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女王ゼノビア

「ふぅ、ここまで来れば大丈夫かな」


 駅前まで来て直隆は一息ついた。


「あとはこのまま家まで、いや、久しぶりに日本人街まで行って吞みなお」

「アラ、直隆じゃない」

「うげげっ!」


 背後の声に振り返り、直隆はのけぞった。

 セクシーな褐色の肌の女性が艶然と笑っていた。


「久しぶりですわ直隆、これも何かの運命かしら?」


 ヒザ裏まで伸びた艶やかな黒髪は軽くウェーブしていて宝物のような美しさだった。


 長いまつ毛にふちどられた吸いこまれそうな黒真珠色の瞳や筋の通った鼻、ぷるっとしたちょっと厚めの唇が女性の色気を倍増させている。


 中東風のドレスに身を包んだエキゾチックスタイルに包まれた女性的な体は、男なら思わず見とれてしまうだろう。


 彼女こそは、かのカルタゴ建国の女王ディードー並の度量。アッシリアの女王セミラミス並の頭脳。そしてエジプト女王であり三大美女クレオパトラ並の美貌とこれら三人を遥かに超える武勇を持った女傑、ゼノビアである。


「ひひ、久しぶりだなゼノビア、じゃ、俺はこれで」


 パルミラ語合壁碑文に『最も傑出した敬虔なる女王』と刻まれたゼノビアは笑顔で直隆の肩をつかんで離さない。


「今日こそ逃がしませんわ直隆。今日こそはこのワタクシの家臣になって頂きますわ」


「だからそれは断ってるだろ!」

「貴方ほどの英傑がフリーなんてもったいないですわ。ヴァルキリーと組むのがいやならワタクシと一緒に住みましょう♪ 生前は女王で多くの業績を残したワタクシへ払うヴァルハラの献金は多額。家来の一〇〇や二〇〇簡単に養えますわ」


 ゼノビアは香水の匂いを漂わせながら、満面の笑みで直隆の腕を取り身を寄せる。


「フフ、悪い話ではないでしょう?」


「いや、俺も生前の身分と業績に合わせた献金もらってるし、ていうかヴァルハラは無限に食べられるイノシシセーフリームニルとヤギのヘイズルーンが出す蜂蜜酒無料だから生活困らないだろ」


 英霊は衣食住全てが保証されている。


 ヴァルハラに連れてこられた英霊は生前の身分や業績に合わせた住居と毎月献金をもらい、さらにイノシシの肉と蜂蜜酒が吞み放題食べ放題。着るものは毎月の献金で十分に買えるし、そもそも生前着ていた服や装備は壊れても勝手に再生する。


「でもより高級な物を得ようとすればお金が必要でしょう?」

「金は今でも足りてるんだよ」


 そっぽを向いてけんもほろろに断ると、ゼノビアのまぶたがトロンと落ちた。


「ふぅーん。金貨で動かない戦士、貴女のそういうところも魅力的ですわ。でも贅沢に興味がないなら」


 ゼノビアは突然乳房を腕に押しつけて来て、直隆の耳元でささやく。


「ワタクシの夜伽相手に指名してあげますわ」

「うっ……」


 直隆の心が折れかけた。というかヒビが入った、深いヒビが。


 ゼノビアはエイルほど巨乳ではないが、十分女性的なボディラインで、驚くほど細いウエストのせいでバストやヒップが実際以上の印象を受けるし、何よりも形が良い。


 胸の谷間が見えるセクシーなドレスから見える胸は当然ノーブラで、けれど綺麗な丸みを帯びて本人の動きに合わせてやわらかく揺れる。


 知勇兼備の美女に夜の床を誘われれば、多くの男は想像力がたくましくなるだろう。


 直隆のいた日本では見られない、おいしそうな褐色の肌もプラス要素だ。

 このままではまずい、と直隆はゼノビアを振りほどいた。


「悪い!」

「あん、なおたかぁ~……サモン」


 走る直隆、ゼノビアとはみるみる距離が生まれて、馬に乗ったゼノビアがみるみる距離を吞みこんだ。


「のぉおおおおおおおおおお!」


 乗馬が得意で有名なゼノビアは、馬も装備に入っている。

 武器同様に、いつでも戦場で用いた軍馬や戦車を召喚できるのだ。


「俺も馬を、いやここは!」


 直隆は馬の入ってこれない路地裏に入る。

 走って、跳んで、転がって、駆け抜けて…………ゼノビアはぴったり後ろについてきていた、離せる気がしない。


「くそがぁあああああああ! 女王のクセになんでそんな身体能力高いんだよぉおおおおおおおおおお!」


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