第99話
小太りの紳士マチューは、非常警報によりベッドから、慌てて飛び出す。近くを走る研究者と警備員を捕まえて現状を把握すると、驚くべき事態になっていた。
「魔導戦艦が! 突如起動し、現在、徐々に陸地から浮上しているのです!!」
「何っ!? 一体誰が動かしているというのだ!?」
ただの鉄くずではないかと思い始めていた魔導戦艦が、突如動き出す。嬉しさと驚き、そして、恐怖に打ち震える小太りの紳士マチューは、第一次緊急事態宣言を即座に発動して、事態の収拾に乗り出した。
◆◇◇◇◇
「お願いだから、開いてよ!!」
行き止まりだったドアを叩くノア。シュポワーッという音がして滑らかに開いた。
走って! 走って!! 全力で走る!! しかし、リオニーの方が速い。
ノアは途中にある部屋に入り、部屋の隅で蹲る。
コツ、コツ、コツ…。リオニーの足音が近づいてくる。リオニーが走るのを止めた理由は、ノアとの距離がわかっているから!?
足音が目の前で止まる。恐る恐る見上げると、リオニーは泣いていた。
「ノア…。お願いだから、姿を見せて…」
ノアはゆっくりと立ち上がり、【隠密】スキルを解除する。
「リ、リオニー…」
二年。たった二年なのに、リオニーは、大人っぽく精悍な顔立ちになっていた。リオニーは何も言わずにノアを抱きしめる。
ノアも懐かしいリオニーの匂いに心が安らぐ。
耳元で、リオニーは「ごめんね…」と謝る。何を謝っているのだ? 何も言わずに逃げ出したのは、ノアだ。リオニーが謝る必用なんかない!
「リ、リオ…」
背中が熱い。背中から体内に固い何か…異物が押し込まれる!?
「動かないで、間違って…心臓や動脈を傷付けたら…ノア死んじゃうよ?」
「どうして…? あの時…逃げるのを手伝って…くれてじゃない?」
「ノア。私は…何も裏切っていないません」
本格的に浮上を始めた空飛ぶ船によって、床が一気に傾く。
リオニーはノアを離してしまい、その隙にノアは、銀溶液のペルペトゥア、白姫狐のカルメンシータ、灰刃狼のアウギュスタ、白浮霊のフェールケティル、火蜥蜴のテッレルヴォ、月妖精のドーグラスを呼び出した。
リオニーに攻撃しないように指示すると、灰刃狼のアウギュスタの背中に乗り、銀溶液のペルペトゥアが固定すると、リオニーから逃げ出す。火蜥蜴のテッレルヴォと、月妖精のドーグラスは、威嚇するためなのだが、強力な魔法をリオニーに放った。