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08 懺悔

「夢を見なくなったのですね。それはいいことだと思います。本当にぐっすりと睡眠が取れている証拠なんでしょう」


 言葉とは裏腹に、片桐の主治医は何処かガッカリしているようにも見えた。

 精神科の医師にとって、患者はある意味で研究対象でもあるというのを聞いたことがある。珍しい症例を示した片桐のことを内心有難がっていたのかもしれないが、そんな事情に構ってやれる余裕は今の片桐にはなかった。


「多分……僕の罪悪感がそうさせているんだと思います」

「ほう?」


「何となくそんな気はしてました……カノジョは僕が持ってる猫のイメージの具現化なんじゃないかって。だけど……それは抽象的な意味での『猫』であって……僕の大切なあの子だったなんて……考えてもみなくて……」


 医師は、半ば片桐の独り言にも近い吐露をただ黙って聞いてくれていた。本音は意味不明と言いたいところだろう。異界を訪れるということ以外、相変わらず夢の詳細は医師に明かしていなかったのだから。


「いくら夢の中だからって……一度死んだあの子を、ましてや僕の所為で死んでしまったあの子を、あんな歪んだ形で生かしておくだなんて……本当は許されるハズがないんだ……それは分かってる……分かってるけど、このままじゃあんまりで……」


「……何にせよ改善してきたのはいい傾向です。引き続き、これまでと同じ量のお薬を出しておきますよ。ああ、そうそう」

 医師は書類に何事か記載しながら、突然思い出したように片桐を見てきた。


「念のために言っておきますが、間違っても一度にお薬を沢山飲んだりしてはいけませんよ。世の中には用法・用量というものがありますからね……お分かりとは、思いますが」


 医師はそう言って、片桐を見てきた。

 片桐はしばらくの間呆然として、医師の放った言葉の意味を考えていた。やがてそれは、言葉通りの意味なのだということが分かった。

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