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バスをでてから7日が経った。ヒストに借りた本は最後まで読んだが、大賢者と世界の知恵に関する記述はほとんどなく、大陸の歴史についての記述が大半だった。チェロとリンを通過してもうすぐ国境を越えるところらしい。どうやって国境を決めているのか聞いたら、リングスとシアンの間には川が流れていてその川を国境として使っているそうだ。国境を越えるときには、川にいくつか架けられている橋に検問所で検査を受けると国境を跨いで移動することができるらしい。犯罪者は検査のときにばれるとすぐに逮捕されるらしい。他の国の国境も同じように検問所が設置されていて、川だけでなく山の谷間などに設置されていることもあるそうだ。
「あ、国境が見えてきましたよ」
ヒストが言ったので前を見ると、広い川に大きな橋が架かっていてその上に検問所があるのが見える。あれが国境か、これから俺はあそこを越えてシアンに入る。初めての国だ、どんなところなのだろう。リングスとは違った街並みなのか、それとも元々ひとつの国だったから似ているのか、どちらなのだろうか。バルトまでは街があと2つある、まだ時間は掛かるがそれもまた楽しみだ。
検問所はリングスからシアンに入る馬車はいないが、シアンからリングスに入る馬車は2台いる。ヴィオラを出るときに衛兵がこんな時にと言っていたが、そういうことなのだろう。
検問は街の出入りよりも質問が多く、時間がかかった。さすがに国境の検問所は街の検問よりも厳しいようだ。とはいえ問題なく通過できた。
国境を越えて違う国に入ったからといって、急に景色が変わるということはない。陸続きになっているのだから当然のことなのだが、国境を越えることが初めてのことと、楽しみに思っていたこともあってもしかしたらと思っていた自分がいた。
国境を越えて4日、バルトの手前のリアンに着いた。シアンの街並みはタルコもリアンもリングスと大した変わりはなかった。リアンはバスほどではないがそれなりに人通りがある。宿はあまり混んでいないのか、すぐに見つけることができた。
「もうすぐですね」
「はい、どんなところか楽しみです」
夕食を食べながらヒストと話している。ドラウグも誘ったが断られたらしい。
「私もリングスから出たことがなかったので、どんなところかは聞いたことしかないので楽しみです」
「ヒストさんはバルトに着いたらまず図書館に行くんですか?」
「そうしたいのはやまやまなんですけど、まずは家を探さないといけないので図書館はそれからですかね」
そうか、ヒストはこれからバルトに住むのだからバルトに家を持つのか。俺も落ち着ける家が欲しいと思うが、コロン樹海に行くためには厳しいのが現実だ。俺の記憶を探すためにも、俺の荷物に入っていたあの水晶のようなものが何なのか解き明かすためにも、俺は旅を止めるわけにはいかないのだ。
「仕事はどうするんですか?やっぱり歴史の研究をするんですか?それとも国立学園に入るんですか?」
「本当はそうしたいんですけどね。仕事は普通に働いて歴史の勉強については趣味でやるつもりです」
「やっぱり難しいんですか?」
「そうですね、バルトにあるシアンの国立学園は大陸でトップの学校なので、そこに集まる学生もみんな優秀なんです。研究を生業とするのにも国立学園に入学することが一番手っ取り早いんです。なのでどちらも難しいですね」
俯いていてよく見えなかったが、ヒストは少し悔しそうな表情をしていた。いつも柔らかい表情をしていて、こんな表情は初めて見た。それほどヒストは歴史に対して真面目に向き合っているということなのだろう。
「セガスさんはどうするんですか?バルトに住むんですか?」
「いえ、この大陸にある国を全て見て周ろうと思います」
コロン樹海に行くことは言わない方がいいだろう。言ったらなぜ行くのかを聞かれそうだし、聞かれたときに本当のことをいったとしても馬鹿げてると思われるだけだろう。
「すごいですね、全部だと相当な時間が掛かりますよ」
「はい、でも本で読んだり人に聞いたりするだけよりも実際に自分の目で見て確かめたいんです」
「確かにそうですね、私もできるならそうしたいです。ですけどやっぱり資金がどうしても厳しくてできないので、セガスさん羨ましいです」
そうだよな、大抵の人は大陸を横断できるような貯金は無いだろう。あったとしても何ヶ月もかけて大陸を横断しようと思わないだろう。馬車での長旅はかなり疲れる。ヴィオラからここまで来るのも、途中で通過する街でしかしっかりと休めないのでかなり疲労がたまったから、リングスとは反対にあるコロン樹海に行くのは体力も必要だろう。
「その後はどうするんですか?」
その後か。コロン樹海に行って記憶が戻ったとして。戻るかはわからないが、何も考えていなかった。どこか気に入った街があったらそこに住むのもいいかもしれない。そしてその街に自分の家を持てたら、それもまた幸せだろう。
「実はまだ決めてないんです。どこかの国には住むことになると思うんですけど、旅をしながら考えようと思います」
「そうなんですね、私としてはセガスさんもバルトを気に入って住んでくれたら嬉しいんですけどね」
ヒストはからかうような顔でこちらを見ながら言った。
「そうですね、バルトに行ってみないと何とも言えませんが、バルトにある国立図書館はかなり楽しみですね」
「じゃあ可能性は高めですね」
ヒストと笑い合いながら食事をするのは楽しい。だがそれもバルトに着くまでだ、寂しさを感じる。ヒストが言うように、バルトがよかったらコロン樹海に行った後はバルトに住むのもいいかもしれない。




