ROUND 33 Immortality vs UNDEAD
「……はっ!?」
っと目が覚めた時には、飛鳥は闘技場の端に寝っ転がっていた。
夢!?
僕は夢を見ていたのか……? 幽霊も夢を見るんだろうか?
「はぁ、はぁ……!」
飛鳥は小刻みに息を吐き出し、額に滲んだ寝汗を拭った。良く分からない夢だった……いきなり自分が、ラクダになった夢……。
次第に歓声が耳に戻ってくる。上から降り注ぐ白い光に目を細め、飛鳥はゆっくりと上半身を起こした。念の為に両手を顔の前にかざすと、ちゃんと人間の指がついていた。彼は思わず安堵のため息を漏らした。
「一体……?」
飛鳥はキョロキョロと辺りを見回した。分からないことだらけだ。一体どれくらい寝ていたのか? 勝負はどうなったんだろう? タロは? 確か僕は、2回戦、エジプトの王と戦っていて……それで……
「あっ!?」
……その時、飛鳥はそれを見つけて、思わず叫び声を上げた。
目の前に広がっていたのは、さっきの夢の続きとも思える光景だった。向かい側、青コーナーに何故かラクダが座っている。ラクダが、姿勢良く香箱座りして、ムシャムシャとサボテンを食べているではないか。
「飛鳥……良かった、目を覚ましたのね」
急いで振り向くと、すぐそばにローズとタロが腰掛けていた。どうやら、しばらく寝込んでいた飛鳥を今まで看病していてくれたらしい。飼い主が目を覚ましたので、タロが嬉しそうに尻尾を振って飛びついてきた。
「あはは……タロ、くすぐったいよ。良かったね、お互い無事で……」
「わん、わん!」
「ありがとうローズ、僕……」
だが、そんな愛犬とは正反対に、ローズは悲しそうに目を伏せるばかりであった。飛鳥が困惑しながら尋ねた。
「……どうなったの? 戦いは? 僕、もしかして負けた?」
「……お姉様が」
フランス人形のようなお嬢様は力無く首を振った。
「花凛お姉様が……飛鳥の負けを認めてくれたの」
「え……?」
「貴方を助けるために……花凛お姉様はラクダになったのよ!」
「そ、そんな……?」
ラクダ? 何で??
意味が分からなかった。ではあの、青コーナーでサボテンを美味しそうに食んでいるのが、自分の姉だとでも言うのだろうか。
「そ、それじゃ……」
「花凛お姉様は実質不戦敗。勝ち抜き戦は、現状、私たちの1勝3敗よ。向こうは残り4人」
「1勝3敗……って、じゃあ、残るは副将と大将だけってこと!?」
飛鳥は急いで電光掲示板を見上げた。掲示板には、
④副将:長南小麦 vs ②次鋒:ツタンカーメン王
と表示されている。
なんてこった。飛鳥は愕然とした。結局自分は負けたのだ。それで、姉も己の身を挺して不戦敗を宣言した。これで3敗。自分が寝ている間に、チームが後2人というところまで追い詰められてしまった。敵はまだ、4人も残っているというのに。
「向こうと取引をして……」
ローズがため息をついた。
「ルールを追加してもらったの。『1人不戦敗にする代わりに、降参を認める』って」
「そんな……! よくもお姉ちゃんを、より愛らしい姿に……!」
ラクダになってしまった姉を見つめ、飛鳥が歯噛みした。
「元に戻す方法は!?」
「……分からないわ。でも、ファラオに勝ったら戻してもらえるかも。何とか後の2人に、勝ち抜いてもらわないと……」
ローズが祈るような表情で映像を見つめた。画面の向こうには、広大な琵琶湖……もとい琵琶砂漠が広がっている。山とも見間違うほどの巨大な砂丘の上で、信長さんチームの副将・小麦と、ツタンカーメン王が対峙しているのが見えた。
※
「さぁ答えろ! 『1+1』は?」
「……4! ……きゃあっ!?」
盛大に答えを間違えた小麦が、謎のパワーで水分を奪われ、たちまちミイラにされる。ミイラにされたその先から、『不老不死』の能力が発動し、瞬く間に彼女は瑞々しさを取り戻した。ツタンカーメンが舌打ちした。
「何だよそりゃ……わざと問題を間違えて、その都度再生するとは! そんな戦い方があったとはな」
「貴方こそ、さっさと倒れなさいよ!」
「ぐえ……ッ!?」
再生した小麦が、『デコった日本刀』でツタンカーメンの喉を思いっきり突き刺した。敵の声帯を攻撃し、『声(=問題)が出せない状態にする』、…ラクダになる前、花凛が企てていた戦法だった。しかし……
「……ぬぅうっ! 貴様ぁ……よくも!」
「しつッこい……!」
……何とツタンカーメンもまた、先ほど出来たばかりの傷がみるみる塞がって行くではないか。ギラつく太陽の下で、女子高生と王とが睨み合った。互いに決定打を欠いたまま、刻一刻と時間だけが過ぎて行く……。
※
飛鳥は目を丸くした。2人の選手が、破壊と再生を交互に繰り返している。文字にすると何だか神々しいが、目の前で繰り広げられているのは、どう取り繕っても泥試合だった。
「あれは……どうなってるの!?」
「ファラオは不死身だったの」
「不死身!?」
そんなの聞いてない。飛鳥は頭がクラクラしてきた。用意していた奥の手すら封じられてしまうとは。問題に正解しても、不正解でも、答えなくても呪われる。おまけに本人は不死身と来た。
「無敵……!?」
「何か攻略法があるはずよ……何か」
「それにしても……『不老不死』vs『不死身』、って」
飛鳥はぽかんと口を開けて戦場を見つめた。
「さっきから全然決着つかないのよ」
ローズもため息をつく。
お互い同じような『能力』を持っているので、もう小一時間もこう着状態が続いているのだった。良く見ると観客席もちらほらと空席が目立つ。この不毛な戦いの合間に、トイレ休憩したり、食事を済ませているに違いない。みんな、幽霊なのに……そばで寝っ転がっていた舞が大欠伸した。
「オイオイお前ら……まさかこの程度の『能力』の攻略法も思いつかねぇって言うんじゃないだろうな? なぁ?」
「え!?」
舞の言葉に、飛鳥が驚いた。
「舞さん、もしかして『呪いクイズ』の攻略法が分かったの!?」
「簡単だろこんなもん……」
「い、一体どうやって……!?」
「待って」
するとローズが横から遮った。あからさまに警戒心を示している。
「……何だか危険な香りがする。この人の作戦は非人道的だから」
「何言ってんだ。『正義の殺し』も『悪の殺し』も、結果は同じだろうが。ひひひ」
※突然ですがここでクイズです。
Q.この後舞たちはエジプト王の『呪いクイズ』をどうやって攻略したでしょ〜うか?
正解はROUND 35 にて!
「貴女たち、もし良かったら」
すると青コーナーから、ヴィクトリアが声をかけてきた。
「先に次の対戦カードを始めちゃわないかしら。これじゃあ、いつまで経っても終わらなさそうだし……貴女さえ良ければ」
黒髪の少女が舞の瞳をジッと見つめた。
「『大将戦』を」
「…………」
舞は『村正』を握り締め、
「……良いぜ!」
八重歯を光らせながら、ニヤリと嗤った。
「ちょうど退屈してたとこだ。さっさと決着をつけよう」
そう言って舞はぴょんと立ち上がった。
「ちょ、ちょっと待ってよ……!?」
飛鳥はゴクリと唾を飲み込んだ。それってつまり……こっちはもう土俵際ってことじゃないか!?
「も、もう大将戦……!?」
「早過ぎる……私たち、ちょっと敵を甘く見過ぎてたかも知れないわね」
「なぁに、心配すんなって」
不安げな少年少女の肩を叩き、非人道系主人公・舞が少し照れたように笑った。
「お前ら……何死んだような面してんだよ。こっから私が、3連勝すれば良いだけの話だろうが」
「舞さん……」
「舞さん……無茶しないで」
一度大きく伸びをした舞が、涼しい表情で闘技場まで歩いて行く。自分が負けるとは微塵も思っていない。そんな表情だった。
「さぁて……」
やがてロープの上に足をかけ、舞は大きく息を吸い込んで、叫んだ。
「死にてぇ奴から手ぇ挙げな! 刀の錆にしてやるぜ!」




