Voyage
船は進む。進む進む。
何もかもを置き去りにする速さで。
時でさえも、船には容易に追いつけない。
僕はこの船のただ一人の船員だ。
船の速さは僕の感情まで何処かに置き去りにしてきてしまったのかも知れない。
船の中で僕はただ機械のように誠実に、確実に、そして無機質に与えられた役目を果たして過ごす。
そしてそれに疲れると、鉛になってしまったかのように重く冷えた心を包むように身体を不器用に丸めて眠った。
それが僕の日課。
それをどれだけ繰り返した頃だろうか。
ふいに顔を上げて、僕は分厚い船窓から外を眺める。
そこから見えたのは漆黒に浮かぶ懐かしくも美しい青だった。
その青を見れば、きっと泣ける気がしていた。
鉛のような心も、とけほぐれるだろうと思っていた。
だけどその青を目にしても、僕の目は痛いくらいに渇いたままだった。
鉛のような心はずしりと僕の胸を塞いだままだった。
そんな僕を無視して、船はその青に吸い込まれるように近づいていく。
まるで長い航海の末に帰った故郷で愛しい人を見つけて堪えきれずキスする時のように、抗いがたい力が働いていた。
僕はシートに深く腰をかけ、その時を待つ。
そして……僕の長い長い航海は終わった。