第80話
怯えて逃げてきた青子鬼の群れがこちらに向かってくる? しかし、それは【特定】スキルが齎す結果であり、一般的には知り得ない情報なのだ。
怒りではなく怯え。Fランクの四人組パーティーと、新人だが学校を卒業した六人組パーティーの討伐漏れなのかな? う〜ん…。でも、青子鬼は、肉食であり農作物は狙わないんだよね…。確かに、村の近くに青子鬼がいたら問題だけどさ…。
しかし、青子鬼の後を追うように、知らない6名の人間がいる。こっちのパーティーの討伐漏れ?
討伐漏れ、討伐漏れかぁ…。討伐漏れってレベルの数じゃないんだよね。このままでは、この伐採チームにも村にも甚大な被害が出る。しかし、悔しいけどノアに出来ることは何もない。でも…どうにかして、ただの魔物の群れじゃないと教えないと大変なことになる。
やがて灰刃狼のアウギュスタが気付く距離になる。アウギュスタは耳をピンと立て、ノアの隣から離れると、隊列の先頭にいるマルティンの一歩前に出た。
「何か来ます。戦闘の準備を!」
ノアの能力を疑わない魔法使いのレナータと剣士のマルティン。マルティンは戦闘準備を始めながら、クレートさんパーティーにも戦闘準備をするように伝える。
「うむ。アリアネ。上空から索敵を!」
クレートさんの指示により、魔法使いのアリアネさんが、鷹を召喚して飛ばした。アリアネさんは目を閉じた。鷹と視覚を共有しているのだろう。
「青子鬼です! しかも…物凄い数です!!」
「物凄い数じゃ理解らねぇ!! 30か? 50か? 100か!?」
常に冷静なアリアネの悲痛な叫びに尋常じゃないと察知したクレートさんは、判断する材料を求めた。
「100、100以上は…います!!!」
「馬鹿な!! 正面から来るなら…このままでは村に直撃するではないか!!」
「た、退避だ…。騎乗している4人は、そのまま村に危険を知らせに帰ってくれ。青子鬼の脚よりも馬のほうが速い」
当たり前の判断だ。伸び盛りのFランクの四人組パーティーとノア達三人組のパーティーだけで、太刀打ちできる数ではない。
「残りは、青子鬼の進路である、この場所から離れるぞ!」
「ま、待ってくれ! あんらは冒険者だろ!? む、村を救ってくれないのか!?」
「馬鹿言え! 100を超える青子鬼に数名で勝てるか! それより早く隠れなければならない。姿が見えれば確実に殺される。そして青子鬼は馬鹿じゃない。その周囲に仲間がいると考え、ここにいる全員が殺されるぞ!! あんたが下手な正義感をかざしていれば、その仲間も危険に晒されるんだ!! そこの小さな冒険者が助けてくれた命を捨てる気なのか!!」
小さいは余計です! フードの中で、ほっぺたをぷっくりと膨らませて無言の抗議をすると、アウギュスタを呼び戻した。
青子鬼の大群から身を隠すため、魔法使いアリアネさんの召喚した鷹が、上空から見つけた避難場所へ全員が走り出す。
そして、隠れた場所から、まるで巨大な地竜が爆走するような、青子鬼の大群を見た村人は、自分の無謀な提案を悔いたのか、数時間後の村の様子を嘆いたのか、がっくりと膝を落とした。




