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気になる台詞

作者: 須賀 玲衣

 ある土曜日の昼下がり、出先で空腹を覚えたので、最寄りのファーストフード店に入った。店内はそこそこ混んでいたが、何とか席を確保できて良かった、と胸を撫で下ろす。


 隣のボックス席には私と同年代っぽい男性の二人組が陣取っていて、話に花を咲かせているようだ。ちょっとうるさいけれど、気にしないでおこう。今は空腹を満たすのが最優先だ。


 無心でテリヤキバーガーとポテトを胃に収める。ふう、満腹、満足。ジャンクフードって、時たま無性に食べたくなることがあるのよね。ドリンクはストレートのアイスティーで決まり。余計な油を洗い流してくれるから。あ、あくまで個人の感想ですよ…って、私は一体誰に言い訳をしているのやら。


 そんな感じで食後のアイスティーを飲みながらまったりしていると、隣から得意げな声が飛び込んできた。


「いやー、俺ってピュアだからさぁ」


……アイスティーを吹きそうになった。

 前後の文脈が分からないが、彼は一体何をもってピュアという自己認識に至ったのか。ものすごく気になる。でも、これだけは分かるぞ。本当にピュアな人は自分で自分のことをピュアとは言わないはずだ。はず…だよね?


 さっさとトレイを片付けて帰ろうと立ち上がったはいいが、動揺が隠し切れず、イスをガタつかせてしまった。すると、音に反応したのか、隣のピュア発言じゃない方(声で判断)がこちらを振り向いた。


「あれ、蓮実さん?」


 なんと、知り合いだったか。ピュア発言じゃない方は同級生の森野君だった。何たる偶然。


「も、森野君。こ、こんにちは」


「遅いよ、待ってたんだからねー」


……は?いや、森野君と待ち合わせなどした覚えはないのだけど、彼から懇願するような強い圧を感じる。まあ、ここは話を合わせるのが正解だろう。人助けだ、多分。


「隣にいたのね。気付かなくてごめんなさい」


「すれ違いにならなくて良かったよ。じゃ、行こうか。…あ、先輩、お疲れ様でした。失礼しまーす」


「あ、ああ、またな」


 ピュア発言男は森野君の先輩だったのか。取り敢えず私も会釈する。一応自己紹介とかしなくて良いのかとも思ったが、森野君に手を取られ、あっという間に店外へ。そのままの勢いで駅へ向かう。私も後は帰るだけだから、別に良いのだけど。


「いやー、蓮実さん、ありがとう。君のおかげで脱出できたよ。あの人、部活の先輩なんだけど、どうでもいい自慢話が長くて困っていたんだ。お前の話なんて聴いてられるかーってね」


 普段は人当たりの良い森野君が毒を吐いているのにちょっとびっくり。ま、長々と自慢話を聞かされたら、疲れてやさぐれるのも無理はない、よね?


「う、うん、偶々行き合わせただけだけど、お役に立てたなら良かったです。ところで…」


 せっかくだから、気になっていたことを訊こう。


「さっき、『俺ってピュアだから』って聞こえたけれど、どういう流れでそんな発言に至ったのかしら?」


 私の問い掛けに、森野君は首を傾げた。


「え?そんな発言あったかな?先輩の話っていつもダラダラ長いから、適当に相槌を打ってて、内容は覚えていないんだ〜。ごめんね?」


 にっこりしているけど、目は笑っていない。この人は、実はものすごい腹黒君なのではなかろうか。知らなかったよ。


「そ、そう。別に良いの。気にしないで」


 いや、本当はすごく気になる。でも、これ以上訊いても答えは出ないだろう。名も知らぬピュア先輩に訊けば解決するだろうが、お近付きにはなりたくない。


「うん、じゃ、行こうか」


「え?どこへ?」


「デート♪」


 はあああ?何故そんな話に?

 言い返す間もなく、あちこち連れ回され、それを同級生に目撃されて『公認カップル』となった森野君と私。いや、何故こうなった?そして、流され過ぎじゃない、私?




……取り敢えず、名も知らぬピュア先輩よ、今ならばあなたはピュアであると認めよう。あくまで森野君と比べたら、だけどね。



御高覧ありがとうございました。

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