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国立図書館の中は扉の前に少し開けたスペースがあり、そこを囲むように円形の本棚が設置されていて、その後ろからは1階、2階、3階とずっと本棚が設置されている。その中には探すのも大変なほどに本がびっしりと並んでいる。これだけ蔵書があれば、調べものに困ることはなさそうだ。
本棚の間を歩いて物色する。本の種類は様々で、歴史や地理、医学に技術や小説のような物語など幅広い分野を網羅している。全部気になって仕方がないが、今は大賢者と世界の知恵に関する本を探さないと。あと大陸にある国に関する本も読んでおきたいな、これから旅をしていくなら知っておく必要があるだろう。
とりあえず国に関する本を2、3冊見繕って机に向かう。簡単に本に書かれていた内容をまとめると、この大陸はカンバ大陸という名前で、東西に広がるように5つの国がある。大陸の西側はコロン樹海があり、そのほとんどは未開の地になっている。5つの国は東から軍事大国のリングス、学術大国のシアン、商業大国のロウワ―、福祉大国のクロア、そして冒険者大国のラミナがある。5つの国はかつて思想の違いで分裂したことで、国家間の関係はあまり良くないが、土地によって必要だが取れない資源もあるので国交は持たれている。
本にはそれぞれの国の特徴についても書かれていた。リングスの軍事力は国2つ分に匹敵すること。シアンの国立学園には大陸中から人が集まること。ロウワ―には世界中の商品が集まり、経済力が大陸一であること。クロアは福祉に注力していてその分税金も高いが、しっかりと国民に還元されるため幸福度が高いこと。ラミナは冒険者ギルドの本部があり、大陸にある全ての冒険者ギルドと冒険者を統括していることなどが書かれていた。
俺はその中でも冒険者について興味を持った。今まで冒険者ギルドで地図を買うことはあったが、冒険者がどんなもかのなのか知ることがなかったから興味を引かれた。
本に書かれていることによれば、冒険者とは冒険者ギルドが仲介して依頼を受ける職業とのことだ。依頼の内容は幅広く、店の用心棒や馬車の護衛、街周辺に野生動物が出没した場合必要に応じて駆除をしたり、街の外の見回りや探索、中には掃除のような雑用的な仕事や、災害の後の人命救助や建物の修復するなど多岐にわたる。冒険者の中で特に決まりがあるわけではないが、それぞれに依頼の好みがあり、新人でなければある程度担当のようなものがあるらしい。
なるほど、一口に冒険者と言っても色々なことをするんだな。俺が乗ってきたヨシアの馬車は、ドラウグが護衛も兼ねていると言っていたが、本来は冒険者を別で雇うということか。
この大陸と5つの国について調べていたら、空腹を感じた。そういえば朝食を食べてから結構時間が経っている。一度外に出て昼食を食べに行こう。読んでいた本を本棚に戻して図書館から出る。次はどこの店で食べようか。
昼食を食べ終わり、街並みを眺めながら歩く。コロン樹海まで行って記憶が戻ったら、ここに戻ってきてこの街で暮らそうか。図書館で本を読んで知識を増やす暮らしも悪くない。まだ2つしか国を見てないのに、そこまで考えてるのは早すぎるだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、ふと誰かに見られているような気がした。別に俺は特別な訓練を受けたり、研ぎ澄まされた感性を備えていたりはしないが、急にそんな気がした。誰かが俺のことを尾行しているのだろうか。もしかしてヴィオラの宿の受付で言われた誰も来ていなかったとは、こういったことを警戒して記憶を失う前の俺が頼んでいたのかもしれない。早足で図書館を目指す。人が多くて周りを見ても誰の視線か分からないが、図書館に入れば一先ずは大丈夫だろう。
図書館の前に着き急いで中に入る。ここまで来たらもう諦めただろう。滲んでくる汗を拭いながらまた本棚の間を歩いて本を探す。今度は大賢者と世界の知恵について調べよう。その2つについて書かれていそうな本を持って机に向かう。
タイトルに大賢者とつく本は、歴史とは別に大賢者というジャンルで分けられるほどたくさんあった。どれを読んだらいいかわからないので、とりあえずタイトルを見て何冊か選んで持ってきた。どの本もそれなりの厚さがあるため、全部読んでいては時間が足りなくなってしまうので、目次を見て俺が知りたい情報が書かれていそうなページを読み、情報を厳選する作業を繰り返す。その中から気になった部分を紙に書いて見返せるようにする。
調べていて思ったが、どの本も同じようなことが書かれている。どれも革命についてのことや大賢者の素晴らしさを説くものばかりで、まるで宗教のように大賢者を神格化しているようだ。これだけ多くの本があるのだから色々なことを知れると思っていたが、これでは大した情報はなさそうだ。
あまり期待をせずに何回目かの本棚巡りをする。今までは歴史と大賢者で分類されている棚を見ていたが、技術の分類も見てみようか。歴史と大賢者の分類では世界の知恵についてほとんど書かれていなかったが、技術の分類だったらあるかもしれない。
技術の棚は当然だが今まで見ていたところとは全く違った本が並んでいるため、目新しさが楽しい。技術の棚には日常で欠かせないものものについての本が多い。見ていくと並んでいる本の毛色が変わり、学術書などのより専門的なものになった。その中に大賢者の研究についての本もあった。その中から同じようにいくつか選んでまた情報を厳選する。この中に俺が求めている情報はあるのだろうか。
図書館員に声を掛けられて閉館時間だと気づいた。持ってきた本を本棚に戻す、窓から見える空はもう暗くなっていた。図書館の外に出て伸びをする、ずっと本棚の間を歩いて本を探して机に向かって情報を厳選する作業を繰り返していたため、さすがに体が固まっている。宿まで戻る途中で夕食を食べよう。
夕食を食べ終わり店から宿に戻る。図書館で集中して作業していたため、いつもよりも遅い時間になった。
宿まで歩いていると、人通りが少なくなったところでまた視線を感じた。昼頃から入ってからさっきまでずっと図書館にいたのに、まだ尾行しているのか。大した執着心だと少し感心してしまったが、そんな場合ではない。軽く周囲を見回しても不審な人影は見当たらないが、むしろそっちの方が恐怖を煽られる。昼間は人混みに紛れて急げばよかったが、夜の人通りが少ない道では紛れようがない。どうしたらいいんだ。とにかく宿まで走る、もしかしたら追いつけなくて諦めるかもしれないから。そもそもなんで俺が尾行されなければいけないのか、全く心当たりがない。記憶がないのだから当然なのだが、記憶を失う前の俺は一体何をしたというのだ。ヴィオラで目が覚める前の俺を恨みながら宿を目指して走る。
宿に入り膝に手を着きながら肩で息をする。走ったせいで汗が止まらない。とにかく急いで宿を目指したため、視線を感じる余裕がなかったが、姿の見えない尾行者は諦めてくれただろうか。宿の中は人がいるから安心できる。今日はもう汗を流して寝よう。明日は書店巡りをするつもりだが、尾行されているなら用心してやめておくべきか。だが視線だけで姿が見えない以上俺の勘違いの可能性も否定できない。とりあえず外に出てみてまた視線を感じたら人混みに紛れて宿に戻ろう、それでこの街を離れて次の国であるロウワ―に行こう。




