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万象と歩む  作者: 優彌
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〈壱、初邂・花祭〉序章 風の通り道

旅をし続けて、

このような人たちが自分の歩んできた世界で旅してたらいいなと思って、

この物語が生まれました。


AIの力を借りて中国語で書いた小説を日本語に翻訳したものなので、

言葉に違和感を感じるかもしれないが、物語を楽しんでもらえたら幸いです。


旅で出会った二人の青年の幻想的な恋の話です。

二人と一緒に旅に出た気分になってもらえたら嬉しいです。

朝まだき、雲は綿のように空を漂い、そよ風が大地を撫で、細かな草と花びらを巻き上げていた。


そこは開けた丘の地。長く伸びた草のあいだに、小さな野の花が点々と咲いている。数本の老木が思索する者のように佇み、枝は垂れ下がり、通りすがりの旅人に静かに木陰を差し出していた。陽の光が葉の隙間を通り抜け、地面にまだらな光を落とす――まるで夢のかけらのように。


夏清かせいは一本の木の下に座り、両手を膝の上に置いて、目を閉じていた。

風が前髪を優しく揺らしても、彼は動かない。ただ、何かを聴いているように静かに座っていた。

そばには竪琴が立てかけられ、その弦が時おり風に揺れて微かに震えた。それは、遠くの湖に広がるさざ波のような響きだった。


彼は、こうして待つことに、すでに慣れていた。


十年の旅路の中で、夏清は多くの出会いと別れを経験してきた。

彼はよく言う。

「旅の中で最も大切なのは、目的地じゃなくて、途中での出会いだ」と。

彼は決して焦って出発しない。なぜなら、来るべき人は、必ず正しい時に目の前に現れることを、知っているからだ。


そして――その人は、現れた。


午後の柔らかな光が草原を包み、風は静かに吹き抜け、野の花と旅人の髪をそっと撫でた。一人の若き旅人が、ゆっくりと歩み寄ってきた。急がず、遅すぎず、どこかためらいながら。


肩に古びた布製のリュックを背負い、髪には数枚の落ち葉がくっついている。鼻先は少し日焼けし、前髪が瞳を半ば覆っているが、その目は澄みきっていた。

まるで山あいの清流のような透明さと、見知らぬ場所への少しの不安、そしてなにより好奇心。


彼の視線が丘をひとまわりして、ふと一点に止まった。


古木の下──そこに、風景と一体になったかのような男が座っていた。


深い灰色のリネンシャツに、淡い茶色のズボン。髪は少し乱れているが、かえって自然体で整って見える。

その佇まいには風のような静けさと、なぜか目が離せない不思議な魅力があった。


冬陽ふゆひは少しためらったが、やがてそのもとへと歩み寄った。


「……ここに座っても、いいですか?」


声は低く、まるで神聖な静寂を乱さぬようにと気遣っていた。


男はゆっくりと目を開け、まっすぐに彼を見つめた。

その瞳には空の光が映っていて、静かで深く、遥か遠くと心の奥とを同時に見つめているようだった。

一瞬、口元がかすかにほころび、彼はうなずいた。


その瞬間、風が止んだ。

――それは、錯覚だったかもしれない。


冬陽はそっと腰を下ろし、バッグを横に置いた。まるで、まだ始まっていなかった旅を、ようやく下ろしたように。彼は両手で膝を抱え、丘に差す光と影を眺めながら、話題を探しているようでもあり、相手の言葉を待っているようでもあった。


「僕、冬陽ふゆひっていいます。……初めての、一人旅なんです。」


「俺は夏清かせい。」

夏清は彼を見つめたまま、微笑を少しだけ柔らかくした。「初めてなら、この風の音と、最初に出会った野の花をちゃんと覚えておいたほうがいい。」


冬陽は思わず下を向き、足元の草むらに咲く小さな白い花を見つけた。彼は宝物でも見つけたかのように微笑み、こくりとうなずいた。


「もう、長く旅をしてるの?」


「十年くらいかな。」

夏清は午後の風のような声で答えた。

「風が行けと言えば、どこへでも行くよ。」


冬陽はその言葉に目を見開いた。


「……風の言葉が、分かるの?」


夏清は一度まばたきして答えた。

「わかるときもあるし、わからないときもある。けど本当に必要なときには、ちゃんと話してくれる。」


冬陽は彼をじっと見つめ、その眼差しは驚きから、どこか憧れの色を帯び始めた。

この人の自由さに、そしてその落ち着きに、心を奪われたのだ。


「……なんだか、すごいですね。夏清さんって、いろんなことができそう。」


夏清は彼に目を向けて、静かに微笑んだ。

その微笑は、時の霧を超えて届いたようで――冬陽の中に、どこか懐かしい面影を見た。まるで過去の誰かが、記憶の深くから浮かび上がってきたようだった。


「たくさん歩いてきただけだよ」

そう呟いた彼の声は、過ぎ去った季節の風のように優しかった。

「焦らなくていい。君も、きっとそのうちわかる。」


風が再び吹き抜けた。今度は、ほんのりと花の香りをまとい、北から二人の足元を撫でるように通りすぎていった。


冬陽は無意識に息を吸い込んだ。

それが、初めて「風の匂い」を知った瞬間だった。


その夜、二人は木の下に火を灯し、乾いたパンと残りの果物で夕食を共にした。夏清は旅の琴を取り出し、柔らかな旋律を奏でた。冬陽も、少し不安げながら、昔覚えた歌を小声で口ずさみ始めた。その歌声は拙いが、心からの温もりがこもっていた。


二人は同じ木にもたれ、夜空に輝く星を見上げていた。誰も口を開かなかったが、不思議と静けさは感じられなかった。


それは言葉や距離を超えた、魂の交差のようなものだった。

まるで、初めて出会ったふたつの川が、そっと波紋を交わすように。


寝袋の中で冬陽が身をよじり、ぽつりと言った。


「夏清さんって、風みたいですね。」


夏清が眉を上げる。「……風?」


「夏の風。涼しくて……ちょっと寂しげ。」


夏清は何も言わずに、静かに微笑んだ。

夜が深まり、風の音が遠のくまで黙っていた。そして、ぽつりと囁いた。


「君は──冬の陽だな。」


そのとき冬陽はもう眠っていて、聞いていなかった。


風は静かに草原を撫で、星々は夜空の高みに瞬いていた。

この旅は、清らかな風と、暖かな陽の出逢いから始まった。

雷鳴も稲妻もなく、ただ静かに、運命の扉が開かれるように。


お読みいただきありがとうございました。

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