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prologue

 こうして一つの『戦争』が終わり……そして次の『戦争』が始まった。


 宇喜多芽衣は、瓦礫の中を1人歩いていた。あれから。病院で目が覚めた時には、彼女は16歳になっていた。意識を取り戻した時、いつの間にか姉の年齢を追い越してしまっていた。不思議な……いや、それどころか、世の中が何もかもが変わり過ぎていて、自分だけ取り残されたような、1人異世界にでも迷い込んでしまったような……そんな奇妙な感覚だった。


 数分歩いただけで、何処からともなく、空襲警報がけたたましく鳴り出した。と言っても、道行く人はもはや誰も逃げようともしない。今日だけで、警報は3回目だった。襲われたら最後、助からないことを皆悟っていた。大体『敵』が、空から来るとも限らない。足元から突然、ドリルで穴を掘って湧き出て来るかも知れないのだ。黒い、翼の生えた、死神としか思えない化け物が、世界各地で目撃されない日は今や一日たりともなかった。


 瓦礫の山を抜け、共同墓地に着くと、芽衣は『宇喜多家』と書かれた墓の前で立ち止まった。


 あれから一年。今日は事故が遭った日……みんなの命日だった。家族を亡くした芽衣だったが、正直まだ実感は湧かなかった。目覚めてからまだ日が浅いからかもしれない。特に、親しかった姉などは、まだその魂が自分の胸の中に潜り込んで居るような……そんな奇妙な感覚だった。


 生き残ったというよりは、取り残された。そんな感覚だった。気がついたら、みんないなくなってしまっていた。芽衣に家族の現状を告げた医者は、こないだの空襲で爆死した。悲しむ暇もなく、怒る暇もなく、次の攻撃が始まる。これを絶望と呼ぶのなら、あるいはそうなのかもしれない。


 喪服代わりのセーラー服姿で手を合わせ、目を閉じ、しばらく芽衣は父や母、そして姉に話しかけていた。長い、長い間彼女はそうしていた。やがて、持ってきた小さな野花をひび割れた花瓶に差し、立ちあがろうとしたその時。彼女の視界に、ふとあるものが飛び込んできた。


「これは……」


 ……さっきまでこんなものがあっただろうか? 芽衣は小首を捻った。墓石の横に、見慣れない筒状のものが立てかけてある。不審に思いがながらも、芽衣は腰を上げ、ゆっくりとそれに手を伸ばした。再び空襲警報が鳴り響き、芽衣の鼓膜をビリビリと震わせた。


「……日本刀?」


《第三部/大惨事世界大戦編へ続く……続かないよう祈りを込めて》

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