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ROUND 3 織田信長 vs ナポレオン・ボナパルト②

 事の始まりは、舞がダビデと戦うさらに数日前だった。


 数日前、4人は現代の東京にいた。

 宇喜多舞と、東禅寺花凛とその弟飛鳥。(いず)れも参加者3名と、そして死神の泥梨葬太を加えた4人である。


『第一のゲーム』で戦いを終えたばかりの舞たちは、泥梨に連れられ、郊外にある大型ショッピングモールに来ていた。良く晴れた昼下がりだった。店内は家族連れで賑わっている。吹き抜けの巨大なホールに、底抜けに明るい音楽がそこかしこから響いていた。


 通路はごった返していたが、舞たちデスゲームの参加者は、幽霊であるが故、他の客には見えていない。まさかこんな良い天気の、こんな時間帯に、こんな場所で幽霊が出るなんて誰も思っていないだろう。


 唯一実体を持った泥梨だけが、大きなスーツケースを引き摺って、スイスイと先へ歩いていく。舞たちは他の客に打つからないように……あるいはその体をすうっとすり抜けながら……泥梨の後について行った。4人が訪れたのは、カプセルガチャが並んでいるコーナーだった。


 小銭を入れたらランダムで商品が出てくるアレである。ガチャコーナーにも大勢の客が群がっていた。人気アニメキャラのキーホルダーや、ミニチュアサイズの食玩に豆本、はたまたプラモデルなど。フロアの一角に何台ものガチャが積み重なり、まるで迷路か、集合団地みたいだった。


「江戸時代に行くんじゃなかったのかよ」


 舞が泥梨に尋ねた。先導していた泥梨は、笑いながら3人を振り返った。


「此処から行くんだよ」

「はぁ?」

「この中に、タイムマシンを隠しておいたんだ」

「タイムマシン??」


 死神はガチャコーナーの一番奥まで行き、それから

『英雄ガチャ 〜古今東西の最強武将&武人大集合〜』

の前で立ち止まった。


「じゃ〜ん。此処からタイムスリップできま〜す」

「何言ってんだコイツ……」

揶揄(からか)ってるのか?」

「違うよ。君たちにはまず、このガチャを引いてもらってだね」


 花凜に睨まれ、泥梨は慌てて説明を始めた。


「中には『英雄バッヂ』が入ってる」

「英雄バッヂ?」

「そう。たとえば織田信長とか、ナポレオンとか……参加者はバッヂを付けることによって、英雄の御魂をその身に宿すことができるんだ」

「何言ってんのかさっぱり分からねえ」

「要するに織田信長になれると言うことだね。なれるというか、さすがに見た目までは変わらないけど。その英雄の(カルマ)を背負うと言うのかな……決して良いことばかりではないけどね。まぁ、付けてみれば分かるよ。少なくとも家臣は、バッヂの所有者を信長様と同じように扱ってくれる」

(カルマ)ぁ? 何だそりゃ? 美味いのか?」

「家臣……って?」


 花凜の後ろに隠れていた飛鳥が、恐々と尋ねた。泥梨がにっこりとほほ笑んだ。


「君たちには今から、過去の時代に戻って、兵士を率いて戦争をしてもらいます」


 不意に沈黙が訪れた。

 泥梨は三者三様の反応を見て、満足げに頷いた。場違いなほど明るい店内音楽が、3人の不安なぞ何処吹く風で頭上を飛び交う。一番年少の飛鳥が、泣き出しそうな顔で叫んだ。


「でも、戦争なんて、ダメなんじゃないの!?」

()()()()()()()()()()()。もしかして、鬼ごっこかかくれんぼでもやるつもりだったの?」


 舞と花凛は一瞬だけ目配せし、そしてすぐに逸らした。


「どうしてそこまでして殺し合いさせるの!?」

「あのねぇ。これは死神の用意した『デス・ゲーム』なんだから。殺し合ってもらわなきゃ困るんだよ。スポーツやレクレーションやってんじゃないんだ」

「飛鳥……気持ちは分かるが、私たちはもうすでに死んでるのであって、生身の人間を殺しているのではないのだから……」

「でも……!」

「御託は良いから」


 不意に泥梨が、飛鳥の目と鼻の先にぐいと顔を近づけてほほ笑んだ。


「四の五の云わず、戦えよ。別に僕ァどうだって良いんだよ、人間の宣う生命の尊厳とか、政治的主義主張とか。ただ単に、どっちが強いか見てみたいだけなんだから……サ」

「ひ……!?」

「そこまでだ、道具屋」


 東禅寺花凛が、弟と死神の間に割って入った。花凛の、先の戦いで義眼になった右眼が、蛍光灯の光を受けて天色(あまいろ)に輝いている。

あまり私の弟を脅さないでもらおう。

そう言って、彼女は澄んだ瞳で死神を睨んだ。両の手はそれぞれ腰に差した二本の『正宗』にかけられている。


「覚悟は出来ているさ……武器を手に取った以上、元より無傷で済むとは思っていない」

「何カッコつけてんだコイツ」

「何だと?」


 花凜が啖呵を切ると、たちまち舞が横から茶々を入れる。2人は友達だった。


「お前こそ、映画かドラマの中みたいに思ってんじゃねーの? 人殺しといて、ぬぁあにが『覚悟は出来ている』だよ、気障(キザ)ってぇ」

「やれやれ。弱い犬ほど何とやら……だな。嗚呼すまない……貴様はもうこの死合から降りるんだったか? ()()()はさっさと尻尾巻いて逃げ帰れ。此処は戦う者が、勝利を欲す者がいる場所だ。戦わない者は弱者にすらなれやしない」

「ンだとぉ!?」

「はいはい。説明するからちゃんと聞いて」


 2人は友達だった。花凛と舞が仲良く喧嘩し始めたのを見て、泥梨はパッと顔を上げ、飄々とした態度に戻った。それから彼は前述の、『第二のゲーム』の4つのルールを説明した。


「……一応チーム分けのために、それぞれのバッヂは一組づつ入ってる。何れが出るかは、引くまでのお楽しみだよ」

「つまりそのバッヂがあれば、将として己が兵士に命令が下せる訳だな?」

 花凜の眼がキラリと光った。舞は肩をすくめた。

「殺人許可証みたいなもんか」

「舞くん。もうちょっとこう……言い方というか……歴史的英雄を合法殺人鬼みたいに言わないでよ」

「待てよ。そんなん、時代が新しい方が勝つに決まってんじゃん」

 

 舞が早速ルールに噛み付いた。


「古代VS現代って言ったって……いくら竹槍部隊が何万人集まったところでよぉ、遠くから爆弾落としてりゃ楽勝じゃねーか」

「実に日本人らしい発想だね。だから、そうならないようにルール④がある」



④それぞれの軍の人数は同数からの開戦とする。また参加者の人数分、武器の持ち込みが可能



「それぞれの兵士の数は同数! それから、参加者は武器の持ち込みが可能になるんだ」

「それって……」

「つまり君たちが、己が武器でどれほど戦況を切り開けるかが勝敗の鍵になる」


 そしてお互いの拠点間の距離は五里(約20km)以内と定められた。徒歩だと3〜4時間、車だと10〜20分くらいだろうか。


「ふむ……武器以上に、移動手段が重要になってくるかも知れんな」

「まぁまぁ、とりあえずガチャ引いてみようよ! 今なら初回無料だから」

「普段は金取ってんのか……」


 舞は天井近くまで積み上げられたガチャを見上げた。よく見ると『古代編』だったり『西洋編』だったり、時代ごとにカテゴリが分かれていた。悠に数十種類はある。


「同じ時代の方が同じバッヂが出やすくなるよ。今無料なのは、『戦国時代編』だね」


 それで、とりあえず花凜と飛鳥がガチャを回した。舞は引かなかった。彼女は元々『第二のゲーム』に参加するつもりはなかった。『第一のゲーム』で色々あって、色々あり過ぎて、殺し合いの螺旋から降りるつもりであった。


 ガタゴトと音がして、集合団地から小さなカプセルが排出される。花凛は『織田信長』、飛鳥は『斎藤道三』のバッヂを引いた。飛鳥がガックリと肩を落とした。


「あーあ、お姉ちゃんと同じチームになれなかった……」

「大丈夫。チーム分けは所詮最初だけだ」

 花凜が、舞や泥梨へのそれとは打って変わった優しい声で弟を励ました。

「勝てば勝つほどチームメイトは増える。いずれお互いのチームが対戦した時に、引き抜いてやればいい」

「そう言うこと。さすが花凛ちゃん。早くもルールを飲み込み始めたね」


 飛鳥は家紋の入ったバッヂをしげしげと眺めた。

「ぼくのバッヂ……『斉藤道三』だって」

「誰やねん」

「織田信長の義理の父……油売りから一国一城の主まで成り上がった男だ。『国盗り物語』を知らんのか? 司馬遼太郎の」

「知らんがな。ますます誰やねん」

「ふむ……参ったな。此処まで教養の下地が違うと、もはや会話が成り立たない」

「バカにしてんのかテメェ!?」

「もう! 喧嘩しないでよ!」

「失礼」


 4人が騒いでいると、不意に背後から声をかけられた。驚いて振り向くと、屈強な体付きをした警備員がすぐ後ろに立っていた。


「ここで不審人物が騒いでいると他のお客様から通報がありまして」


 舞たちは顔を見合わせた。幽霊である参加者は、一般人に姿を見られることはない。警備員の視線も、舞たちを通り越して、泥梨一人に向けられていた。


「此処で独り言を呟いている怪しげな男がいる……と」

「えぇ!? えぇっと、そのぉ〜……」

「『殺し合いをしてもらわなきゃ困る』だとか『武器の持ち込み』だとか」

「それは、そのぉ、ア、アニメの話というか……ハハ」

「ちょっと来て。向こうで詳しく話を聞かせてもらおうか」

「ああっ!」


 警備員に引きずられるようにして、泥梨はその場から消えていった。


 それから花凜と飛鳥がバッヂを服に付けると、グニャリと空間が歪み始めた。

「あ、あ、あ……!」

 七色の閃光がプリズムのように迸り、やがて2人はパシュッ、とその場から消え失せた。やがてその場は何の変哲もない、ショッピングモールの一角に戻った。


 1人後に残された舞は、狐に抓まれたような顔でしばらく何もない空間を見つめていた。どうやら2人とも、『第二のゲーム』の会場に飛ばされたらしい。タイムマシンを仕込んでいたと言うのも、あながち嘘ではなかったようだ。


 デスゲームの主催者がしょっ引かれたので、舞はその足で病院へと向かった。交通事故以来、舞の妹、宇喜多芽衣が入院しているのだった。

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