母の呪い
私は母親に呪われている。
最初は些細なきっかけだった。
母が私にかけた初めての呪いはなんの変哲もないありふれたものだった。
痛いの痛いの飛んでいけ。
世の中の人の多くが幼い頃に聞いたことのある言葉だ。
私は母のその言葉を聞いた瞬間自身が感じていた痛みを忘れた。
それを皮切りに母はたくさんの呪いを私にかけた。
健康でいるように。
友達をつくりなさい。
しっかり勉強しなさい。
高校に行きなさい。
いい大学に行きなさい。
孫の顔が見たい。
私は母にかけられた呪いを淡々と解呪していった。
そして母が最後の呪いを私にかけて他界した。
私は母にかけられた呪いの通りにいい大学にからそれなりの企業に就職し、相応しい旦那を得て子供も作り家庭を持っている。
呪いをかけられた結果とはいえ私自身この状況に幸せを感じていた。
しかし私は今、母の最後の呪いに打ち勝とうとしてしまっている。
私は今、病床にて愛する夫と2人の愛する子供達に囲まれて横になっている。
私の命を測る心電図は弱々しく波打ちながら刻一刻と私に最後の時を告げる。
子供達が私を悲しそうな目で見ている。
夫も珍しく嗚咽を漏らしながら涙を流していた。
嗚呼、お母さん。
あなたもきっとこんな気持ちだったんだね。
なら、そう。
私もあの子達に最後の呪いをかけないと。
「聞いて、あかり、はじめ。」
子供達が涙に濡らした目をこすりながら私に迫る。
私はかつて母が私にかけた呪いの言葉を一言一句違えずに子供達に伝えた。
「最後のお願いよ。私の分までしっかり生きて。幸せになりなさい。」
そう言い終わるより先に心電図は凪いだ。
お母さん、あなたのお願いを聞けなかった私を許してください。
この親不孝者を許してください。
そして叶うならば来世もあなたの子供にしてください。




