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世界の果て  作者: にこぴ
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 宿に戻ってまた本を開く、馬車では確か大賢者の理論を利用した道具は革命後まで庶民には広まらなかったというところまでは読んだ。この本は3000年以上前から始まって、大賢者が登場して革命を起こすまで1500年前まであっという間に進んだがまだこの本の3分の1ほどしか進んでいない。文字がびっしりと並んでいてもっと読むのに時間がかかると思っていたが、実際は小難(こむずか)しく書いてあるだけで想定よりも早いペースで読み進めている。確か帝国が分裂する以前の歴史書は分裂の戦火で焼けてしまい、現在残っている歴史は分裂後に書かれたものだとヒストが言っていた。そのせいで帝国分裂以前の歴史は現在の歴史書ではあまり知れないのかもしれない。そうなると歴史を学ぶのは相当大変なことじゃないのか、歴史書に書かれているからといってそれすらにわかには信じ難い。大賢者が革命を起こしてから帝国が分裂するまで500年ほどの時間があるなら、分裂した時にはもう大賢者のことを知っている人はいなかったはずだ。そう考えると大賢者の存在も帝国で使われていたという道具すらも実在したのか怪しく思えてくる。史実と言われていることすら疑えるのならば、何でも願いが叶うなどという眉唾(まゆつば)物の世界の知恵なんて実在しないと考える方が自然だろう。当時の文献が焼けたことがどのくらい世間に浸透(しんとう)しているのかはわからないが、世界の知恵を探すといって国民が(あき)れるのも無理ないだろう。


 本に目をやり続きから読み始める。残りの8割ほどが全て帝国が分裂した後のことだと思うとあまり気が進まない。俺は大賢者と世界の知恵について知りたくて読んでいるはずなのに、大賢者が生きた時代は終わり、現在までの歴史を延々と読まなければいけないと思うとうんざりする。記録が焼けてしまったとはいえもう少し書けることはなかったのだろうか、なんせ2000年以上もの期間があるというのに、ざっと見た感じでも800ページはありそうな本で3分の1はあまりにも少ない。残りを1000年で埋まってるというのはかなり詳細な歴史が書かれているのか、それともここまでと同じように小難しい言い回しで書かれているのか、そのどちらかだろう。どちらにせよこの本にはこれ以上大賢者について詳しいことは書かれていなさそうだ、世界の知恵についても書かれていないだろう。今日は酒を飲んで腹もいっぱいになってもう眠い、時計を見る11時を回りいい時間になっている。今日のところは寝て、また明日読むことにしよう。明日は買い物もする予定だから早く寝るに越したことはない。


 そういえば、時計は大賢者の理論を基にして作られた帝国時代の技術を再現できたものだと書いてあった。これのおかげで歴史書を信じることができるのかもしれない。それはそうとして今日はもう寝よう、明日もあるから。




 酒場のテーブルを囲んでみんなで酒を()み交わす。この人達が誰なのかわからない、顔が見えない。表情はわかるが、顔のの前に薄い(まく)が張っているように、細かい顔のパーツなどは見ることができない。だが彼らからはどこか(なつ)かしさを感じる、一緒にいると安心できるそんなような心地を彼らから感じる。




 窓から差し込む光で目が覚める。宿の前の通りからは人が行き()う音が聞こえる。時計を見ると7時過ぎを指していた。ベッドから降りて窓の外をを(なが)める、通りの人は多くはないが活気(かっき)がある。窓から離れて洗面所で顔を洗うと一気にすっきりとして頭が()える。とりあえず朝食を食べよう。この時間に開いている店はあるのだろうか。人通りがあるならどこかしらの店はやっているだろう、外を歩きながらさがしてみよう。着替えてから外に出る。ひんやりとした朝の空気に首筋(くびすじ)()でられ腕をさする。さすがにこの時間は冷えるな、もう1枚羽織(はお)ってくればよかったかもしれない。まあ歩いていれば体が温まるだろう。


 朝食を食べられるところを探して歩き出す。周りの宿からも人が出てくる、宿に泊まっているということはこの街に住んでいるわけではないのだろう。この人達はどこから来てどこへ行くのだろうか、国を出る人、出ていく人もいるのだろうか。この人達の辿(たど)ってきた道も歴史として後世に残るのだろう。


 昨日(きのう)は暗くなっていたため街並みをちゃんと見れていなかったが、明るいときに見るとかなり立派(りっぱ)な街並みだ。さすがに王都であるヴィオラほどではないが、バスも主要都市と言えるほどの街並みだ。


 宿から少し歩いたところで開いている酒場を見つけてそこに入る。中は広々としていてぽつぽつと客が入っている。壁際の席に座り料理を頼む。今日はこの先必要になるものを買い込む予定だが、店がどこにあるかわからないので、宿に戻ったらヒストに聞いてみよう、バスに住んでいたなら野営道具などがどこで買えるか知っているだろう。


 朝食を食べ宿に戻った。ヒストに野営道具を変える店を聞くために部屋のドアをノックする。すぐに部屋の中から足音がしてドアが開いた。


 「おはようございます、どうかしましたか?」


 「おはようございます、野営道具などを買える店を教えてほしくて」


 「でしたらいい店を知ってるのでそこに行きましょう。本当は私も一緒に行って街を案内したいのですが、久しぶりにこの街に来たので友人に会おうと思ってまして、なので場所を教えることしかてきないのですが」


 ヒストは申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。


 「それだけで充分ですよ。もともと場所だけ教えてもらえれば、あとは1人で行くつもりでしたから」


 「そうですか、じゃあ店までの道をメモに書いて渡しますね」


 ヒストは部屋の中に戻っていって紙にさらさらとペンを走らせる。ヒストの手に(まよ)いはなく、この街の地図が頭の中にあるようだ。


 「初めてだと少しわかりづらいかもしれませんが、辿り着けるとは思います」


 「ありがとうございます、この街を知ってる人がいて助かりました」


 ヒストが書いた地図を受け取って自分の部屋に戻った。地図を見てみると、かなりわかりやすいと思った。このクオリティでわかりづらいと言うのがヒストらしいと思う。


 金と(から)のバッグを持ってヒストの地図片手に外に出る。地図に書かれた道順で歩くと、10分ほどで店の前に着いた。看板(かんばん)道具店とかかれている、ここで間違いないだろう。店の中に入り必要な物をひと通り取って会計を済ませる。


 「すみません、地図を買えるところはありますか?」


 会計の後、気になっていたことを店主に聞いた。俺は(いま)だにこの大陸の全貌(ぜんぼう)を知らない。ヴィオラとバスで案内板を見たことはあるが、街の外の地図が欲しい。地図があれば、それぞれの国や街の位置関係や距離感がおおよそわかるため、この旅をする上で持っていたほうがいいだろう。道中の国と街の名前を把握できるだけでもありがたい。


 「地図か、冒険者ギルドに行けばあるかもしれないが、あまり多くは流通してないから売り切れなんてしょっちゅうだし、値段も張るぞ」


 「そうなんですね、とりあえず行ってみようと思います。場所を教えてもらってもいいですか?」


 道具屋の店主に冒険者ギルドまでの道を聞き店を出た。ギルドはバスの中心近くにあるらしく、ここからは少し離れているそうだ。街を見て周るにはちょうどいい。散歩がてら冒険者ギルドまで行ってみよう。

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