第95話
タムリンが作り上げた世界。神々と同等の力がなければ干渉出来ない世界。タムリンの願いが全て叶う世界。そんな世界で、ノアの過去と未来がレナータに告げられる。未来においては、まだ確定していない結果であるが、タムリンの予想は大方間違っていないだろう。
「そ、そんな…」
恋い焦がれた存在のノア。異性として愛していたノア。ノアに秘められた本人も知らない過去と未来。ノア…あなたは…。
「この世界であれば、ノアは何からも逃げること無く、平和に暮らせるだろう。だが、ノアには、あちらの世界の神が作り上げた力を宿している。この世界に長時間居られない。
それに、私も、あちらの世界での寿命が近づいている。先程見せた…あの戦いに私は…参加できない。事前にどのような手段を用いても、あの戦いは発生してしまう。
ならば、あの戦いの後、如何にしてノアを生存させるか。
私の願いはそれだけだ。例え、世界が滅びようとも、世界を敵に回そうとも。
レナータ。お前には二つの選択肢がある。
一つは、その体を私に差し出すこと。
もうひとつは…」
◆◇◇◇◇
目覚めると、ボコボコにされた月妖精を灰刃狼のアウギュスタが咥えていた。
「えっ? 何で?」
魔法の矢も刺さっていない。衣服も破けていない。
一件落着?
だがレナータがいない。【特定】スキルを最大限にしてレナータを探すが見つからない。逃げ出した研究者や小太りの紳士マチューも見ていないという。
◇◆◇◇◇
実地調査は完遂出来たが、レナータが行方不明になった。ノアからの報告を聞いた冒険者ギルドは、ヴィルヘルム先輩の不手際もあり、騒然となる。そして、冒険者ギルドは、地下30層への調査を申し込むが、冒険者ギルドの都合には応じられないと断られてしまった。
今日の進展を剣士のマルティンに報告する。
「ノア!! どういうことだ!? 何でレナータが消えた! 何でギルドは何もしてくれない!?」
マルティンに殴り飛ばされるが、何も知らないのだ。答えようがない。
◇◇◆◇◇
「ここだ。この街でタムリンの奴が禁忌の蘇生魔法を発動させた。冷酷なあいつが、そんなことをする相手は…世界でただ一人。ノアがいる!!」
ヴァルプルギスの夜会、メンディサバル帝国、異端審問官、古代教会、そして、アンブロス王国。
ノアをスキルの入れ物としか思わない奴らが…。世界の名だたる闇組織が集結してしまった大都市で始まるノア争奪戦。しかし、周囲から孤立してしまったノア。
蘇生したばかりのノアが、再び死の淵へ連れ戻されるまで、72時間を切る。タムリンの予測を超えない限り、ノアの運命は決まっているのだった。