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ラバイを出発して2週間ほどでコロン樹海の入り口に到着した。はじめは草が生い茂ってはいても道を判別することはできたが、段々と道がわかりづらくなり、いつの間にか膝下まである草を払いながら歩いていた。
コロン樹海は話に聞いていた通り、木が高く生えて暗く鬱蒼としている。樹海の中に入る手前のところから、人がいないこともあって暗い雰囲気が漂い始めていたが、中に入ったらそれまでの暗さが比にならないほどの暗さだった。昼間でも常に薄暗く、俺の気分まで暗く沈んでいってしまう。
コロン樹海に入ってから最初の2・3日は帰り道を見失わないように印を置きながら進んでいたが、今ではあれから何日経ったのかも、印すらも気が付いたらわからなくなってしまい、完全に遭難状態となってしまった。
暗く深く途方もない森の中を手がかりもなく闇雲に歩き続けるのは、思っていたよりも辛く苦しいものだった。ここにくるまでは俺の記憶の答え、世界の知恵の答えを見つけるのは難しくないと思っていたが、そんなはずはなかった。そもそも記憶に関する手がかりはほとんどないようなものなのだから当然で、俺はこの森を舐めていたのだと痛感した。
今は記憶を探すというよりもただ同じ景色を繰り返しながら、木々の間を彷徨い歩いているといった感じだ。もう自分がどれだけ歩いたのかもわからない、ただ何かあったらラッキーぐらいの気持ちで歩いている。
食料は何日も前に尽きた。水も残り少ない。足取りが段々と重くなっていきふらふらとよろめくことが増え、俺の体が限界だと訴えかけている。
一度木に寄りかかって座り込んで休憩する。昨日辺りから休憩することが増えた。立って歩き続けていると、目が霞んで倒れそうになるため、こまめに休憩を取らなければ進めなくなった。水が入っている革袋を傾けて水を飲む。残り少ない水を節約しながら飲んでいたが、とうとう最後の一口を飲み切ってしまった。この水を頼りにここまで歩いてきたが、この先をどう進んで行こうか。
ふと思い立ってかばんの一番下に入っている球体を取り出した。帝国技術総覧に書かれていた願いを叶えてくれる謎の球体、発動する条件はわからないが藁にもすがる思いでやってみる価値はあるだろう。
球体に手を当てて食料が欲しいと目を閉じて強く願う。どうか俺の空腹を満たしてくれる食料を。
しかし球体に変化はなく、何も起きることはなかった。胸の大きな絶望を新たに抱えて立ち上がる。ここまで来たらたっだ進むしかない、帰り道などとうに無くなっているのだから。
ふらふらとし足取りで歩き続けたが、遂に限界を迎えて倒れ込むようにして近くの木の根元にもたれかかった。これ以上動くのは無理だと体が訴えている。視界は霞み頭もぼんやりとして考えがまとまらない。
ぼうっと正面を見つめていると、木々の隙間に人影が見えた。遠くて顔は見えないが、それがあの男だとすぐにわかった。どうやってここまで俺を追ってきたのかわからないが、そんなのはいつものこと、今更そんなことでは驚かない。
あの男の影が少しずつこちらに近づいてきている。とうとう追いつかれてしまうのか、俺はここまでなのか。
左手首に着けているブレスレットを触って目を閉じる。
「死にたくないなあ」
心の中で呟いたつもりが、声になって漏れ出た。今まで通った街の街並み、出会った人の顔が走馬灯になって頭の中を駆け抜けた。
その時突然辺りが明るく照らし出された。何事かと思い周囲を見回して光の元を探す。その光は思ったよりも近く、俺が持っているかばんから出ていた。かばんの中の何が光っているのか突き止めるため、本当はわかっていたがかばんを一番下まで掘り返す。
思っていた通りその光は謎の球体から発せられている。次第に付近一帯を照らしていた光が絞られていき、一本の筋となって森の奥に向かっている。この球体が一体どうして光だしたのかはわからないが、今はその光に縋るほかに選択肢はない。立とうとすると小刻みに震える足に鞭を打って光が指し示す方へと歩く。あの男がいた方は振り向かず、ただ救いを求めて光を追いかける。
光に導かれて森の奥へ歩いて行くと、見上げると首が痛くなるほど高く切り立った岩壁にぶつかった。球体から出ている光はその岩壁に向かって伸びている。もしかするとこの岩壁に何かあるのかと思い、岩壁を調べる。しかし、しばらく調べても何も見当たらない。限界を超えて歩いてきた俺の体は今にも倒れそうになり、壁に手を付いて休憩する。
すると、球体から出ている光がずっと岩壁の同じ場所に向かって伸びていることに気づいた。もう一度力を振り絞って光の当たる場所まで歩く。さっきは気が付かなかったが、よく見てみると光は切り立った岩の小さな窪みの中に入っている。
窪みに球体を近づけてみるが、何も起きない。今度は窪みに手を入れてみる。中はごつごつとして岩に擦れる手が痛い。手首まで入れたところで窪みの奥に行きどまった。中は狭くて手を動かすことはできないが、指だけを動かして中を探る。一ヶ所押せそうなところがあり、指を限界まで動かしてそこを押した。
すると窪みを中心に岩壁が開き、奥へと行ける通路が出現した。一体どういう原理でこのが岩が動いたのかは全くわからないが、今は先に進むしか俺に選択肢はない。




