友愛
みんなの制服が長袖になり、やがて冬服になってきた。最後の授業が終わり、放課になると空は、私たちから大切な昼間を奪うように、少しずつ暗くなり始めていた。校庭からは運動部の威勢のいい声が聞こえる中、私は一人で図書室の椅子に座っていた。放課後には利用する人のいない、あまりに広すぎるこの部屋には、無駄だとわかっていながらも、少し強めの暖房がかかっていた。独特な本の香りが、私にとっては集中力を駆り立ててくれるのだが、それが邪険に思える人もいるようだ。定期テストの時期になると、必死にこれまでの怠惰を埋めようと努力する学生や、少しでも努力しているように見せているだけの私のような学生が増えてくる。
まだ時計の短針が5を指したばかりだというのに、あたりは西の方の空を残してほとんど夕闇に包まれてしまった。あまり暗くなりすぎる前に帰ろう、と頭ではわかっているけれど、目の前の本の中で繰り広げられている心躍るようなファンタジーに、私はもう少し浸っていたかった。
鈍い感覚が、私の体を襲う。それが、敵が無数に放った銃弾の一つだと理解するのに、かなり時間がかかった。だんだん息が苦しくなる。私には最愛の人がいるのに……。ここで死ぬわけにはいかないんだ……!というこの話の一番の盛り上がりどころだった。巡回に来た先生に「そろそろ帰れよ」と言われ、一気に私は現実に引き戻された。確かにもう午後6時を過ぎようとしていたが、あまりにタイミングが悪かったので、私は露骨に不機嫌な顔をしながら、荷造りを始めた。
1時間ほど前まで少しは明かりが灯っていた西の方角でも夕闇に覆われていた。もう少し早く帰路についていれば、明るい道を歩けただろう。自分が選んだことだが、少し後悔が混じる。等間隔に並んだ街灯が、歩を進める私を定期的に照らしていた。この明かりがもう少し間隔が短ければ、さっきまで読んでいた本を読みながら歩けるけれど、さすがに危険なので、やめておこう。
20分ほどの道のりを歩いて、やっと家に着いた。毎度この道を歩くのはとても疲れるし、3年間も同じ道を通り続けるのは嫌だと感じているが、もはやその感覚すらもなくなりつつある。長いと感じる道のりを終えたかと思えば、別段帰りたくもない家にたどり着く。
「……」
「ゆう、おかえりなさい。晩御飯の準備もうすぐ終わるから、着替えてきなさい」
「……」
私は無言で帰宅した。キッチンにいるお母さんが声をかけてきたが、私はそれに特に反応せず、自分の部屋に向かった。毎日毎日お母さんは同じことを言っている。なんだか頭がおかしくなりそうだ。お父さんは私に気づいているのかいないのか、椅子に座って新聞を読んだまま反応しない。この人、朝も新聞読んでるし、夜も読んでる。よっぽど物覚えが悪いのか、やるのことがないのかな。
私の居場所はどこにあるんだろう。
私は少しため息をついてから、デスクチェアに腰を落とした。さっきの本の続きを読もうとしたけれど、その前にカバンの中に入れてあったスマホを取り出した。そのスマホに来ていた1件の通知は、私を喜ばせるには十分だった。
「ゆうちゃん!今日の課題でわからないところがあるんだけど…」
無機質な家族や教師とは違う、大切な友達からのメッセージが届いているだけで、私は少しだけ、ほほが和らぐのだった。
『すっごーい! こうやって解くんだ!』
私はたくさん人がいる祭りとか、明るい性格の人とかがとにかく苦手だ。だから私はみんなで何かをするっていうのが苦手だし、部活なんかにも入っていない。ただ一人、いつも図書館で本を読んでいるだけ。
でも一つだけ例外があった。それこそたった一人の友達だった。
「あいちゃんも、電話で話すだけで理解できるんだから充分すごいよ」
いつも人気の輪の中にいて、私とは別世界に生きている彼女は、他の人と関わりを持とうとしない私を友達だと言ってくれた。最初は不信に思っていたけれど、友達付き合いが増えていくにつれて、彼女が真に優しい人物であると理解した。
小学生の頃から本だけが友達だと思っていた私にとっては、彼女だけが心から気を許せる相手だ。思ったことをすぐに行動に移せて、悪いと思ったことははっきりと口に出す、裏表のない性格は、もちろん私だけでなくてみんなからも愛されている。少しだけ彼女のことを羨ましくも思っていた。
『私、数学なんてだいっきらい!』
彼女の性格は、まさに感情で動くタイプだった。論理的に考えるのはあまり得意ではない。時に数学の問題にはいつもてこずっているようだ。
「私も数学は得意じゃないよ」
それは私も同じだった。数学は苦手。小学校の頃の算数や計算は得意だった。一生懸命頭を動かすのが楽しいと思っていた時期もあった。でも中学以降になると、数式をだんだん抽象化するようになって、難しい話が増えてくると、「それは世の中で役に立つのかな……」と思ってしまう。
一方で国語は得意。筆者が言いたいこと、述べたいことは文章を読んでいれば伝わってくる。必死に筆を動かしながら、自分が懸命に叫びたいこと、伝えたいことを必死に書いている。文章とはそういうものだろう。私はその思いを受けるのが好き。
『じゃあ、また明日ね! ゆうちゃん!』
「うん、またね」
スマホを机の上に置くと、頑張って解いた自分の数学の課題が目の前に広がっていた。少しでも彼女の役に立てたのならよかった。私はそう思って、また小説の世界の幕を開けた。
「あいちゃん! 昨日はありがとう! おかげで先生にあてられても答えられたよ!」
数学の授業が終わると、授業の疲れを感じる間もなく、友達が駆け寄ってきた。他の人なら疎ましいと思える笑顔も、彼女の笑顔ならいやな気分にはならない。
「どういたしまして。また困ったことがあったら言ってね」
ありがと~と手を振りながら……少しスキップしながら、彼女は戻っていった。私は彼女のことを信頼しているけれど、彼女と一緒にいすぎるとなんか気分が悪くなりそうになる。彼女はそれを知ってか知らずか、あまり私と長い時間話そうとはしない。授業はこれから午前中最後の時間に入る。次は好きな現代文の時間だが、私の大嫌いな教師の時間だ。私はそれを考えるだけで少し気分が落ち込んだ。
私とこの人とでは考え方が全く違う。私は外国に留学するほどお金を持ってないし、学力もない。ましてや、留学できたとしてその中で恋愛にかまけるなんてこと、ありえない。この太田豊太郎という人物のことを、私は好きになれなかった。
『舞姫』という作品はあくまで明治以降に作られた文学作品なので、現代文として授業で取り扱う。しかし、文章は古文に出てきそうな文字使いだった。古文を読み進めるような授業は少し違和感がありながらも、『舞姫』という作品を読みたいと思っていながら、読んだことがなかった私は臨場感を感じながら、授業に聞き入っていた。
「ゆうちゃん……! ちょっと相談に乗ってほしいの……!」
午前中最後の時間を終え、嫌悪している母親の用意した弁当箱を取り出した瞬間、いつもは元気に話しかけてくれる友人が、少し不安そうに、焦っているように話しかけてきた。
「あいちゃん? どうしたの?」
私は、彼女に連れられながら、教室を後にした。
私は今日もいつも通り、たった一人しかいない図書室に居る。授業が終わって、何も言わないまま、図書室に直行してきた。たった一人、私だけをいないこの部屋を暖めるために、エアコンは轟音をたてている。ちょうどいい雑音になって集中力を高めてくれる。今日は本を読む気分が全くおきなかったから、ついさっき出された数学の課題を坦々と進めていた。本を読むにはどうも受動的になるので自分の集中力がないと内容が全く頭に入ってこない。でも授業の課題をしたり、勉強をするときは能動的に脳を動かすので、進めていくうちにどんどん集中力が高まっていく。
私が大好きな読書ができなくなるくらい集中できてないのは、昼休みに友人から相談されたことに他ならない。
『私……! 気になってた男の子から手紙もらっちゃった……!』
彼女の表情は、少し戸惑いながらも興奮気味だった。私はその顔が脳裏に張り付いて離れなかった。私が見たことのない表情だった。良かったじゃない、なんて応えるの。そうなんだ、うまくいくといいね。うん、いい報告待ってるよ。彼女の声が私の耳に届いたのは最初だけで、あとは何を言っていたか正確に覚えていない。私は生返事を返すと、彼女はいつものように私が持っていないキラキラしている笑顔をしていた。
「ん、……これ、どうやって解くんだろ」
ほんの少し発展的な問題に私は躓いた。数学の教科書とノートを取り出すと、そこに描かれていることを目で追った。教科書に書いてある解法を無理やり当てはめてみたが、解はでなかった。私は少しイライラと感じたので、残りは家で解きなおすことにした。
校庭からは運動部の威勢のいい声が届いている。手前にある体育館でもたくさんの生徒が部活動に励んでいる。私の友達もあの体育館でバスケットボールをしている。彼女は今どんな気持ちで部活動をしているのか、私には知る由もなかった。
卑屈で後ろ向きな性格の私には、勉強しか取り柄がなかったと言っていい。無論、これまで恋人なんていたことないし、自分には今後しばらくは無関係だと思っていた。これまでの人生の中で気になる男の子なんていたこともないし、逆に男の子からそういった風な声をかけられたこともなかった。彼女も同じだったのだろうか。性格も明るく、私より容姿も優れている彼女は、これまで恋人がいたのだろうか。どんな恋愛の経歴を持っているのだろうか。人を好きになるってどんな感覚なんだろうか。
私はそんなことで頭がいっぱいになっていた。けれども次第に考えるたびに、「私にはどうせ関係ない」という考えがだんだん頭を支配するようになっていった。
時計の短針が6を超えた。外では運動部の生徒の声が聞こえなくなってきた。また私の嫌いな現代文の教師が現れる前に、私もこの部屋から出ることにした。ふと窓の外を見ると、女子バスケ部の数人と一緒に体育館を出る友達の姿が見えた。
また長い通学路を歩き、家に帰って大嫌いな両親と顔を合わせ、数学の課題に頭を抱えてる。それだけでもものすごくストレスなのに、どうも頭から彼女のことが離れない。彼女からの連絡は今日の夜は来なかった。「あの子がどうなろうが、私には関係ない」やがてそう思い込むことでむりやり忘れようとしていたけれど、結局数学の問題は解くことができなかった。次の日の授業でその問題の解説を聞くと、私はごくごく簡単な公式を見落としていただけだった。
2日後、彼女から「私、彼氏ができた!」という元気で、単純な報告を受けた。当然と言えば当然な応えだったと思う。いつも明るくて元気で、体を動かすのも大好きで、でも女の子らしいところも持ち合わせている、そんな彼女のことを魅力的に思う人は多く、その中で彼女に本気で想いを持っている男性なら彼女を幸せにできる。
私はその報告を受けて少し動揺したが、すぐに現実を受け入れた。彼女がまた少し、いや、とても遠くに行ってしまった気がして、それから彼女に積極的に話しかけることができなかった。
脇腹に弾丸を受けながらも一命をとりとめた彼は、ひたすら走り続ける。かれこれ2ページ半は走り続けている。彼の心情の描写が克明に描かれているが、私にとっては展開が遅くて少しストレスが溜まった。この小説の作者はどんでん返しの展開の速さが持ち味なのに、ここでページ数を稼いでいいのかと思えた。正直つまらなかった。前の巻は私にとってとても評価が高かったが、今回はあまり面白いとは思えてない。半分くらい読んだところで、図書室の時計を確認したところ、時刻は5時半を過ぎていた。少し早い気がするが、ここでこの本を読み続けるよりは家に帰って宿題をした方がおそらく有意義になるだろうと結論付け、私は身支度を始めた。
体育館の出入り口は完全に開放されていたので、外から中の様子をうかがうことができた。バスケットボール部に所属している私の友人は味方からのパスを受け取ると、相手のディフェンスを潜り抜け、一気にゴール下まで入り込んで、シュートを決めた。あまりに鮮やかで、彼女のそのプレーに見惚れてしまっていた。
体育館の横を少し進むと、校庭には私のクラスメートのサッカー部のとある男子が見方からのパスを受け、一気に前線に駆けあがっていた。相手のディフェンスを躱すと、一気にゴールに向けて右足を振りぬいた。彼はチームメイトとハイタッチを交わして、自陣に戻っていく。彼も明るく元気な性格で、かつ成績も優秀で容姿も優れていた。その姿は頼もしさを感じる一方で、その運動神経と彼のカリスマ性が少し妬ましく思った。彼を見るたびに思う、やっぱりあの子と合ってるカップルだと。彼の笑顔を見るだけで、友人の笑顔が思い浮かんだ。
それからしばらく私は友人と話せないでいた。友人は彼氏ができてから高嶺の花のようになってしまった。元気な印象から、より女性らしい淑やかな雰囲気を纏い始めたため、男子はおろか、女である私まで彼女と話すのが躊躇われてしまった。
彼女の印象が変わったことと、クラスメートのとある男子が彼女と明らかに親しそうにしていることから、彼女たちが交際していることはすぐにクラス中に広がった。だからと言って、この教室に特に何かが変わったことがあるわけではなかった。たった2人のクラスメートが一つ大人になってしまった。たったそれだけだった。私もそのことに最初は戸惑いを感じていたが、すぐに空気の中にいた。
「ゆうちゃん、今日は一緒に帰らない?」
登下校時にはついにコートが必要になる季節になった。最近は図書室に行ってもすぐに辺りが暗くなるので、不満でもあった。コートを手にして、いつものように図書室にむかおうとするとき、友人から呼び止められた。
「うん、いいよ。部活終わるころに体育館に行けばいい?」
「違うの、今日は部活行かないの」
放課後はよっぽどのことがない限り部活に一直線の彼女が、今日は少し肩を落としていた。彼女が持つかばんはいつもより少なく、明らかに部活に行くためのユニフォームや水分を持っていなかった。今日はもともと部活にはいかないつもりだったのだろう。
「うん、いいよ」
「ごめんね、図書室行きたかった?」
「大丈夫、最近面白い本がなくて困ってたんだ」
私たちは授業が終わってそのまま、帰路についた。
「今日は、部活行かなくてよかったの?」
「うん、休みもらったんだ」
彼女は部活に所属しているバスケットボールをしているときは、とても楽しそうにしていた。一度彼女の試合に足を運んだことがあるが、彼女のプレーは周囲の選手より抜きんでていた。技術や体格でも優れているが、何より他の選手より楽しそうにプレーしているのが、印象的だった。
「そっか……」
私はそれ以上問い詰めなかった。彼女が部活を休んだことは、私と知り合ってからは初めてだった。いつも部活に行くのを楽しそうにしていた。過去には「風邪ひいたけど部活行きたかったから、来た!」と言って結局授業中に体調を大きく崩して早退したこともあった。その彼女が今日は部活に行かないというのはよっぽどの事情があったのだろう、と想像に難くなかった。
「どこか具合でも悪いの?病院行く?」
「ううん、そういうわけじゃないの」
彼女は前を見据えて、表情を変えることなく答えた。彼女の顔からは、何の感情も読み取れなかった。
「……」
彼女と話したいことはたくさんあった。最近、彼氏とはどんなことしてるのか。勉強でわからないことはないか。部活の次の大会はいつになるのか…。どれも私の口から出る前に、喉のあたりで言葉が消えてしまった。
「ゆうちゃん、最近はお父さんやお母さんとうまくいってる?」
「……え?」
彼女の口から出た言葉は、かなり意外なことだった。私は彼女と家族の話をしたことがない。彼女がどんな家族構成をしているのか、彼女には兄弟がいるのか、何も知らなかった。
「い、いや、全然。最近はほとんど話してないかな」
「そうなんだ」
私はわかりやすく反抗期だった。自覚は大いにある。親に迷惑もかけていると思う。けれども、生理的に反射したくなる、という感覚だった。
「……」
再び、沈黙が訪れる。大好きな友人と一緒に帰路についているはずなのに、どこかぎこちない。最近は夜が更けてから下校することが多かった私にとっては、この夕暮れの薄明るい様子も含めて、慣れない下校道だった。
「じゃあね、ゆうちゃん、私はこっちだから」
彼女と一緒に下校することも初めてだった。だから彼女がどのあたりに住んでいるのかもわからなかった。
「うん、わかった。またね、あいちゃん」
私は手を振って彼女を見送った。最後まで、彼女は表情を変えないままだった。
いつもと変わらない無愛想な父親、ロボットのように同じことを繰り返す母親。
つまらない通学路。嫌いな教師。少し広すぎる図書室。
私の学校生活を明るくしてくれたのは、彼女だった。
明るい性格で、無愛想な私にも付き合ってくれて、誰よりも優しい、私の大切な友人。
彼女がいるだけで私はこの生活が華やかになっていた。
私のこの感情は、ただの友人としての領域を超えているかもしれない。
私は彼女が困っていることがあるなら、助けてあげたい。
午後11時、彼女から、メッセージがとどいた。
『ゆうちゃんは私がどんな人だと思う? 明るい性格で、優しい性格? それともうるさくて、うっとうしい性格かな? 今までゆうちゃんと接してきたのって、多分そういう私が多かったと思う。ゆうちゃんは私のことどう感じてただろう。自分と性格が合わない、住む世界が違う、そう感じてたんじゃないかな?
私は全然そうじゃなかったよ。私はゆうちゃんと話しているときが一番楽しかったし、ゆうちゃんと一緒に過ごしている時が、私にとって幸せな時間だった。
私は明るい性格だと思われてたかもしれないけど、本当はそうじゃない。臆病で、怖がりで、ほんとは暗い性格をしてる。でもみんなの前ではそうじゃないって思わせたくて明るい性格のふりをしてた。
なんでなのかわからないけど、それで友達が増えたし、いろんな人が私を信頼してくれるようになった。気になってた今の彼氏に話しかけられるようになったし、私はこのままでいるのがいいっていうのもわかってきた。
本当はそんな性格じゃないってずっと言いたかったけど、言えずにいた。でも、初めて他人に私の本当の性格を打ち明けることにした。
その相手は彼氏だった。私のことを好きと言ってくれる人なら、私のことも理解してくれるんじゃないかって思った。彼はそんな私も好きだって言ってくれた。
でもそれから彼の様子がおかしくなった。彼は私に対して酷いことを言うようになった。
お前なんか生きてる価値ない。お前が死んでも悲しむ奴はいない。
だんだん暴力も振るわれるようになってきた。殴ったり蹴ったりした。
私は誰かに相談したかった。でも友達にはこんなこと相談できないし、相談しても彼がそんなことするはずがないってきっと言う。先生には相談したよ。でもそういうのはできるだけ本人で解決しなさいって言われた。親にも相談したかった。でも親とはここ最近、全然話をしてなかった。
今日ね、最後にゆうちゃんに相談しようと思ってたの。でもね、私、これまでずっとゆうちゃんに迷惑かけてばかりだった。宿題わからなかったら教えてもらって、彼に手紙をもらったときも真っ先に相談して。こんなことまで相談したら、私はゆうちゃんに本当に取り返しがつかないくらい迷惑かけちゃうって思って、今日言い出せなかった。
私がこんなことになってしまったのって、全部私の責任なの。私がずっと嘘をついてきたこと、私が誰にも相談できないようにしてしまったこと。
だからね、せめてゆうちゃんにはこのことを伝えたかった。
今までありがとう、大好きだよ』
翌日、彼女が自宅の自室で首を吊っているのが見つかった。
その日のうちに、私は大好きな彼女の後を追うために、長くて丈夫なロープを買った。