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ノア・デモニウム・プリンセプス  作者: きっと小春
第二部 世界から消えた勇者
85/243

第85話

 三人だけの初クエストは大失敗に終わった。

 

 ノア達は、農村の復興依頼を受けるため、冒険者ギルドへ向かったが、「直接の原因ではないにしても、合同パーティーの一部のミスにより、村が壊滅したのは事実です。場合によっては、袋叩きにあう可能性があり、依頼の受諾を認められません」と断られてしまった。


 さらに、「冒険者にとって信頼関係は大切です。今回の事件は、各方面にかなりの遺恨を残してしまいました。貴方方の安全と今後の活動の足枷にならないように、遠くの街へ拠点を移すことをおすすめします」と言われてしまった。


 冒険者の世界では、特に珍しいことではない。現に今回の合同パーティーの中でも、他の街から流れてきたFランクの四人組パーティーたちが、それであった。


 そして、別れの時は、すぐそこまで迫っていた。


 冒険者ギルドに入ったノアは、いつもの席にいないはずのヴォルフを見かけた。


「なんだよ。ヴォルフ? 今日はどうした? ついに酒を買う金が無くなったか?」


 減らず口を叩くもお腹が大きく膨れたブリジットが一緒に来ている時点で察した。そして、ヴォルフが答えるよりも先に剣士のマルティンが口を開いた。


「ノア。俺とヴォルフとの契約は、あのクエスト終了までだ。言わば、あのクエストは卒業試験みたいなもんだったからな。

 元々、死んだ父さんとヴォルフはライバルで、小さい頃に何度もその話を聞かされててな…。修行をつけてもらうなら、ヴォルフだと決めていたんだ。

 おっと話がずれたな。

 えっと、冒険者ギルドに言われたことをヴォルフたちを話し合ったんだ。俺はこの街を出て行く。お前には俺に言えない事情があることも理解っているし、商人に拘っていることも。だけど、一緒に来てくれないか? そ、その…レナータも寂しがるし…」


 ノアは、ヴォルフ、ブリジット、ディーターを見た。三人は笑顔で頷く。最後にノアの父親という設定になっている森の狩人コンラートを見る。


「知ってたのか? 昨日…言ってくれれば…」


 こんなに嬉しくて…泣かなかったのに…。


 ノアはマルティンに抱きつく。


「お、おい…。男に抱きつかれても…うれしくねーよ」


 多分、いっぱい迷惑をかけるかも知れない。命を危険に晒すかも知れない。だから、レナータとマルティンとの別れは必然であり当然であると自分を言い聞かせてきた。だけど、一緒に来てと言われたら、我慢なんて出来ないよ…。


 そして、ヴォルフは言った。


「このときのために、昨日から酒を控えていたんだ! さぁ、飲むぞ!! ディーター! コンラート! 門出を祝して乾杯じゃ!! おっと…ブリジットは…お腹の子のために我慢してくれ…」


 ポートリムで出逢った四人と一緒に過ごした日々。二年にも満たないけど、ノアという人格と言うか心と言うか…ノアを作る重要な要素なのだ。欠かせない存在だ。どれだけ感謝してもしきれない。


 ノアは飲み慣れないぶどう酒をガブガブと飲み干す。


「みんらぁ、いいひとなのれすぅ! だいしゅきぃ!!」

「ノ、ノア? だ、大丈夫!?」


 レナータが心配するが、今日は…徹底的に飲むのです!!

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