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ノア・デモニウム・プリンセプス  作者: きっと小春
第二部 世界から消えた勇者
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第89話

 王族制度と貴族制度を撤廃して、平民が平民のために代表を選ぶ国が、キルスティ共和国だ。しかし、火蜥蜴(サラマンダー)を召喚したユリウスの様に、勝手に貴族を名乗り組織力を維持して、平民に圧力をかける者も少なくはない。


 それでも徐々に貴族も生き方を変えられるものは国に残り、あくまでも貴族に拘る者は国を去っていく。


「この大都市も、元々はとある子爵の屋敷を中心に発展した街なのだが、今はその中心よりも少し離れた場所に活気がある」


 そう説明したのは、ヨリック・ヴィルヘルム。ノアとレナータの実地調査をサポートする先輩だ。 ヴィルヘルム先輩は、没落貴族で盗賊落ち。心臓に爆破魔石を組み込まれることを条件に社会復帰したのだ。本人曰く、「仕事と住む場所があれば盗賊落ちなどしていない」とのことだ。


 ノアにはヴィルヘルム先輩を裁く権利などないので、今は先輩として頼りにしている。


「今から行く場所は、街中に地下に眠る巨大遺跡が発見されたことにより、急激な成長を遂げている地区だ。建物は乱立し、地下へ続く穴は無秩序に増えている」


 その話を聞いてから、目的の地区に入ると、波紋状に広がっていく美しい舞並みではなく、迷路のような複雑で汚い街並みだった。


「死角が多い街並みだ。それだけで犯罪率が他の地区と比べ物にならない。要請により冒険者ギルドからも巡回要員が増えているが、それでも犯罪者共の方が上手で効果はイマイチ。お前らも警戒を怠るなよ」

「「はい」」


 索敵のスペシャリストであるノア様には、地区の様子が手に取るように理解るのだが、犯罪者に襲われるリスクよりも、正体がバレるリスクの方に注意する必用がある。


 ドン!! 孤児の子供たちだろうか? ノアにぶつかってきた。自然を装っているがスリだ。銀貨4枚程度なら…いいかな? 堂々と恵むことは逆に悪なのだ。知らないふりをしてあげれば、この子たちは、今日はお腹いっぱいご飯を食べられるだろう。


「おい。待て」流石に元盗賊のヴィルヘルム先輩の目を誤魔化すことは出来なかった。


 ヴィルヘルム先輩は、子供たちの顔が原型を留めないくらい殴り続けた。これでも…犯罪者には優しい処置なのだ。


「ヴィルヘルム先輩!! お願いです。もう…止めてください。こ、子供たちが死んでしまいます」


 レナータは涙ながらに訴える。


「ある意味…ここで死んだ方が、こいつらのためだ」


 その通りなのかも知れないが…。ノアにはこの子たちを救うことはできない。それでもレナータは、ボコボコにされた子供たちへ苦手な治癒魔法で治療していた。


「か、かあちゃんが…死んじまう…。熱が…下がらないんだ…」


 その言葉を聞いたレナータは、仕事中にもかかわらず、必死にヴィルヘルム先輩へ子供の家に寄りたいと懇願する。


「あのな。子供たちに下手な期待を持たせるな。お前の治癒魔法で治るとも限らない。疫病、寿命、栄養失調、そもそも…死んでいるかも知れないのだぞ」


 使い魔の治療経験があるノアには理解できた。戦いの外傷と違い、原因を特定して治療することは、次元が違うほど難しいのだ。


 それに、ヴィルヘルム先輩は、そんな世界を嫌と言う程見てきたのだろう。言葉の重みが違った。

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