第9話
赤毒蛇をどうにか助け出して屋敷に帰ると、お怒りのタムリンから無言でポコポコポコと何度も頭を叩かれた。
衛兵の詰め所で説教を済ませたマーシャルさんは、「それよりも夕食をお願い。こっちは珍しく走り回ってペコペコだよ」と、ありがたいことに助け舟を出してくれた。
ほっぺたとぷっくりと膨らませながらタムリンが夕食の準備のためキッチンへ消えると、マーシャルさんから「後でちゃんとタムリンに謝るんだよ」と言われたのを、就寝前に思い出したのだが…。また明日でいいか…。
ベッドの上に寝転がり一人反省会を開始する。
元々住んでいた小さな村レレと違い、ここは大きな商業都市サナーセル。今日のお兄さんのように悪い人もいる。つまり…疑ってかかれということなのか? 金貨を受け取るときも【鑑定】スキルを使っていれば偽金貨を見破れたし、お兄さんを追いかけるときも【索敵】スキルを使えばもっと楽に探せたかも…。
スキルは持っているだけじゃ意味が無いんだ。
何か問題が発生した時こそ、冷静さが必用なんだ。
自分の間抜けさと馬鹿らしさに不甲斐なさに腹が立って来て…悔しくて…情けなくて…。
うん! また明日から、頑張ろう!! と、気合を入れて目を瞑る。
あっ。そうだ…。【索敵】スキルを使いながら寝よう。【索敵】スキルを発動すると、ドアの向うに、タムリンがいることに気付く。
なんだろう? 何か言いたいのかな?
でも…今は、悪いけど会いたくないな。ごめんなさい。
【索敵】スキルを中断して…眠りに就く。
◆◇◇◇◇
翌朝、偶然にもタムリンよりも早く起きることが出来た。謝るチャンスは今しかなとばかりに、一階のキッチンでタムリンが来るのを待ち、タムリンが姿を現すと誠心誠意キチンと謝罪する。
最初は、プイッと目も合わせてもらえなかったけど、「お姉ちゃんとの約束は破りません」と宣言すると…何故か急にニコニコし始めて、許してもらえた。
「それじゃ…。タムリン。ノアは魔物の厩舎に行ってくるね」と仲直りしたタムリンに言うと、笑顔でバイバイと手を振ってくれた。
魔物の厩舎には、驚くことにマーシャルさんがいた。
「お、おはようございます!?」
「ノアかい。見てご覧。白姫狐だよ。昨日、エフェルフィーレの奴からハンターが冒険者ギルドへ売り飛ばしたって聞いてね。朝市に行ったら、見事に予想は的中、競り落として来たのさ」
「うわっー!! 凄いサラサラした毛並み!! 真っ白で綺麗…」
「触っちゃ駄目だよ!」
「わ、理解ってます…」
「白姫狐は気高く敏感でね。その寝顔は主人にしか見せないらしいのさ。とても可愛いという噂だよ」
「うっ、見てみたい!! …です」
◇◆◇◇◇
その日の深夜。こっそりと魔物の厩舎に侵入したが、危険を察知した白姫狐に睨まれてしまし、可愛い寝顔を見ることが出来なかった…。