第83話
※今回は、剣士マルティンの視点です。
人間って、絶望に追い込まれると、恐怖すら感じないんだな…。だけど、妹が魔法使いになりたいと言い出した、あの時に嫌われても良いから…止めるべきだったんだ。
Gランクの俺が見てもわかる。
圧倒的な力を持ったヴィルップってやつが、火炎で焼き殺され、対抗できそうな魔法使いさえ、火蜥蜴にダメージすら与えられていないじゃないか…。
次々と為す術もなく殺される冒険者たち。そして、ユリウスの標的が俺達に変わったこともわかった。
神様…俺の命を捧げます。だから…妹だけは…レナータだけは…助けてください。何でもします。助けてください!!
俺はブルブルと震える…レナータの手を握ることしか出来なかった。
そのときだ…。
灰壁馬の毛皮製の外套を着込んだノアが、俺達を守るように立ち塞がった。
何やってんだよ。あの馬鹿!!
「使い魔を人殺しの道具に使わないでください!!」
そんな言葉が通じる奴じゃないだろ!!
クソッタレが!! あんな、あんなヒョロヒョロの奴、好きじゃない!!
だが、あんな奴でも、死んじまったら…妹が悲しむだろっ!!
立ち上がろうとするが、脚に力が入らない…。
止めてくれ!! もう…大切な人を俺の目の前で、殺さないで…。
火蜥蜴が口を大きく開けて、火炎を吐き出そうとしていた。
父さん、母さん、俺…友達を守れなかった。レナータを助けられなかった。そっちに行ったら、沢山…説教を聞くから許してくれ!!
目を閉じ、死の瞬間を待つ…。
痛みがない!? 一瞬にして焼き殺されたからか? いや…そこまでの火力はないはず…。
ゆっくりと目を開ける…。俺、生きている!?
目の前には…変わらず、ノアが…立っていた。
「おい!! 見たか!? 火蜥蜴が消えたぞ!?」
「どうなってるんだ!?」
唯一無傷で残っている新人だが学校を卒業した六人組パーティー。そいつらが騒ぎ出した。
「俺たち…助かったのか?」
「あぁ…。だが…アイツは…ユリウスは殺しておかないと、後で責任を押し付けられるぞ」
「なら…。あっちの三人も殺しておいた方が?」
六人組はまとめておいた武器の山から己の武器を手に取り、ユリウスを殺害すると、俺達を囲んだ。
「助けてもらって悪いが…」
「使い魔を人殺しの道具に使わないせないでください!!」
灰刃狼のアウギュスタを従えたノアが叫んだ。




