第93話
「月妖精!?」
誰もよりも早くノアが正体に気付く。そして…攻撃的であった場合に、どのようにして従属させた事を誤魔化すか、頭をフル回転させる。
月妖精は、球体の妖精だ。精霊ではない妖精なのだ。
『何して遊ぶ?』【念話】すきるのように直接脳に語りかけてきた。
「何だ! き、貴様は一体何者だ!?」
ノアは小太りの紳士マチューを制する。
「敵意をむき出しにしないで! 月妖精が攻撃的なる!」
ノアの知識は『魔物大百科』によるものだ。全く以って、著者のセレスティーヌ・ヴェラーには頭が下がる。どこで月妖精のような魔物と出逢ったのだろうか? どのようにしてその性質を研究したのか? まぁ、『魔物大百科』を丸暗記しているノアも大概なのだが。
『あれ? 君は…不思議な…感じがするね?』
フワフワと倉庫に浮遊する月妖精にノアは語りかける。
「月妖精。遊ぶ前に話がしたい」
『なになに? 僕に興味があるの? だけど…ここで遊んでいいって言われてるから。お話よりも遊びたいの!』
「マチューさん。退避を! 月妖精は、何者かの支配下にあります!」
ノアは30層からの退避を指示する。
「馬鹿な!? 原因がわかったのに逃げてどうする!?」
「月妖精に対抗できる冒険者のランクは、完全魔導装備のBランク以上です!! 本気になれば逃げることすら出来ません!!」
フワフワと倉庫に浮遊する月妖精が空中で停止する。
『あっ! 正体がバレた時、全員殺せって言われてたな!? へへっ! みんな死んじゃおうか?』
我先にと逃げ始めた研究者たちに、数十本の魔法の矢が研究者たちを襲うが、レナータは事前に準備していた防御魔法を、ノアは【結界】スキルを発動させ防ぐ。
『おぉ〜。よく出来ました!! 遊びはこれからだよ? どんどんいくよ〜』
さらに数十本の魔法の矢が放たれ、ノアの結界とレナータの防御魔法は砕かれる。ノアはレナータを突き飛ばすと、倉庫の扉を内側から閉めるが、その胸には数本の魔法の矢が突き刺さる。
『あれれ? 俺の命をやるから彼女を助けろとかかな? そういうの大好きだけど、契約には逆らえないんだ。ごめん、ごめん。全員、死んでもらうよ?』
ノアの意識が薄れ行く中、火蜥蜴テッレルヴォと白浮霊のフェールケティルが、ノアを守るように現れた。
『うん? なんか同格来た!?』
怒りに燃える火蜥蜴テッレルヴォは、大きな口を開け火炎を放った。