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ノア・デモニウム・プリンセプス  作者: きっと小春
第二部 世界から消えた勇者
83/243

第83話

 ※今回は、剣士マルティンの視点です。


 人間って、絶望に追い込まれると、恐怖すら感じないんだな…。だけど、妹が魔法使いになりたいと言い出した、あの時に嫌われても良いから…止めるべきだったんだ。


 Gランクの俺が見てもわかる。


 圧倒的な力を持ったヴィルップってやつが、火炎で焼き殺され、対抗できそうな魔法使いさえ、火蜥蜴(サラマンダー)にダメージすら与えられていないじゃないか…。


 次々と為す術もなく殺される冒険者たち。そして、ユリウスの標的が俺達に変わったこともわかった。


 神様…俺の命を捧げます。だから…妹だけは…レナータだけは…助けてください。何でもします。助けてください!!


 俺はブルブルと震える…レナータの手を握ることしか出来なかった。


 そのときだ…。

 灰壁馬グレイウォールの毛皮製の外套を着込んだノアが、俺達を守るように立ち塞がった。


 何やってんだよ。あの馬鹿!!


「使い魔を人殺しの道具に使わないでください!!」


 そんな言葉が通じる奴じゃないだろ!!


 クソッタレが!! あんな、あんなヒョロヒョロの奴、好きじゃない!!

 だが、あんな奴でも、死んじまったら…妹が悲しむだろっ!!


 立ち上がろうとするが、脚に力が入らない…。


 止めてくれ!! もう…大切な人を俺の目の前で、殺さないで…。


 火蜥蜴(サラマンダー)が口を大きく開けて、火炎を吐き出そうとしていた。


 父さん、母さん、俺…友達を守れなかった。レナータを助けられなかった。そっちに行ったら、沢山…説教を聞くから許してくれ!!


 目を閉じ、死の瞬間を待つ…。


 痛みがない!? 一瞬にして焼き殺されたからか? いや…そこまでの火力はないはず…。


 ゆっくりと目を開ける…。俺、生きている!?

 目の前には…変わらず、ノアが…立っていた。


「おい!! 見たか!? 火蜥蜴(サラマンダー)が消えたぞ!?」

「どうなってるんだ!?」


 唯一無傷で残っている新人だが学校を卒業した六人組パーティー。そいつらが騒ぎ出した。


「俺たち…助かったのか?」

「あぁ…。だが…アイツは…ユリウスは殺しておかないと、後で責任を押し付けられるぞ」

「なら…。あっちの三人も殺しておいた方が?」


 六人組はまとめておいた武器の山から己の武器を手に取り、ユリウスを殺害すると、俺達を囲んだ。


「助けてもらって悪いが…」

「使い魔を人殺しの道具に使わないせないでください!!」


 灰刃狼(ブレイドウルフ)のアウギュスタを従えたノアが叫んだ。


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