第82話
「そうなるな…。全員武器を一箇所に集めろ。そしてヴィルップさんの支持に従え」
クレートさんは、剣を鞘ごと外し地面に置いた。
「巫山戯るなよ、クレート!! 俺らの経歴に泥を塗るつもりか!! 目撃者は全員殺せば良いんだよ!!」
ユリウスは、剣を抜きヴィルップさんに斬りかかるが、逆に剣を握る腕ごと両断された。
「あぁぁぁぁあっ!!!」
ユリウスのパーティーメンバーは、各々攻撃を開始するが、Cランク冒険者パーティーの前には赤子も同然であった。
魔法使いのレナータは、初めて人が人を殺すシーンを見たため、地面に朝食を吐き出してしまう。
全員が武器を一箇所に集めると、ノアはヴィルップさんに灰刃狼のアウギュスタの処遇を尋ねる。
「大丈夫。君とアウギュスタに悪意はないことはわかる。大人しくしていれば問題ない」
「ありがとうございます」ノアはペコリとお辞儀をする。
「お、お前…俺を…誰だと思ってやがる…。俺は男爵を父に持つ貴族だぞ!! それなのに…」他の街から流れてきたFランクの四人組パーティー唯一の生き残りである右腕を切断されたユリウスは、憎悪をヴィルップさんに向ける。
「君が誰であろうと関係ない。寧ろ貴族であれば、村に甚大な被害を与えた…その保証を請求できる」
「くっ…くそっ!! 絶対に殺してやるぅっ!!!」
ユリウスは左腕でペンダントを引き千切り、地面に叩きつけた。
パリンッと、吊り下げられていた宝石が割れ、中から…手のひらサイズの精霊である火蜥蜴が出現した。
「こ、こいつらを…皆殺しにしろ!!」
初めて見る精霊の使い魔にノアの心臓は高鳴る!! い、いや…それどころではない。
火蜥蜴と言えば、かなり強力な魔物である。高温の火炎に対する防御スキル、魔力を秘めた武器、水や氷の魔法などがなければ、一方的に虐殺されてしまうだろう。
火蜥蜴が口を開け、火炎をヴィルップさんに放つ。ヴィルップさんは炎に包まれ、激しく皮膚が焼かれ地面をのた打ち回る。
「ヒールを!!」ヴィルップさんのパーティーメンバーが近づくが、「させるかよ!!」とユリウスは、容赦なく火蜥蜴に攻撃させる。
新人だが学校を卒業した六人組パーティーは一目散に逃げ出そうとするが、火蜥蜴の作り出す炎の壁に行く手を阻まれる。
「誰一人として逃がすかよ…全員殺してやるよ」
攻撃手段も防御手段もない…。だけど…。だけど…。ノアなら…。でも、折角見つけた…新しい居場所を捨てるの? そ、そんなことを考えている場合じゃない…。殺されたら何もならないじゃない…。
ノアは…覚悟を決め…勇者のスキルを発動する…。