僕は孤独を選んだ
幼い頃、黒沢春翔は誰よりも明るく、友達に囲まれていた。
だが、小学三年生のある日、彼の世界は一変する。
「春翔は売春婦の子だ」――その一言が、すべてを壊した。
友達に拒絶され、母の存在までも否定された少年は、涙の中で自分の居場所を見失っていく。
母の優しさに救われながらも、心の傷は消えず、春翔は次第に心を閉ざしていった。
そして年月が流れ、高校生になった彼は冷たく、無口で、孤独を選ぶようになる。
だが――その奥底には、まだ泣いていたあの日の少年が確かに存在していた。
黒沢春翔は、かつては明るい子供だった。
いつも笑顔で、友達も多く、誰とでも仲良くなれた。
しかし、その日常は小学三年生のときに壊れてしまった。
「おいおい!春翔と遊ぶなよ!あいつは売春婦の子だ!」
「え…ほんと?でも春翔っていい子だよね…」
「とにかくダメだ!」
その言葉は棘のように春翔の耳を突き刺した。
その日を境に、友達は少しずつ彼から離れていった。
【どうして…どうしてみんな僕を嫌うの?】
春翔はただの無垢な子供だった。
放課後、公園のベンチで涙を流しながら一人座っていた。
「僕は…ただみんなと遊びたかったのに…」
「母さんだって…いい人なのに…」
嗚咽は次第に大きくなり、夕日が沈む頃になっても春翔は泣き続けていた。
その時、心配した母の黒沢アンナが迎えに来た。
だが学校へ行く前に、公園で泣いている息子を見つけた。
「えっ…ハルちゃん、どうして泣いてるの?」
春翔はうつむいたまま、涙が止まらない。
母は震える声でもう一度問いかけた。
「どうしたの…お友達に意地悪されたの?」
ついに春翔は口を開いた。
「母さん…僕が売春婦の子でも、どうしてダメなの?」
アンナは言葉を失った。
胸を締めつけるような罪悪感に、呼吸さえ苦しくなる。
幼い春翔がそんなことを知っているなんて、思いもしなかった。
「僕は…母さんの子であることが罪なの?
母さん…僕はいい子だよね?
母さんも僕に優しいのに…どうしてみんな僕を嫌うの?」
春翔は声をあげて泣いた。
アンナはすぐに小さな体を抱きしめた。
「ハルちゃんはいい子よ…泣かないで。
きっと、他にも友達はいるから。」
だが、その言葉は心の傷を癒やすことはできなかった。
それから春翔は変わってしまった。
家に帰った後も沈んだまま、明るさは影に覆われていた。
「母さん…明日、学校に行きたくない。
僕はここで母さんを手伝いたい。」
アンナは絶句した。
その言葉が幼い心をどれだけ壊したか、痛いほど伝わってきた。
春翔はまだ小さな子供だった。
本来なら幸せに包まれているはずなのに…。
だが幸運だったのは、彼が母を憎むことは決してなかった。
――あの日から、春翔の日常はもう元には戻らなかった。
明るく笑っていた少年は、口を閉ざすようになった。
誘いを断り、視線を避け、孤独を選んだ。
かつての笑顔は…もうどこにもなかった。
【このまま一緒にいたら、また傷つくだけだ。】
やがて一人で生きることに慣れていった。
母の小さなカフェだけが、心休まる場所になった。
そして年月が経ち――。
黒沢春翔は冷たく、無口な高校生へと成長した。
笑うことは少なく、話すことも少なく、誰にも心を開こうとしなかった。
だが、その奥底には…。
あの日、公園で泣いていた小さな少年のままの春翔が確かにいる。
誰かが手を差し伸べてくれることを、ずっと待ちながら。




