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世界の果て  作者: にこぴ
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 休憩が終わり馬車が出る。さっきの続きから読み始める、と言っても1ページ目をめくっただけなのだが。まず書いてあったのは、統一帝国はおよそ3000年前まではいくつかの国があり、争いの絶えない戦乱(せんらん)の時代が長く続いたそうだ。終わりが見えない戦いかと思われたが、ひとつの国が次々と周囲の国を蹂躙(じゅうりん)していき、占領(せんりょう)していったという。その国は小さくいつでも制圧できると他の国々は思っていたため、国境を包囲(ほうい)する程度で戦力はほとんど()かれていなかった。しかし、新たな王と将軍の誕生によって戦況は一変した。国境を包囲していた軍はあっという間に殲滅(せんめつ)され、他国の本土にも侵攻していき、たった数年で全ての国を滅ぼし統合したらしい。国の名前はレパイム、後に統一帝国の首都となる国だ。


 レパイムが大陸の国を全て占領しレパイム帝国となり、首都を元のレパイムがあった場所に構えられ、それから分裂するまで2000年ほど統一帝国の時代が続いた。帝国による統治(とうち)が始まってからは平和な時代が長く、大きな争いが起きたのは大賢者が革命を起こすきっかけとなった皇帝が圧政を敷いて内乱が起きたときと、帝国が現在の5つの国に分裂したときの2回だけだった。


 本を読み進めていると大賢者が出てくるまであっという間だった。大賢者が初めて登場したのは統一帝国ができてから1500年後、帝国になったのが3000年前だったので今からは1500年前、ヒストが言っていた時代と一致する。大賢者は平民の生まれで子どもの頃から知識欲がすごく、本にかじりついていた。学校に通うようになってからは勉強にのめり込み、卒業後は帝国の国立研究所で働いていた。そこでずっと研究を続け、帝国の技術が進歩するのに大きく貢献(こうけん)した。その功績(こうせき)を認められ、研究所の上部組織である機関に引き抜かれた。平民の出ということもあり機関に所属している貴族出身の者から反対の声があったが、研究機関の大臣が推薦したこともあり大賢者は機関に所属することになった。


 大賢者が生み出した技術は帝国の根幹(こんかん)を支え、庶民の生活にも軍事にも欠かせないものとなった。その中には遠くの人と話せるものや、その場の映像を記録して残せるものがあった。そのような帝国分裂で現在は失われてしまった技術が帝国には多くあった。それらの道具はほとんどが大賢者が発見した理論を(もと)にして作られており、大賢者がいなければ帝国の技術進歩はなかったと言われるほどに、大賢者は帝国の技術に革命をもたらしたと言われている。それらの功績から大賢者と呼ばれるようになった。ただ、大賢者が活躍した時代は皇帝の圧政によって庶民は苦しい生活を()いられていたため、大賢者の発見した理論を利用した道具が庶民にまで広がったのは、帝国の革命後であった。


 ふいに馬車の速度が落ちて体が倒れそうになった。顔を上げるともう夕暮れになっていて、前には馬車の列ができていた。本を読み始めたときはまだ日は高かったはず、思ったよりも集中して読んでいたらしい。


 「検査が終わったら馬を厩舎(きゅうしゃ)にやる、その前にお前らを降ろすから準備しておけ。明日1日はバスにいるから宿を探してこい」


 ヨシアに言われたことで3人とも馬車を降りる準備をし始める。今回の検査もあまり時間はかからず、日が落ちる前に門を通れた。門の内側では多くの馬車が停まっていて、荷物を降ろしたり人が降りていた。俺たち3人も荷物を持って馬車から降りた。


 「宿まだ空いてますかね」


 ヒストが不安そうな顔でぼやいた。


 「大丈夫じゃないか?こういうところだと宿が多いはずだ」


 「そうなんですか、だったら部屋が空いてないということはなさそうですね」


 なんとなく3人で人の流れに沿って歩き出す。ヴィオラほどではないがバスも人が多く(にぎ)わっている。もう日没後だが宿と酒場を明かりが()れていて、通りは明るく照らされている。とりあえず適当な宿に入り空いているか確認してみる。1軒目では空いていなかったが、2軒目が空いていてそこに泊まることになった。


 部屋に入って荷物の整理をして必要な物をリストアップしていく。次の街、チェロまでの食料などを買っておかないといけない。荷物を確認していると、かばんの一番下できらりと光った。やはり美しい、もしこれが世界の知恵だとしたら、今願えば不老不死になることもできるのだろうか。コロン樹海に行ったとして、俺の記憶は戻るのだろうか。


 この先のことを考えていると、ノックされたのでドアを開けに行く。


 「セガスさん、ご飯を食べにいきませんか?」


 ドアを開けるとヒストがそう聞いた。


 「ドラウグさんはどうしたんですか?」


 ドラウグの姿が見えなかったので聞いてみる。


 「ドラウグさんは知り合いに会いに行くみたいです」


 ドラウグはバスに知り合いがいるのか、騎士団関係だろうか。俺は知り合いはいたのだろうか、いるとしたら俺はわからないが向こうは俺のことをわかるだろうから、もしどこかで俺のことを見たら気づいて話しかけてくるかもしれない。そうしたら色々聞いてみたい、そんな偶然は無いと思うが。


 ヒストに連れられて宿から出た。ヒストは勝手知(かってし)ったる場所のように歩いていくが、ここには来たことがあるのだろうか。来たことがあるのなら心強い、全く知らない場所で1人というのはかなり心細い、たとえ知らないとしても1人じゃないだけありがたい。


 宿から少し離れた所にある酒場の扉をヒストの後に続いて入った。そこは宿屋が密集している通りからは少し歩かないといけないため、宿屋の近くにある酒場よりも混んでいなくて、店内の席は3割ほど空いていた。壁に近い席に座り、酒と料理と注文した。


 「ヒストさんはこの辺りに来たことがあるんですか?」


 ヒストの慣れた足取りについて聞いてみる。


 「はい、この街にある学校に通っていたんです」


 「そうだったんですね、てっきりヴィオラの学校に通ってたのかと思ってました」


 「本当はそうしたかったんですけどね、ヴィオラは王都なだけあって学校はどこもレベルが高いうえに、人気もあるので倍率が高いんです。一応試験は受けたんですが落ちてしまって、この街の学校に入学したんです」


 「そうだったんですね、すみません気が利かなくて」


 「いえ、言ってませんでしたから、それにこの街での暮らしも楽しかったですよ」


 「ここには学生の間だけ暮らしてたんですか?」


 「いえ、卒業してから3年間ここで働いてたので、合計で7年間ですね」


 そこで酒と料理が到着したので、一度話を中断する。料理は湯気が立ちすぐにでもがっつきたいくらいだ。酒はキンキンに冷やされグラスが結露(けつろ)していて、これを喉に流しこんだら旅の疲れも吹き飛びそうだ。


 「なんでヴィオラに戻ったんですか?」


 酒と料理を交互に口に運びながら話を再開する。


 「両親が縁談(えんだん)を持ちかけてきまして、有無を言わせず帰ることになりました。ですが結婚したはいいものの私はずっと仕事と勉強に明け暮れていたので、昨年別れました。なのでいい機会だと思い、長年夢見ていたバルトに行くことにしたんです」


 「すみません、つらい話ばかりさせてしまって」


 「いいんです、もう済んだことですし言いたくなかったら言わないので」


 ヒストは笑顔で答えて酒を飲む。


 「セガスさんは人が好きですか?」


 ヒストの質問に少し戸惑(とまど)う。俺は人が好きなのか、考えたこともなかった。


 「わかりません、考えたことがなくて」


 「私は好きです。歴史は人が作るものです、つまり歴史は人で人が歴史なんです。ほとんどの人が本に載ってることが全てだと思ってますが、その裏には名前も残らない人達がいてその人達がいなければ歴史には残らないんです。国民がいなければ国にならないのと同じように、名もなき人が偉業を見て残すことで歴史として後世に伝わるんです。なので私は人が好きで、歴史を学ぶときには当時の人の暮らしも学びます」


 歴史は人で人が歴史、今までその考えはなかった。歴史は本に書かれていることを全てだと思ってきたが、確かにそんなわけはない。本には書かれていない市井(しせい)に暮らしていた人々がいて、その上の支配階級のにいた人が名前を残している。歴史を研究する学者はみなそこまで考えて研究しているのだろうか、頭が上がらない。ヒストもいずれ学者になる日がくるのだろうか。


 酒場を出て宿への道を歩き出す、酒を飲んだことで体が熱くなっている。ヒストも顔が赤くなり少し足取りがおぼつかない。


 「おいしかったですね、久しぶりにお酒を飲んだので少し飲みすぎました」


 ヒストが頭を掻きながらはにかんだ。


 「俺も人と食事するのが野営以外では久しぶりだったので、楽しかったです」


 「久しぶりというと、前に人と食事したことを覚えてるんですか?」


 「わかりません、ただなんとなく久しぶりというのがしっくりきたので」


 ヴィオラの宿で目が覚めるよりも前のことは何も思い出せていない、だが久しぶりという言葉を考えるよりも前に発していた。俺は誰と食事をしたのだろうか、その人に会えたら記憶を取り戻す手がかりになるかもしれない。


 「わかります、私もそんなことないのに考える前に言葉が口から出ることはありますから」


 ヒストはよくあることだと笑って流した。恐らく普通ならばそういった話なのだろうが、俺は少し違う。覚えてはいないが記憶を失う前に誰かと食事をしたのだ、その時のことは全く覚えていないがそうなのだと心が言っている。頭ではなく心が。

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