手紙
夢を見た。
真っ白い現実味のない世界。ただフワフワと体が宙を浮いているのは分かる。
視界がボヤける。
だけど、しばらくすると真っ白い世界の奥に黒い点みたいなものがあるのが見えた。
俺は近寄って確認しようとする。でも、手も足も動かない。動くのは目とその黒い物体だけ。
黒い物体はモヤモヤとしている。俺の目がまだかすんで見えるのが余計にそうしている。だが、俺の体の調子以外にその黒い物体は形を整えながらだんだんと大きくなっていく。
その瞬間、俺の背筋を誰かがなぞったような感覚に陥られた。
黒い物体は、大きくなっていってるんじゃない。自分に近づいてきているのだ。
しかも、だんだんと機能を取り戻していっている俺の目がそれを捕らえた。
目がある。
口も。口は大きく裂け、ニヤニヤとこちらへ笑いかけてくる。
よく見るとそれは・・・・・・・・・・・・・・
ドサッ
「いってぇ〜・・・」
体に物凄い衝撃を受けた。
痛いけど、そのおかげで夢から覚めた。
「一体どんな夢なんだよ。あー寒気がする・・・」
俺は夢の続きが気になった。
だがそれ以上に怖かった。
あの夢は昔何処かで見たことがあるような気がする。
そんな気がしてならなかった。
ずっと寝ていたのか、真上にあったはずの太陽はもう紅く沈みかけている。
「もうそろそろ母さんが帰ってくる頃だな」
俺は残りのジュースを一気に口に流し込み、部屋を出た。
階段を乱暴に下りると、もう母さんが夕飯の準備をしていた。
「あら、お友達の家に行ったんじゃないの?」
「急用だってさ」
「そう、もうすぐご飯だからね」
「おう」
母さんとの何気ない会話をしていた時、妹が帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり美玖」
「あ、お兄ちゃん。早紀さんがねお兄ちゃんにコレを渡してくれってさ」
「何?」
美玖から小さめの紙袋を受け取った。
中身を確認しようと袋の中に手を入れた。
だが、「物」らしきものは見当たらず奥のほうに手紙が一枚入っていた。
手紙を乱暴に開いた。
「お兄ちゃん、もっとキレイにあけようよ」
美玖に文句を言われながら中身を出した。
そこには二つ折りにされた紙が入っていた。
紙を開くと、少しの文章だけがかいてあった。
親愛なる悠くんへ
久しぶりだね 秀
君は僕の事を忘れたかもしれないけど 僕は君をちゃんと覚えている
もうじき会うことになるさ
そうだね・・・・・・・・・強いて言えば再来週の日曜日の
午後7時58分くらいかな
君の親友より
それを読んだ途端寒気がした。
手紙に書いてあるもうひとつの名前、秀。これは俺が小学校の時のあだ名。なぜかわからないけど、その時の俺はいじめられていた。
そのときに、みんなに呼ばれたあだ名。
でもおかしいよな。
来週の日曜日は中学校の同窓会。
俺は小学校5年生の時に東京へ越してきた。
つまり、小学校4年生までの俺を知っている奴は、中学校にはいないはずだ。
なのに・・・・・・・なんで?
そのとき。
どこからともなくヒラリと紙が落ちてきた。
「ん? お兄ちゃん、なんか落ちてきたよ」
そう言って美玖が紙を拾う。
だが―――・・・・・・
「きゃぁっ!!」
その紙を見た瞬間、美玖が青褪めて紙を投げ捨てた。
紙がまたヒラヒラと舞い落ちる。床に落ちて、その表側が俺の目に届くようになった。
「・・・・・・。コレって・・・人間?」
そこには、小さい子が描いたような形がはっきりしていない絵が描かれていた。
でも・・・・・・
「お兄ちゃん・・・コレ描いた子、変だよっ。だって人間の死体描くなんてっ!!」
美玖が俺の方を見た。
この絵を描いた子は、せいぜい小学1,2年生だろう。
・・・・・・はは。どんな奴だよ、こんなの描くのは。
明らかに子供じゃない。
「まぁ、人間だっていろんな奴がいるさ。子供だっていろんなテレビ見てるんだから、どこかのドラマでしてた殺人でも描いたんじゃないの?」
俺はそういったけど、美玖は・・・
「絶対違う。大体、なんでウチにこんなのがあるの!? 近所の子なんて滅多にウチに来ないし、第一こんなこと描くような子じゃないよっ」
「まぁ・・・確かに」
俺も納得した。
その日の夜は、手紙と絵の事ばかりを考えていた。