第86話
キルスティ共和国の大都市へと拠点を移したノアたちは、自分たちの実力に見合ったクエストをコツコツと熟していた。依頼者の要望をしっかりと把握し、親切丁寧な対応は、小さいながらも一定の評価を受けていた。そして少人数のパーティーと合同でクエストを受ける機会が多くなり、自然と合併しないかという話が持ち上がってきた。
冒険者ギルドの片隅で、その合併について話し合いが始まった。
「ノアのことは気にしなくていい。実は…冒険者ギルドからヘッドハンティングされてるんだ。勿論、断ったけど、今なら…間に合うかな?」
いつまでも商人のノアが冒険者として、レナータやマルティンと一緒にいるのは、好ましくないと、この大都市に来てからも散々言われてきたのだ。
「そろそろマルティンも本気で上を目指すべきだ。ノアはここにいるし、いつまでも友達だろ?」
マルティンも理解っていたはずだ。上を目指すためには、もっとしっかりとしたパーティーを組む必用があるのだ。
「お兄ちゃん。私も…ノアと一緒に仕事しようと思うの。パーティーを抜けるわ」
「お、おい!? いつからそんなことを考えていたんだよ?」
「お兄ちゃんは、私といると駄目になるわ。私も子供じゃない。いつまでもお兄ちゃんに守ってもらわなくても自分の道は自分で決められる。それにアルテシアさんという凄い魔法使いもいるしね」
「レナータさんが、私より劣っているということではありませんし、ネガティブな理由で抜けるわけでもありません。それぞれの将来への夢と意志の問題です。レナータさんとは事前にしっかりと話し合いをさせて頂きました」
三つのパーティーが一つになり、パーティーから外れた者は、また別の道を歩み始めた。
◆◇◇◇◇
ノアと魔法使いのレナータは冒険者ギルドの職員となる。二人でコンビを組みながら、冒険者ギルドの調査員として働く。仕事内容は、青子鬼事件であったように、冒険者が想定外の事件に巻き込まれたときの事後調査や、クエストの信憑性の調査、大都市周辺の魔物の生息調査などだ。
また母権者ギルド職員には、本当に寝るだけの小さな部屋が割り当てられる。これで無駄な出費が抑えられる!! 現在のノアの支出に関して言えば、働いたお金は全て使い魔のご飯代に割り当てられていた。灰刃狼のアウギュスタのように自由に狩りをさせることが出来ず、部屋の中で買った食料を与えていたのだ。
それに冒険者だとレナータとマルティンと同室のため、女性ということを隠すのが大変なのだ。
レナータには…本当の事を話すべきなのかな…。
正直言って、レナータもパーティーに残ると思っていたのだ。それがノアと一緒に働きたいと言ってきたのには驚いた。聞けば、レナータも同様に冒険者ギルドから、ヘッドハンティングされていたのだ。親切丁寧な職員が欲しいのだから、ノアとレナータが狙われるのも無理はない。しかし、マルティンに声はかからなかった。理由を聞くと、マルティンには冒険者として高みを目指す野心があり、ヘッドハンティングしても断られるだろうと判断したからだという。
何それ!? 冒険者ギルドの人を見る目って…尋常じゃないレベル! こ、怖い…。
ノアは12歳になっていた。レナータとマルティンに囲まれて三人だけだけど、素敵な誕生日会を開いてもらった。そんな12歳のノアは、下着姿のままベッドに寝っ転がる。ベッドの上には、銀溶液のペルペトゥア、白姫狐のカルメンシータ、灰刃狼のアウギュスタも一緒に寝っ転がり、白浮霊のフェールケティルが、火蜥蜴のテッレルヴォを抱き上げ、プカプカと空中を浮遊している。
5体の使い魔に囲まれるノアは至福のひと時を過ごす。後にノア・デモニウム・プリンセプスが語る三大苦難の一つが静かに静かに迫るのも知らずに…。




