同窓会への扉
セミが鳴いている。
ミンミン、ミンミンと。それはまるで呪文のように。暗示にでもかけるように。
うるさい。
俺は部屋の中でくつろいでいた。
エアコンをつけて、氷入りのジュースを飲んで。
普通の俺の家ではありえない。今日は特別に母も父も、親にチクる妹もいない。
これが俺の憧れの毎日。安っぽいと思われるかもだけど、これが俺の夢の中の毎日。
「あぁ〜、セミの声さえ無けりゃいい気持ちなのになァ」
そう言ってジュースを一口飲む。・・・幸せだ。
俺は自己満足で、ニンマリとした。
そのとき、
ピリリリ ピリリリ
机の上にあったケータイがぶるぶると震えた。
「・・・誰だ? こんなときに」
俺は半分めんどくさくなりながらも、ケータイを開いて相手を確認する。
その人物を見て、俺の眉はひきつった。
「・・・もしもし?」
「あ、悠?」
「なんだよ、早紀」
相手は、中学の時の同級生でもあり、元カノでもある水野早紀だった。
早紀はうるさくて、とにかく盛り上げ役だ。
そんな早紀が珍しく俺にかけてくるなんて。
「どうしたんだよ?」
「あのねぇ、今度同窓会やろうと思って」
「同窓会ぃ??」
早紀の声はいつも通りハキハキしている。
そんなに同窓会したいのか?
確かに、中学卒業してからもう2年経つけど。でも同窓会って、もっと歳いってからやるもんじゃね?
「えーとね・・・。あぁそうだ。悠以外にはもう全員言ってるよ! みんなオッケーだってさ」
「おいおい。俺以外全員に言ってんのかよ」
「当たり前でしょ〜」
早紀はいつものぶりっ子で返してきた。
今思えば、男ってこういうのに一瞬だけ惹かれるんだよな。ほんとに一瞬だけ。
「場所はね、Pホテルの宴会場。すぐ分かるよ。時間は、えっとね、再来週の日曜日の午後7時から。忘れないでよ」
「おー。再来週の夜7時な」
俺は場所と時間をメモしながら答えた。
再来週の日曜日は、たしか空いてた。大丈夫だ。その日は高校の補習もないし。
「元3年2組が復活だよ。楽しみだね」
「あれ、3年生全体じゃないの?」
「えっ、違うよ違う」
その時早紀はあせっていた。俺もそんなに気にする風もなくただ流した。
何にあせっていたのかは分かる余地もなく、俺はただ笑っていた。
本当に、何が起きるのかは予想がつかなかった。
このとき、同窓会なんて断っておけばよかった。
「じゃぁね、会えるの楽しみにしてるから」
「おぅ。絶対行くわ」
最後にそう言って、電話を切った。
ケータイの画面に―通話終了―を出たのを確認すると、ケータイを閉じた。
そして、俺は再びオアシスに戻る。
ごろんと床に寝転ぶと、真っ白い天井が見えた。蒼白で、何にも汚れていない純白。
俺はそのまま目を閉じた。
そして、ゆっくりと夢の世界に入っていった。