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ノア・デモニウム・プリンセプス  作者: きっと小春
第二部 世界から消えた勇者
80/243

第80話

 怯えて逃げてきた青子鬼(ゴブリン)の群れがこちらに向かってくる? しかし、それは【特定】スキルが齎す結果であり、一般的には知り得ない情報なのだ。


 怒りではなく怯え。Fランクの四人組パーティーと、新人だが学校を卒業した六人組パーティーの討伐漏れなのかな? う〜ん…。でも、青子鬼(ゴブリン)は、肉食であり農作物は狙わないんだよね…。確かに、村の近くに青子鬼(ゴブリン)がいたら問題だけどさ…。


 しかし、青子鬼(ゴブリン)の後を追うように、知らない6名の人間がいる。こっちのパーティーの討伐漏れ?


 討伐漏れ、討伐漏れかぁ…。討伐漏れってレベルの数じゃないんだよね。このままでは、この伐採チームにも村にも甚大な被害が出る。しかし、悔しいけどノアに出来ることは何もない。でも…どうにかして、ただの魔物の群れじゃないと教えないと大変なことになる。


 やがて灰刃狼(ブレイドウルフ)のアウギュスタが気付く距離になる。アウギュスタは耳をピンと立て、ノアの隣から離れると、隊列の先頭にいるマルティンの一歩前に出た。


「何か来ます。戦闘の準備を!」


 ノアの能力を疑わない魔法使いのレナータと剣士のマルティン。マルティンは戦闘準備を始めながら、クレートさんパーティーにも戦闘準備をするように伝える。


「うむ。アリアネ。上空から索敵を!」


 クレートさんの指示により、魔法使いのアリアネさんが、鷹を召喚して飛ばした。アリアネさんは目を閉じた。鷹と視覚を共有しているのだろう。


青子鬼(ゴブリン)です! しかも…物凄い数です!!」

「物凄い数じゃ理解らねぇ!! 30か? 50か? 100か!?」


 常に冷静なアリアネの悲痛な叫びに尋常じゃないと察知したクレートさんは、判断する材料を求めた。


「100、100以上は…います!!!」

「馬鹿な!! 正面から来るなら…このままでは村に直撃するではないか!!」

「た、退避だ…。騎乗している4人は、そのまま村に危険を知らせに帰ってくれ。青子鬼(ゴブリン)の脚よりも馬のほうが速い」


 当たり前の判断だ。伸び盛りのFランクの四人組パーティーとノア達三人組のパーティーだけで、太刀打ちできる数ではない。


「残りは、青子鬼(ゴブリン)の進路である、この場所から離れるぞ!」

「ま、待ってくれ! あんらは冒険者だろ!? む、村を救ってくれないのか!?」

「馬鹿言え! 100を超える青子鬼(ゴブリン)に数名で勝てるか! それより早く隠れなければならない。姿が見えれば確実に殺される。そして青子鬼(ゴブリン)は馬鹿じゃない。その周囲に仲間がいると考え、ここにいる全員が殺されるぞ!! あんたが下手な正義感をかざしていれば、その仲間も危険に晒されるんだ!! そこの小さな冒険者が助けてくれた命を捨てる気なのか!!」


 小さいは余計です! フードの中で、ほっぺたをぷっくりと膨らませて無言の抗議をすると、アウギュスタを呼び戻した。


 青子鬼(ゴブリン)の大群から身を隠すため、魔法使いアリアネさんの召喚した鷹が、上空から見つけた避難場所へ全員が走り出す。


 そして、隠れた場所から、まるで巨大な地竜が爆走するような、青子鬼(ゴブリン)の大群を見た村人は、自分の無謀な提案を悔いたのか、数時間後の村の様子を嘆いたのか、がっくりと膝を落とした。

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