会ったらありがとうと伝えようと決意したのだった。
読んでいただきありがとうございます。
自分の置かれた立場に漸く気づいたお馬鹿なヴィクターが、どう成長するのか見守ってやってください。




