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天から詠む手紙

作者: 中林 創

その青年はある日、なんの前触れもなくその人生を終えた。

何が起きたかはすぐに分かった。

しかし運命に抗う術は無かった。

 あぁ、これが死の感覚か。痛いような苦しいような。そんなこと考えてたって俺はもう死ぬんだもんな。もっと生きてたかった。まだやりたい事あったのにな。良い人生だった。そう言って家族に囲まれて死にたかった。こんなに早く死ぬんだからさ、死に方くらい選ばせてくれてもいいんじゃないか。ほんとに不幸だな、俺は。俺の人生は。

一人曇り空見上げて、死ぬのか。

なんて地味で孤独で辛いんだ。


 

 そういえば、祐也と拓真と久々に明後日飯食いに行くんだったな。楽しみにしてたんだけどな。せめてその後死なせてくれよ。ごめんな。今度お前らと会うのは何十年も先になりそうだな。我ながら皮肉なジョークだよ。こんなんで笑ってた時期もあったのにさ、ほんとに死んじまうとはな。お前らは悲しむかもしれないけどまだ先があるんだから。前に進んでくれ。俺は上から見てることにするよ。


そういえばいつもお前らに上から目線で喋るなよとか何様だとか言われてたりしたっけ。残念ながらこっから何十年間ずっと上から見下ろしてやるから。祐也、次お前が浮気したら俺から咲ちゃんに告げ口してやるよ。上からの視線に気をつけろよ。そもそも浮気するなよって話だけどな。拓真、お前からも強く言っといてよ。つうか拓真はさっさと彼女作りな。死んで尚お前の妬みとか聞きたくないよ。なんで浮気するような男のくせに祐也が一番モテるんだよ。高校の時からずっと、祐也は彼女が常にいて、俺らはよく二人で遊んでたな。俺は別に高校の時は彼女欲しいと思ってなかったからいいけど。拓真が可哀想だったよ。これからは祐也も少しは女の子紹介してあげてな。


お前らって結婚とかすんのかな。するよな多分。でもどっちが先にするかって言われたら想像つかないよな。祐也は浮気性直さない限り無理だな。かと言って拓真は彼女すらできないからな。

もしかしたら俺が一番可能性あったんじゃないか。運命のいたずらにしては度が過ぎてるよな。でも俺らを出会わせてくれたのもその運命ってやつなんだよな。感謝したらいいのか恨んだらいいのか。よく分からないな。


そもそも運命のせいにしてる俺が悪いのか。いや、でもいきなり車くるなんて思ってなかったし。しかも結構速かったよな。やっぱ運命のせいだ。運命で決まってた人生を今日ここまで全うしたんだ。そこで終わりなんだ。簡単には受け入れらないけど皆最後はそう思うしかないんだ。お前らは運命を憎むよな。俺だって憎い。でもこういうもんだって言われたら何も言えないな。所詮俺らは未知の世界に戸惑いながら生きていくしかないんだよ。この世の真理みたいなのに辿り着いて死ねる人なんていないんだよ。


それを死んでから悟るってのも皮肉なもんだな。今日はいつにも増して皮肉たっぷりだな。まぁ皮肉やら自虐やらは俺らの得意分野だな。お前は違うけどな祐也。俺らはお前への負のエネルギーで頑張ってたんだよ何もかも。部活だって恋愛に変わる情熱を注ぐ場所として俺と拓真は三年間やりきったし。まぁ大した結果にはならなかったけどさ。でも楽しかったよ。祐也も最後見に来てくれたしな。覚えてるか。俺ら最後4-0くらいでボコボコにされてさ。ここで俺らのサッカーは終わりかとか、そんな事考えられなかったね。恥ずかしくて。でも祐也言ってくれたよな。結果的に負けちゃったかもしれないけど、今日俺が見たお前らは今までで一番かっこよかったって。嬉しかったな。あの時は皮肉のつもりかよとか言ったけどさ。あれすごい嬉しかった。なんだかんだ良い奴なんだよ、お前。そうなんだよ、お前ら良い奴なんだよほんとに。だから会いたいな。だけどお前らには長生きしてほしいしな。俺の分まで背負わすと荷が重いだろ。だから見てる俺を退屈させないでくれよな。それくらい充実した人生送れってことだよ。お前らが幸せならそれで嬉しいからさ俺。約束だからな。

幸せに生きろよ絶対。それが分かったらいいよ。

じゃあな、ほんとに。元気で。



 母さん、父さんにも言っておきたいことがあるんだ。何言ったって聞こえてないだろうけど、一方的に話すよ。

まずはありがとう。

何がとか言い出したらきりがないけど、ほんとうにありがとう。

母さんや父さんよりも先に死ぬなんてな。でも二人のこと見送るのは辛いからこっちの方が気が楽かな。そんなこと言ったら怒るだろうけど。


学費とか大変だったでしょ。ごめん。無駄になっちゃったかな。

お金もそうだけど二人に貰った愛情とかさ、返せないままになっちゃったわ。たくさん怒らせたし迷惑かけたけど、二人のこと大好きだからさ。ほんとうにごめん。何か特別秀でたことがなくてさ、勉強もスポーツもぼちぼち。そんな出来の息子でも、高校・大学進学できたら喜んでくれてさ。就職決まった時なんてよくやったって言いながら泣いてくれたりさ。俺のこと、愛してくれてるんだって思ったよ。すごい嬉しかったし、二人のもとに生まれてこれてよかった。ここは運命に特別感謝しなきゃいけないね。二人はさ、楽しく暮らしてね。

できればその輪の中に俺もいたかったけどさ。もうだめなんだ。どうやったって叶わないからさ、願ってるよ。二人の幸せを。それが俺にできる親孝行なんだよ。ほんとうは違う形でしたかったんだけどさ。


前に父さんに言われたこと思い出したんだ。

高校三年の時さ、何がしたいかも分からない、行きたい大学も定まらないって悩んでてさ、もう訳わからなくなっちゃって。

言いたくなくて何も言ってなかったけど父さんはさ、お前はやりたいことやっていいぞ。ただし自分の道は自分選んで決めろ。そうすりゃ後は父さん達が背中押してやるから。そう言ってくれたよね。あの時悩んでた事何もかも馬鹿らしくなってきちゃって。だめならだめでとことんやろうって思えた。今思い返すと父さん達も一緒に悩んで闘ってくれてたんだね。ありがとう。

だけどやりたいことやりきれなかった。そんな息子でも誇りに思ってくれるかな。そうだといいんだけど。


二人は優しいからさ。厳しく叱ることもそりゃあったけどさ。

愛情がなきゃそんなことやってられないよ。

小学校4年生の時かな。一人で留守番してた時にお皿割っちゃってさ、めちゃくちゃ怒られたよね。それもただ割ったんじゃなくてさ、割ったことを隠そうとしたからあれだけ怒られたんだよね。そりゃ怒られるよねって感じだったけど。割った皿をセロテープでくっつけるなんて荒業すぎたよ。破片も散らばってたし隠しきれるわけなかったのに。

人を騙そうとすることが一番悪いことだ。って父さんに言われてさ、子供ながらに反省したな。

叱られることも愛情のうちの一つだったんだね。


でもね、俺、父さんが新品のプラモデルの金額を母さんに誤魔化して申請してるの知ってたからね。これは買いすぎだって言われて咄嗟に、1000円だから大した出費じゃないって言い張って。それから新しいのを買うたびに毎回誤魔化してたよね。

このことは黙っておいてあげたからさ、感謝してよね。

楽しい思い出なんて語ったらきりがないし俺からはこれくらいにしとくよ。もっと一緒に居たかったな。もっと家族の思い出作りたかったな。ごめんね。

短い人生だったけど二人にはほんとうに感謝してる。二人の息子でほんとうに良かった。ありがとう。

幸せに、長生きしてね。


 

 短い上にちっぽけな人生だったな。

父さん、母さん。祐也と拓真。学生時代の皆とかご近所さんとか。今思えば皆のおかげで楽しかったな。

もっと、ずっと、生きてたかったな。

ほんとに幸せだった。


 

 あぁ、これが死んだってことなのか。辛いようで幸せであって。

人生ってこんなにも尊いんだ。

死んでから気づいたんじゃ遅いのかな。


皆、ありがとう。元気で。



親愛なる    より

普段は恥ずかしくて言えないことや心にしまい込んでいるもの。誰にも届かない手紙の中なら話すことも出来る。そんな気持ちで書きました。


とても短く、読み応えもないかもしれません。

本当はもっと語ることもできるでしょう。

でも、語らず胸にしまっておく。ふとした時にまた思い返す。そんな思い出があってもいいでしょう。

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